ORGANIC STONE

私達は地球を構成する生命を持った石に過ぎないのですから。

ガリシアの光と影:海を飛ぶ夢(2004)

2007-01-01 01:14:14 | 映画:ミニシアター系
Mar adentro(2004)

 スペインのアレハンドロ・アメナバール監督、オスカーその他の賞を合計56個取った、実話を元にした作品です。日本では「魂を揺さぶる真実のラブストーリー」なんてコピーが付いていますが、そんなコピーでこの作品を表現する事は間違っていると思います。この作品のテーマはただ一つ、「尊厳死」。見終わった後、自分の命は誰の物なのか、そして生きると言う事の重さと意味を考えずには居られない作品です。

←ラモン(ハビエル・バラデム)とフリア(ベレン・ルエダ)。

 ガリシア地方に住む船員のラモン(ハビエル・バラデム)は28年前に起きた海での事故以来、首から下が不随でベッドに寝たきりでした。彼は自分の人生を自分で終わらせるべく、尊厳死を認めて欲しいと法廷に訴えます。彼を助ける弁護士フリア(ベレン・ルエダ)は自らも不治の病に侵されていて、自分も尊厳死を選択するつもりでした。そこにラモンのテレビ出演を見た村のシングルマザー、ロサ(ローラ・ドゥエニャス)が、ラモンの決心を変えようと尋ねて来ます。ストーリーはこのラモンと2人の女性の関係を中心に進んで行きます。実話を元にしているとはいえ、この女性2人にモデルが存在するかどうかは分かりません。しかしこの女性2人の存在によって、ラモンの心理や性格がより明確になるストーリーになっています。

←ラモンを見舞いに来たロサ(ローラ・ドゥエニャス)。

 ラモンは自分が冷静であり、動かない体で親族に世話をされながら生き続けることの無意味さを訴えるのですが、結局法廷は彼の尊厳死を認めませんでした。基本的に自分で死を選ぶ事は自殺と同じで認められない、との判断でした。彼はその判決を受け、計画を実行に移します。その計画を撮影したビデオのシーンは、この映画中もっとも見るのが辛い場面でも有りました。(私の推測でしか有りませんが、このビデオは実際に存在し、放映されたのでは無いかと思います。)決して気分のいい終わり方とは言えないのですが、このシーンがあることで死の重みと現実を目の前に突き付けられ、この映画をただの感動物語と言わせない強烈な印象を残します。「死」と「明確な理由を持って死ぬ事を選択する自由(尊厳死)」についてこれほど真正面から撮った映画はまだ見た事が有りません。この映画を見た時、私はスペインという国だからこそ出来た作品だな、と思いました。スペインの明るい太陽の影に、見えかくれする死のイメージ。いかに尊厳を持って勇敢な雄牛を殺すかが重要な闘牛や、市場に釣り下げられる小ぶたや血まみれのウサギ、新聞の一面を飾るテロや交通事故の犠牲者の写真。その写真は個人が特定出来るほどはっきりと写された無惨な死体でした。この国の倫理感はどうなっているのだろうか?と自問したものです。死を隠すのでは無く、現実として受け止める。激しく生き、そして激しく死ぬ。よくも悪くも、その鮮烈な死のイメージは私の脳裏に焼き付き、その原色のような明るくエネルギーに満ちたスペインの空気を思い出す時、影のように付きまといます。

 ラモン役のハビエル・バラデムはまだ30代(1969年生まれ)ですが、寝たきり状態の中年男性を真に追って演じます。若いころのラモンのシーンも有りますが、打って変わってふさふさの豊かな頭髪で若者らしくなり、ああ髪の毛って重要なのね、と思ってしまいました・・・
また、舞台となるガリシア州は元々はスペイン(カスティヤーノ)ではなく、ケルト系の人種の多い自治州です。魚介類が美味しいので有名です。行ったこと無いのですが・・・すごく行きたかったんですけどね・・・本当はカスティーヤ・デラ・コンポスティーラ巡礼の旅に行きたい。

←若いラモン役のハビエル・バラデムと、アレハンドロ・アメナバール。監督若いです~35歳です。

 間違い無くこの映画を見る人全てが感じること、それは自らの存在は無意味だ、と言うラモンその人の人間的な魅力です。その知性は尊厳死を思いとどまらせようと訪れたカソリックの神父との問答に顕著に現れます。弁論に長けた神父の問いかけをを明確で論理的な答えで返すシーンは、ラモンの哲学的思考が人並み以上のレベルであることを教えてくれます。ユーモアと知性に溢れた人間的魅力を持つ彼だからこそ、自分で自分の人生を終わらせたいと決心したラモン。しかし、最後まで誰も彼の選択が正しかったとは思っていませんでした。本人が望むから、彼のために彼の願いを聞いただけだったはず。なぜならそれは彼の命であり、誰のものでも無いのですから。

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2 コメント

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コメント (pointdpo)
2007-02-09 15:03:21
kimion20002000さま

>あの地方ではたいへんな権威への冒涜ですからね。
そうですね、カトリックでは特に「自殺」は忌むべき行為とされていますよね。「与えられた命を全うするべきだ」とのあの神父のいうことも全部間違っている訳ではないのでしょうが、自分の考えを押し付けるような物言いがラモンでなくても腹が立ちましたね。

でもどう見てもラモンのほうが、論理的に優れていました。あんな問答はカソリック宗教界では問題にならなかったのかなあ・・・といらぬ心配してしまいました。

それではまた!

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ラモン (kimion20002000)
2007-02-09 00:16:31
TBありがとう。
あのカソリックの神父との問答。
日本人には単に論争に勝った負けたの話になるけど、あの地方ではたいへんな権威への冒涜ですからね。
ラモンの勇気だと思います。
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