ｃｏｐｙｒｉｇｈｔ （ｃ）ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
＊ ツーリングの怪
少し早めの梅雨あけ宣言もなされたが、心は晴れない。
チーコちゃんの居場所も、今だに解明されてない。
Ｍキラリーからのゲリラ報復の脅しもある。
八方ふさがりの状態である。
そんな憂欝な気分を一掃しようと、
私は、恒例の土曜ツーリングに出掛けた。
バイク乗りは、私の趣味の一つである。
土曜の休み、サタディ・ストローラーと称して、
ふらりと、出掛けるのだ。
私は、ずっとずーっと、一直線に伸びている道路を、
風を切りながら、ホントに気持よく走った。
一本線の旬走りの快走りである。
この世に、
不愉快なことなど、あるのかという気持になってくる。
風が、からりと乾いている。
両サイドは、紫草の咲き乱れる草原であった。
所々に、小川が流れ、木の橋が架かっている。
水は澄みきって、キラキラと輝き、
私に、Ｖサインを送ってくれる。
青い空に白い雲が、
あちらにぽっつり、
こちらにぽつりと、
浮かんでいる。
「スカッとするなあ、サヤカ」
「いいわねぇ」
Ｓサヤカが答えてくれる。
雨ばかり続き、しばらく走ってなかったので、
存分に走りを楽しむ。
風も、
道も、
空も、
草原も、
みんなみんな、ともだちだあ！
そんな時であった。
後から、黒い普通車が凄いスピードで、
近づいて来るのに気がついた。
ブオオーンと改造マフラーから、
轟音を撒き散らしながら、
バックミラーの中で、大きくなってくる。
真新しい黒光りのするヤツは、
道路の真中を、薄黒い煙を吹き上げて、
６０ｋｍで走っている、私との距離を、
アッという間に、縮めてくる。
私は、左端に寄り、「先にゆけ」と一本線の道を譲る。
ヤツは、追い越しては行かない。
３０ｍぐらい後で、私と同じスピードに、合わせてきたのだ。
おかしい！
さては、Ｍグループの１員だな。
ついに姿を現わしたか。
他に、車など、走っていない一本線の道路である。
ヤツは、何故追い抜かないのか？
後につかれると、気になって仕方がない。
運転している奴の顔を見ようと、
バックミラーを覗きこむが、
フロントガラスには、黒いフィルムが貼られているので、
全然わからない。
不気味だった。
しかし、ヤツは、別に私に危害を加えようとしたりはしない。
邪魔くさいので、私は、左のウインカーを出して減速した。
追い越してくれという合図だ。
ヤツも同じように減速してくる。
停車してやった。
やっぱり同じにしてくる。
なんちゅうヤツだ！
うるせぇーなあ。
後を振り向いて睨みつけてやったが、
ヤツは、何の表情も見せないので、気味が悪い。
中に、どんな奴が何人乗っているかわからないので、
降りて、抗議する勇気もない。
止まれば、じりじりと暑さが襲ってくる。
防護用に革製品で身を固めているから、なおさら暑い。
諦めて、また走りだす。
ヤツも当然ついてくる。
イライラしてくる。
癇走りに変わってきた。
こうなったら、奥の手を使おう。
サヤカに頼んで、道路の神様、一本線を呼んで貰った。
「うねくねっ！」
私は、一本線の配下の一人の名前を呼ぶ。
するとどうだ。
私の通った後の、
一本道が、
即、右にうねり、
左にくねる道路に早変わりしたのだ。
さすがは、道路を支配している神様のお力。
ヤツも面食らっているに違いない。
それまで、直線とばかり思っていた道路が、
一変して、山中の路のように変わったものだから、
ヤツも、さぞ驚いている事だろう。
後を、振り向いて見ると、何とも運転しにくそうに、
もたもたと、走っていた。
「うねくね、ありがとーっ！」
うるさい黒新車が撒けたので、
また続けて走る。
癇走りから並走りに変わる。
何１０分も同じ景色が続くと飽きてくるから、
感動が薄れ、普通の走りと変わらなくなってきている。
前から、大きな新車のトラックが、
やってくるのが見えた。
私は、気楽に走っている。
図体は、大きいが、対抗しているのだから、
トラック、も道を譲ってくれるだろうと、安穏としていた。
けれども、ヤツは、右側寄りに近づいてくる。
その内に、左に避けてくれるだろうぐらいにしか、
思っていなかった。
さらに近づくが、車線を変更する気配がない。
私は、足をブレーキに置いて身構える。
ああっ、やばい！
「ノボリン、クダリン！！」
助かった！
一本線が上り下りの急坂に変わる。
スピードが、ガタンと落ちる。
６０ｋｍで走っていると、ブレーキをかけてから、
止まるまでの停止距離は、
空走距離と制動距離とを合わせて、約４０数ｍ。
ヤツはもっと出していたはずだから、
正面衝突する可能性は、大いにあった。
運転手は、居眠り運転していたようだ。
私は、スピードが落ちたので、
道路外の草原に、ゆっくりとハンドルを切って、
警笛を鳴らしてやった。
運転手は、やっぱり船を漕いでいた。
単調な道のりなので眠りがついたのだろうか。
いや、Ｍキラリーが術をかけたに違いない。
目覚めた運転手が、窓から流し手を送ってくれた。
それにしても、一本線に、居て貰っていてよかった！
何か悪い予感がしていたので、
帰るのを待ってもらったのだ。
今日は、当分ついていて貰うことにしよう。
「ありがとうよ、一本線、ノボリン、クダリン！」
縮走りもいいところだった。
肝が、冷え縮まった。
今度は、前から、バイクの集団がやってきた。
私は、また身構えた。
２度あることは３度あるの諺もある。
スピードを極端にゆるめる。
私は単走り、彼らは群走りだ。
私には、単走りが合っている。
好きな所へ、自由にマイペースで走れるから、
一人で走るほうがいいのだ。
先頭の者が、Ｖサインを送ってくれる。
この歳になると、
自分から、Ｖサインを出すのは気恥ずかしい。
また昔、私が送ったのに無視した奴が居たので、
それ以来、自分からはＶサインは、
送らないことにしている。
しかし、向こうからしてくれると、
必ず送り返すことにはしているのだ。
慌てて送り返したので、変なサインになってしまった。
次から次へと、すれ違いざま、皆が送ってくれる。
だから、私はサインの出しっぱなし。
心は感走りとなる。
どうやら敵ではないらしい。
彼らは、オフロード隊のようだった。
Ｖサインのお返しに、
ヌカルミン、ジャリン、デッコンボコンの、
お出ましを願った。
彼らも、思わぬプレゼントに喜んでいることだろう。
後を振り向くと、嬌声をあげながら腰を浮かして、
ハンドルを切っていた。
舗装された道路が、
急に、ぬかるみ道、ジャリ道、凸凹道路に、
変わったものだから、チャレンジ精神丸出しで、
進んでいるようだった。
良かった、良かった。
しばらく、走り続けると、
一本線は一般道路にぶつかった。
道路の神様・一本線に礼を言い、お帰り願った。
Ｍキラリーのいやがらせも、
こう車が多いと、出来ないだろうと判断したからだ。
へたに術を使うと、奴等は味方同士で、
同士討ちする可能性が強い。
それに奴は、新車の車体に傷がつくことを極端に嫌う。
車に傷つけないようにして、私の運転ミスを誘う作戦を
使う気に違いない。
その手にのるものか。
ツーリングも事件が片づくまで、
当分、差し控えることにしよう。
つづく