先週「EBSCプログラム評価法研究会」に参加しました。
文部科学省の研究費による研究班の、年1回の研究成果報告会です。
ごくごく少人数の集まりだと思っていたのですが、あにはからんや。
寒い冬の平日の夜にも関わらず、60人くらい集まりました。
この領域での取り組みについて、関心が高まっているようです。
18時スタートの会議は、討論佳境の中、21時半に終わりました。
EBSCというのは、Evidence-Based Social Care の略です。
「(科学的)根拠に基づくソーシャルケア(サービス)」と、訳せば良いでしょうか。
EBM(evidence-based medicine, 根拠に基づいた医療)とか、
EBP(evidence-based practice, 根拠に基づいた実践)とか、最近やたら耳にしません?
世はまさに、「EB」流行り。
どの領域でも、結果(アウトカム)と根拠(エビデンス)が求められています。
当然と言えば、当然です。
当たり前と言えば、当たり前です。
誰しも、結果の伴わない治療なんて受けたくないし。
根拠のない治療なんて、危なっかしい民間療法と区別がつきません。
でも、数値で結果を求められても、難しい分野があるのは事実です。
医療分野で言えば、精神科の領域が、目に見える数値化がやはり難しいです。
福祉分野で言えば、ソーシャルワークの結果と根拠を示すのも難しいです。
このふたつが交わる、精神保健福祉に関わるPSWの仕事は、なおさら難しいです。
従来は、臨床実践経験に基づく知と技の集積が、根拠とされてきました。
今でも、やはり先輩の体験に基づく言語化された経験知の伝授が、主な教育方法です。
体験に基づく1対1のスーパーヴィジョン(SV)が、後進育成の主な方法になっています。
もちろん、対人援助サービスを生業とする以上、自身を訓練するのは当たり前です。
専門職とて、ひとりの人間ですから、生きてきた過程により、固有の価値観や心理的反応があります。
他者のケアに当たる前に、少しでも自己覚知を深めることが、どうしても必要です。
自分にはどんなもろさ、弱さがあり、他者にどんな反応をしがちなのか、何を注意しなければいけないのか…。
専門職としての、個人の学習・内省と訓練は、絶対に必要です。
これまでも、ソーシャルワーカーは専門職としての不断の自己検証は重ねてきています。
クライエントが課題を解決し、力をつけ、満足することは、専門職として励みにもなります。
でも、残念ながら、全く赤の他人の他者や社会には、それだけでは伝わりません。
象徴的なのが、政権交代した新しい政府による、行政刷新会議の事業仕分けでした。
多くの方がテレビで、あの仕分けの現場を目にしたはずです。
小泉内閣時代の新自由主義とはまた異なる位相での、結果と根拠が求められています。
若者自立塾が「廃止」という結論に至った時、僕はちょっと愕然としてしまいました。
もっぱら費用対効果の観点から、結果と根拠を示せと言われても…。
「地域移行支援特別対策事業」の退院実績数を、思わず考えてしまいました。
結果が求められています。
根拠が求められています。
PSWは、どのように根拠と結果を示せるのでしょう?
自らの仕事の結果と根拠を、数値で示すことには、多くのPSWが違和感を感じるはずです。
ソーシャルワーク実践の中核にある、社会福祉の理念や価値が、ないがしろにされる危惧が生じます。
クライエントの生き方や人生の意味が、数字にされてしまう不安を感じて、当然だと思います。
一人ひとりの人生に向き合う現場の実践と、エビデンスを追求する研究の視点には、まだまだ著しい乖離があります。
でも、お互いがそっぽを向いているだけでは、旧態依然たる社会福祉の枠に止まるだけです。
実践家は、より客観的に研究者の目を意識して、
研究者は、より現場の事情や背景を理解して、
相互に情報を提供し、成果を流通させ、切磋琢磨しながら、結果と根拠を導き出すことはできないでしょうか。
EBSCが、ソーシャルワークの現場実践と社会福祉の研究に、架橋する取り組みになればと願っています。
研究班の最終年度に向けて、来年は忙しくなりそうです。
(^_^;)
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「文科省EBSCプログラム評価法研究班研究会 2009年研究成果報告会」
2009年12月4日(金)18:00~21:30
○開会挨拶
大橋謙策(日本社会事業大学学長)
○研究班報告会
座長:佐藤 久夫(日本社会事業大学)、福井 里江(東京学芸大学)
① EBSCプログラム評価研究の意義と目的:今年度までの到達点と今後の研究活動について
大島 巌
② 障害者支援分野:障害者就労移行支援プログラム
小佐々典靖、佐藤久夫
③ 精神保健福祉分野:精神障害者退院促進支援プログラム
道明章乃、古屋龍太
④ 若者自立支援分野:ひきこもり・ニートへの就労支援プログラム
山下英三郎、原田郁大
⑤ 高齢者支援分野:認知症高齢者環境作りプログラム
児玉桂子
⑥ 児童福祉分野:被虐待児回復・援助者支援プログラム
藤岡孝志
⑦ 学校における啓発教育分野:メンタルヘルスリテラシープログラム
篁宗一、李載徳
⑧ 福祉分野における横断的なアウトカム指標研究
吉田光爾
⑨ 総括討論
指定発言:贄川信幸
○主催:文部科学省EBSCプログラム評価法研究班
共催:日本社会事業大学社会事業研究所社会福祉政策・プログラム評価部門
共催:文科省大学院GP・福祉サービスのプログラム評価研究者育成プロジェクト
※画像は、一橋大学の国立西キャンパス。
記事内容とは、全く関係ありません。