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絵じゃないかぐるーぷ
* 大魔じん、出陣
清香が、お祈りを終えたので、二人で外に出ていった。
朱雀は、空中に静止して、大きくはばたき、
強風を送り続けていた。
建物は、瓦が落ち、屋根が飛び、
パタリパタリと、倒れていっている。
「大魔じんさまは、まだかしら」
空を見上げて言う。
清香の言の葉が、剣のように突き刺さってきた。
{ああ、何ということをしたのだろう}
「ああっ、あの雲。きっと大魔じんさまに違いない」
清香の指差す東の空に、紫色に輝く雲が、
だんだんと近づいてきていた。
近づくにつれて、大魔じんの姿が、
はっきりと見えてきたのである。
朱雀大路に、ゆっくりと大魔じんが下りてきた。
すぐさま、大魔じんと朱雀の凄絶な戦闘が始まった。
朱雀の青い眼から、怪光線が走る。
その度に、たじろぐ大魔じん。
刀を抜き、その光線を反射させる。
朱雀がひるむ。
今度は、羽で強風を送り怪音を発しながら、
鋭い爪を立てて、襲ってくる。
よろける大魔じんの鎧の右の大袖が、
もぎ取られてしまった。
なおも執拗に、朱雀が攻撃をかける。
長い互角の戦いが続いた。
風を避けながら、前かがみになり、
渾身の一刀を大魔じんが振り下ろす。
朱雀の左の足の爪が、2本切り落とされた。
悲鳴を上げて、朱雀の身体は、
一瞬の内に消えてしまった。
その悲鳴を聞きつけて、残りの3獣神が、
怒涛のごとく押し寄せてきた。
大魔じん対残り三獣神の戦いとなった。
三獣神は連携をとりながら、波状攻撃をかけてくる。
青竜の武器は、口から吐き出す紅蓮の炎に、
眼から放つ雷光、ヨーヨーのような鋼鉄の玉である。
玄武は毒蛇を放ってくる。
毒蛇はトグロを巻いて回転しながら、飛んでくる。
噛まれれば、猛毒に倒されるのである。
刀で切りつけても、チャリンと音がして、
火花が散るだけである。
ブーメランのような動きをしていた。
白虎は、消えたかと思うと後から現われたりして、
神出鬼没の術を使っているので、捕らえがたい。
黄金の牙と黒い爪が武器である。
大魔じんは、三獣神に翻弄されていた。
いくら大魔じんといえども、
三匹も同時に相手にしたのでは、
適わなかったのである。
左の大袖がはずれ、脇楯が破られ、
草摺は、ぼろぼろとなっていた。
刀も折れてしまっている。
玄武の亀の甲羅を切りつけた時に折れたのである。
そんな姿になりながらも、大魔じんは、なおも戦っていた。
オヅヌたちは、朱雀大路の松の大樹の蔭から、
その戦いをしっかりと見守っていたのである。
四獣神は、オヅヌの願いを叶えてくれる、
ありがたい神であった。
しかしながら、清香の存在も、
無視するわけにもゆかなかった。
清香は、片手でオヅヌの腕をしっかりと掴み、
もう一方の手は胸に当てて、大魔じんの勝利を、
祈っているようであった。
呪文を小さくつぶやいていた。
オヅヌの心は、迷っていた。
四獣神に応援も送りたいし、清香の大魔じんを
軽視するわけにもゆかない。
四獣神に、京の街を滅ぼしてもらった所で、
数年も立つと、今以上に、立派に再建されるであろう。
その再建の主力となるのは、
毎日着飾ってうまいものを貪り食っているような、
連中ではなく、全国から集められる自分と、
似たような境遇の者ばかりである。
自分をイジメるような奴ばかりであるが、
中には、清香のような者がいるかもしれない。
いや、きっといるだろう。
よく考えてみれば、最後に本当に困るのは、
自分や清香ではないのかと思った。
己の怒りを、京の街にぶつけてみたところで、
怒りの元は、消えはしないのである。
京の街を滅ぼしたという自己満足も、
さらに立派に再建された京の街を見る事によって、
空しいものとなるであろう。
オヅヌは、執拗に繰り広げられる、
三獣神の攻撃に晒される大魔じんの中に、
己の姿を見いだしていた。
イジメられ、嘲られ、
馬鹿にされ続けた、
己の姿を、
はっきりと見たのだ。
つづく