近年、「昭和30年代に米国の資金援助でキッチンカーと呼ばれる料理講習車が各地を走りパン食を広めたため、主食の座がお米からパンになった」という説を見かけます。お米の消費が減った原因がパンではないこと、お米が一人負けして消費が減ったことなどはこのブログで過去に何回も紹介していますので、ぜひ過去頁をご覧ください。
・小麦は戦前からあるってば https://blog.goo.ne.jp/ptamia/e/4d3336a33a347f5666c8acb7c39e2aef
・すぐ使える授業ネタ:米消費減の主因はパンではない!
https://blog.goo.ne.jp/ptamia/e/f54b534720a5feb8ce74cc5e8bbe837d
・松永和紀先生の「効かない健康食品 危ない自然・天然」をおすすめ!小麦戦略説は嘘だった!
https://blog.goo.ne.jp/ptamia/e/18bc1c8fcb80ae53beb611bbfe804905
ところが先日(11月29日夜)のNHKは、1978年放映のNHK特集「食卓の陰の星条旗」を再放送して、テレビ番組予告にキッチンカーが原因でお米の消費が減ったと明記してしまったのです。
実際に番組を見てみました。再放送にあたり番組冒頭とおしまいに池上彰先生と伊集院光さんのコメントを付け足して、お二人が代わる代わる「日本人はアメリカの策略にうかうか乗ってしまって戦後パンを食べるようになったんだ」と誤解をそのまんま話してしまったのです。二人の会話や本編の1978年の内容が、どちらも論理的に破綻しているので頭を抱え込んでしまいました。
番組では、「主食が米からパンに変わった」と繰り返し言っているものの、その主張を統計やデータで裏付けるものが一切提示されない上に、キッチンカーがパンを宣伝したとは番組中で誰も一言も言っていないし、キッチンカーで紹介している料理は麺類ばっかりだったのです!
録画した方は、私のこのブログと比較しながら、番組を再度見直してください。
ぼーっと見ているとキッチンカーが原因でパン食が広まったような印象を与える番組構成になっていますが、インタビューでの証言や画面の文字を丁寧に追うと、キッチンカーが原因であることを証明するものは一つも有りません。番組が映し出したキッチンカー料理は、そうめんや細めのうどん、クルミか大豆のようなものをすり鉢ですりつぶしたものでした。そうめんはそのまま食べたり野菜と一緒に油炒めにしていました。また、小さなグラスで日本酒に似た色の飲み物を飲むシーンや3センチ角ほどに切った餅か芋のようなもの、サラダという文字、おそらく菓子と思われる四角いまんじゅうのようなものも一瞬写っていました。しかし食パンや肉は一つも有りませんでした。
しかも、キッチンカーを資金援助した「アメリカ西部小麦連合会」のリチャード・K・バウム氏はNHKの取材に対して、キッチンカーで宣伝したのはパンではなく「小麦食品」(wheat foods)であるとはっきり証言したのです。字幕もきちんと「小麦食品」と書かれていましたので、当時の翻訳者は正確に翻訳していましたね。もしも宣伝したのが主にパンであれば、リチャード氏もブレッドなどだと言ったでしょうし、字幕もパンと書かれたはずでしょう。
そして、同じくNHKの取材を受けた、キッチンカーの日本側運営団体(財団法人日本食生活協会)の副会長松谷満子氏も、「米国側からの条件は、献立の中に小麦と大豆を使った料理が1品あれば良いという物だった。それ以外一切条件はありません。」と説明しました。
きっぱりと松谷さんが「キッチンカーの目的はパン消費拡大だろう説」を否定したのが悔しかったのでしょう。NHK取材班は、協会の壁に貼ってあったポスター(大豆をお箸で食べながら片手にフランスパンを握る少年のイラスト)を撮影して、松谷さんが「献立の中に小麦」と言った瞬間にこの写真を画面に提示しました。これはテレビ特有の、視聴者をミスリーディングさせるテクニックです。説明しましょう。
松谷さんの声は「小麦を使った料理」といっているのに、その瞬間に画面にパンのイラストが映ることで、視聴者は、松谷さんがしゃべった「小麦を使った料理」という言葉はパンに間違いないと思い込んでしまい、まさかそうめんなどを食べさせたとは想像もできなくなるのです。これはトーキー映画の初期からよく知られている、視聴者を誤解させるための映像トリックです。NHKは1978年からこんな印象操作をやっていたんですね。
番組を丁寧に見ると、キッチンカーはあくまでもそうめんなど麺類を宣伝していますし、また、番組の後半に登場する「10年前に米国政府が作った、米国農民向けの政府広報」の中には「米国が日本に、キッチンカーや学校給食で小麦を宣伝したので日本人もうどんなどの小麦加工食品や、特にパンを食べるようになった」というデマが盛り込んでありました。え?それがなんでデマだと分かるかって?映像を見ればすぐ分かるから簡単ですよ。
だって昭和40年代の夕飯に、家族そろって外出用の着物を着て、うどんを汁をかけずに冷めたまま直径30センチほどの平皿にのせてみんなで箸でつつき合い、食パンと小麦トッポギ(韓国の食材)と味噌汁と牛乳と一緒に食べているんですよ。小学生の女の子が黄色い和服を着込んで、平皿に乗った真っ白なうどんを一生懸命口に入れていましたが、当時の少女はちびまるこちゃんのような洋服を着て暮らしていました。和服を着るのは盆踊りと七五三ぐらいでしたよ。腹を抱えて笑うでしょ、これ。
めんつゆを一滴もかけてない、真っ白で冷たいうどんなので、箸で持ち上げると団子状にくっついてしまっている。これを手のひらほどの平らな小皿(!)に取り分けて真っ白なまま口の中に入れています!!日本では食品ごとに器が細かく規定されているのを知らなかったんでしょうね。
こんなのを演じたからには、この人たちは日本人でさえなかったことでしょう。アメリカ国内でセットを作って、日本文化をよく知らないスタッフが東洋人にテキトーに演技させた画像です。つまり、1968年に米国政府は、米国国内の農家を奮い立たせるために、「日本人は米国産小麦をこんなにたくさん食べています」というデマ映像をこさえた、ということが分かりました。
そんなでたらめな米国政府広報の「米国が日本に、キッチンカーや学校給食で小麦を宣伝したので日本人もうどんやパンを食べるようになった」という台詞が真実であると考える方がオバカですよ。本当は戦前から日本人はうどんやパンを食べていたんですが、米国政府がアメリカ農民の支持を得るために「我々米国人が指導したおかげでうどんやパンを食べるようになったんだ」と見栄を張って見せたんですよ。
でも、この、米国政府が農民に使ったおべんちゃらは、実は日本政府にとっても都合が良かった。NHKがこの番組を作ったのは福田赳夫内閣時代です。当時の日本の農民は「何故米余りになったのか。日本政府は何をしてるんだ」と激怒して、各地で大集会を開き、特に米価審議会というお米の価格を決める会議では大規模デモが行われたんです。そんな時に、NHKが日本の農家に「皆さんが苦しんでいるのは日本政府の失政ではなくて、アメリカの戦略が原因ですよ」という話を吹き込むのは、福田総理や福田派(清和会、後の安倍派)にとっては日本の農家のガス抜きをするとっておきの話術だったわけです。
池上さんも伊集院さんもそれなりの年齢だからこの番組がどれほど馬鹿馬鹿しいか分かっているはずだし、この番組を理性的な大人がクリティカルに見れば、「パンを食べたから米消費が減ったんだ」と繰り返ししゃべっているのに一切因果関係の証拠を提示していないと分かるはずです。そして池上さんや伊集院さんは本来そういう知性の方と思っていたのですが。明治時代からあんパンを食べていた国と知ってるはずなのに伊集院さんったら「パンを食べるようになったのは戦後なんですね」とボケをかましてくれるので驚きました。まさかどこかの政治家にそう言えと言われたんではないかと心配します。
・小麦は戦前からあるってば https://blog.goo.ne.jp/ptamia/e/4d3336a33a347f5666c8acb7c39e2aef
・すぐ使える授業ネタ:米消費減の主因はパンではない!
https://blog.goo.ne.jp/ptamia/e/f54b534720a5feb8ce74cc5e8bbe837d
・松永和紀先生の「効かない健康食品 危ない自然・天然」をおすすめ!小麦戦略説は嘘だった!
https://blog.goo.ne.jp/ptamia/e/18bc1c8fcb80ae53beb611bbfe804905
ところが先日(11月29日夜)のNHKは、1978年放映のNHK特集「食卓の陰の星条旗」を再放送して、テレビ番組予告にキッチンカーが原因でお米の消費が減ったと明記してしまったのです。
実際に番組を見てみました。再放送にあたり番組冒頭とおしまいに池上彰先生と伊集院光さんのコメントを付け足して、お二人が代わる代わる「日本人はアメリカの策略にうかうか乗ってしまって戦後パンを食べるようになったんだ」と誤解をそのまんま話してしまったのです。二人の会話や本編の1978年の内容が、どちらも論理的に破綻しているので頭を抱え込んでしまいました。
番組では、「主食が米からパンに変わった」と繰り返し言っているものの、その主張を統計やデータで裏付けるものが一切提示されない上に、キッチンカーがパンを宣伝したとは番組中で誰も一言も言っていないし、キッチンカーで紹介している料理は麺類ばっかりだったのです!
録画した方は、私のこのブログと比較しながら、番組を再度見直してください。
ぼーっと見ているとキッチンカーが原因でパン食が広まったような印象を与える番組構成になっていますが、インタビューでの証言や画面の文字を丁寧に追うと、キッチンカーが原因であることを証明するものは一つも有りません。番組が映し出したキッチンカー料理は、そうめんや細めのうどん、クルミか大豆のようなものをすり鉢ですりつぶしたものでした。そうめんはそのまま食べたり野菜と一緒に油炒めにしていました。また、小さなグラスで日本酒に似た色の飲み物を飲むシーンや3センチ角ほどに切った餅か芋のようなもの、サラダという文字、おそらく菓子と思われる四角いまんじゅうのようなものも一瞬写っていました。しかし食パンや肉は一つも有りませんでした。
しかも、キッチンカーを資金援助した「アメリカ西部小麦連合会」のリチャード・K・バウム氏はNHKの取材に対して、キッチンカーで宣伝したのはパンではなく「小麦食品」(wheat foods)であるとはっきり証言したのです。字幕もきちんと「小麦食品」と書かれていましたので、当時の翻訳者は正確に翻訳していましたね。もしも宣伝したのが主にパンであれば、リチャード氏もブレッドなどだと言ったでしょうし、字幕もパンと書かれたはずでしょう。
そして、同じくNHKの取材を受けた、キッチンカーの日本側運営団体(財団法人日本食生活協会)の副会長松谷満子氏も、「米国側からの条件は、献立の中に小麦と大豆を使った料理が1品あれば良いという物だった。それ以外一切条件はありません。」と説明しました。
きっぱりと松谷さんが「キッチンカーの目的はパン消費拡大だろう説」を否定したのが悔しかったのでしょう。NHK取材班は、協会の壁に貼ってあったポスター(大豆をお箸で食べながら片手にフランスパンを握る少年のイラスト)を撮影して、松谷さんが「献立の中に小麦」と言った瞬間にこの写真を画面に提示しました。これはテレビ特有の、視聴者をミスリーディングさせるテクニックです。説明しましょう。
松谷さんの声は「小麦を使った料理」といっているのに、その瞬間に画面にパンのイラストが映ることで、視聴者は、松谷さんがしゃべった「小麦を使った料理」という言葉はパンに間違いないと思い込んでしまい、まさかそうめんなどを食べさせたとは想像もできなくなるのです。これはトーキー映画の初期からよく知られている、視聴者を誤解させるための映像トリックです。NHKは1978年からこんな印象操作をやっていたんですね。
番組を丁寧に見ると、キッチンカーはあくまでもそうめんなど麺類を宣伝していますし、また、番組の後半に登場する「10年前に米国政府が作った、米国農民向けの政府広報」の中には「米国が日本に、キッチンカーや学校給食で小麦を宣伝したので日本人もうどんなどの小麦加工食品や、特にパンを食べるようになった」というデマが盛り込んでありました。え?それがなんでデマだと分かるかって?映像を見ればすぐ分かるから簡単ですよ。
だって昭和40年代の夕飯に、家族そろって外出用の着物を着て、うどんを汁をかけずに冷めたまま直径30センチほどの平皿にのせてみんなで箸でつつき合い、食パンと小麦トッポギ(韓国の食材)と味噌汁と牛乳と一緒に食べているんですよ。小学生の女の子が黄色い和服を着込んで、平皿に乗った真っ白なうどんを一生懸命口に入れていましたが、当時の少女はちびまるこちゃんのような洋服を着て暮らしていました。和服を着るのは盆踊りと七五三ぐらいでしたよ。腹を抱えて笑うでしょ、これ。
めんつゆを一滴もかけてない、真っ白で冷たいうどんなので、箸で持ち上げると団子状にくっついてしまっている。これを手のひらほどの平らな小皿(!)に取り分けて真っ白なまま口の中に入れています!!日本では食品ごとに器が細かく規定されているのを知らなかったんでしょうね。
こんなのを演じたからには、この人たちは日本人でさえなかったことでしょう。アメリカ国内でセットを作って、日本文化をよく知らないスタッフが東洋人にテキトーに演技させた画像です。つまり、1968年に米国政府は、米国国内の農家を奮い立たせるために、「日本人は米国産小麦をこんなにたくさん食べています」というデマ映像をこさえた、ということが分かりました。
そんなでたらめな米国政府広報の「米国が日本に、キッチンカーや学校給食で小麦を宣伝したので日本人もうどんやパンを食べるようになった」という台詞が真実であると考える方がオバカですよ。本当は戦前から日本人はうどんやパンを食べていたんですが、米国政府がアメリカ農民の支持を得るために「我々米国人が指導したおかげでうどんやパンを食べるようになったんだ」と見栄を張って見せたんですよ。
でも、この、米国政府が農民に使ったおべんちゃらは、実は日本政府にとっても都合が良かった。NHKがこの番組を作ったのは福田赳夫内閣時代です。当時の日本の農民は「何故米余りになったのか。日本政府は何をしてるんだ」と激怒して、各地で大集会を開き、特に米価審議会というお米の価格を決める会議では大規模デモが行われたんです。そんな時に、NHKが日本の農家に「皆さんが苦しんでいるのは日本政府の失政ではなくて、アメリカの戦略が原因ですよ」という話を吹き込むのは、福田総理や福田派(清和会、後の安倍派)にとっては日本の農家のガス抜きをするとっておきの話術だったわけです。
池上さんも伊集院さんもそれなりの年齢だからこの番組がどれほど馬鹿馬鹿しいか分かっているはずだし、この番組を理性的な大人がクリティカルに見れば、「パンを食べたから米消費が減ったんだ」と繰り返ししゃべっているのに一切因果関係の証拠を提示していないと分かるはずです。そして池上さんや伊集院さんは本来そういう知性の方と思っていたのですが。明治時代からあんパンを食べていた国と知ってるはずなのに伊集院さんったら「パンを食べるようになったのは戦後なんですね」とボケをかましてくれるので驚きました。まさかどこかの政治家にそう言えと言われたんではないかと心配します。