一滴の涙

準備開始

　翌日、選ばれた芸能人の所属先では、その代理店へ届ける申請書類作成のタイプ音が鳴り響く。申請に要する書類一式、旅券、芸能人を証明するカード、写真を持ち、代理店へ。代理店では、その招聘者毎に定められた書式へ、サイン等日本の招聘者へ届けるための申請書類作成に追われる。この書類作成でも何気なく考えられない光景が見受けられた。契約書なのか何なのかまったく分からない白紙の指定部分へ芸能人が署名している。しかも複数枚におよぶ。各個人毎にファイルされ、帰国時に間に合うように準備、あるいは送付の準備が進められる。その契約内容により、そのまま待機する者。早々に公演の内容に沿ったショーの準備、練習に入る者それぞれ。しかし、その多くは待機するものが多く見受けられた。
　準備が始まると、契約内容の確認が始まる。申請書類を作成する代理店の取り分すなわち手数料、当然、紹介したマネージャー、ブローカー、コーデネイター関わるものが複数人にもなり、実際働く芸能人の手元へは僅かな金額で、実際に契約した金額はまったく知らされない芸能人が多い。
書類の準備が終わると、健康診断が始まる。女性であるが故、妊娠などで出国を断念しないための事前健康診断である。指定された診断所にて行われる。血液検査、レントゲン、尿検査等の診断が行われる。フィリピン人芸能人は結核、肝炎　ＡあるいはＢに感染している者が結構多い。妊娠中の者もいる。結核、肝炎に関しては契約先へ連絡、診療状況で契約続行される場合が多い。妊娠は、フィリピンでは中絶は宗教上行われていないが、日本への夢が先走り、闇で中絶する者。薬物を多量飲み中絶する者。中絶を拒み、他人の尿を提出、巧妙に妊娠隠しをする者もいる。ここ10年程度は、ウルトラサウンドでの検査が行われ、的確に健康診断が行われているが、当初は、まったく論外な診断が多かった。様々な者がフィリピン全土から終結、以前の仕事も様々なことから、健康診断で、肺結核の末期、Ｂ型肝炎、覚醒剤中毒、中には性病患者まで様々である。その多くは、その時点で契約を解除されることが多い。軽症な者は治療を行いながら隠してしまうこともある。