タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

それはコロナ患者に失礼では、坂本龍一さん・・・・・

2020年06月04日 | Weblog
ウェブマガジン「GQ」2020年5月25日「教授動静第22回」で、坂本龍一さんはコロナ患者を「バチ当たり」と表現していたので、私は志村けんさんを思い出して泣いてしまいそうになりました。
坂本さんは取材にこう答えたのです。
「日本にいるときにニュースで見たんですけど、町のふつうのおばちゃんが”コロナ?人間が調子に乗ったバチでしょう。自然が怒っているのよ”って、さらっと言っていたんです。」と。坂本さんは、こういうアニミズム的な発想こそが欧米より優れている点だと得意になって話していましたが、コロナが「自然が人間に与えた罰」ならなぜ何の罪もない方が病や貧困で苦しむのですか。

自然が人間に対してバチを与えるなら、大震災の結果、何の罪もない福島の方々が東京の人間の肩代わりをして苦しんでるのもバチですか?そうじゃないでしょう。自然が人間にバチを与えるなんて言い方は弱い者いじめだから止めてください。

昔の日本では、「食べものを粗末したバチが当たった」と障害者をいじめたり、「なんかのバチが当たったのさ」と病人を隔離して堕胎や自殺に追い込む苛烈な差別をしていたのです。こんな悲惨な歴史を繰り返してはなりません。坂本さんには歴史の勉強をしてほしいと思いました。

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和食の定義は不可能。熊倉功夫先生「和食という文化」2

2020年05月25日 | Weblog
「カレーって和食?ラーメンは?」そんな記事が朝日新聞の2月13日記事に載りました。その記事によれば、観光庁が2018年、訪日外国人客に満足した食品を聞いたところ、1位が肉料理、2位がラーメンだったとのこと。ラーメンは中華料理か和食か、実に悩みます。日本経済新聞の5月10日「文化時評」欄記事はさらに一歩踏み込んでいます。

以下、その記事を引用します。
和食文化学会会長を務める佐藤洋一郎京都府立大特別専任教授は「食文化は変容するから、和食を無理に定義したら陳腐化する。海外の変わったすしを見て、『こんなのすしじゃない』と言っても、30年後には『これもすし』になっているかもしれない」と話す。

この説明はすごくわかりみが深いのでタミアも納得します。1980年代にカリフォルニアロールやサーモンの寿司がアメリカで人気になって日本にも紹介された時、大人達が「こんなの寿司じゃない。」と絶句していたのを覚えているからです。今、サーモン寿司は当たり前のメニューですよね。

このように、和食というのは年と場所で移ろうから定義が難しいのです。和食について誰にでも当てはまるような定義は不可能。だから和食を語る時は「私が言う和食は、このようなイメージです。」と説明して、ボタンの掛け違いを回避するのが大事ですね。

佐藤教授の発言は事実上「和食の基本は一汁三菜」という言葉の否定です。なんせ、このキャッチフレーズ、和食がユネスコの無形文化遺産に登録された2013年12月時点では文書のどこにも書いてないのです。
このフレーズは2015年のミラノ万博の日本館のキーワードで、その頃に急に広まりました。一部の学者は、「一汁三菜を実施できるほど経済的に豊かだった時代は1970年代後半からの短期間のみ」「というか専業主婦が一番多かったこの時代でさえも、多くの家庭は一汁二菜」等、いろいろ指摘していますので、このブログの過去記事をごらんください。関係があるのかどうかは分かりませんが、ミラノ万博のプロデューサーは電通です。

「和食の基本は一汁三菜だ」 というキャッチフレーズは、謎マナー講師には気持ちが良いけど、そばやうどんや寿司や地方文化には失礼です。謎マナー講師とは、「そんなマナーって存在してたっけ?」なマナーを創作・指南してる人たち。江戸しぐさがよい例ですね。

そのようなわけで、和食研究で有名な熊倉功夫先生が書いたNHKテキスト「こころを読む 和食という文化」も、「一汁三菜」の解説がぐらぐらと揺らいでいます。

このブログで以前(2016年4月)にも紹介しましたが、熊倉先生は産経ニュース2014年1月6日で「和食の基本が一汁三菜」と示す古い文献が一つもないことを指摘しています。2014年3月5日付けのALICの消費者コーナー「トップインタビュー」においても、熊倉先生は「お菜が三つでなければならぬと思われては困ります。汁とご飯とお菜と漬け物という四つの要素からできているのが和食の基本」と指摘しています。
つまり熊倉先生は、和食ユネスコ登録直後に何者かが「和食の基本は一汁三菜」と話し始めたのを知って警戒したから、即座に2つのメディア上で一汁三菜説を否定したわけ。

それなのに熊倉先生は、2020年1月1日発行「こころを読む 和食という文化」で、平安時代の「病草紙」という病気カタログの挿絵で歯周病の男性の前におかずが3つ置いてある、というたった1つの情報を根拠に「平安時代の末には家庭料理の定型として一汁三菜が成立していたのです。」(27-28頁)、と断定してしまってます。このブログでも以前に書きましたが、その絵巻は病気カタログ集で、病気の苦しみを表現するのが目的なので、歯周病の苦しみを強調するためにおかずの品数を増やして描いている可能性が高いから、食文化史の資料としては信頼性が低いんです。

しかも熊倉先生は「一汁三菜が成立していたのです。」と断定する文章の直後(28頁)で、おかずが3つあるのは上層の庶民か特別なごちそうの時だから、「極端な場合、庶民は汁と漬物だけでした。」と書いています。ということは、家庭料理の定型として一汁三菜が成立していたという前段の文章は言い過ぎだと認めているのです。

先生もなんども言葉を翻すところをみると、よほど苦悩されて文章を書かれているのだろうと推察します。いったいだれがどのような理由で、先生になんども前言を撤回させているのでしょう。胸が痛みます。

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5月3日日経の「阪大岡田教授の研究成果」図解は、誤解を招く内容で残念です。

2020年05月04日 | Weblog
日経の科学記事は、有名新聞の中でもレベルが高いことで知られていて愛読しています。でも、最近少しレベルが落ちているように思います。ゲノムネタは、研究スピードの早さと蛸壺化激化で、正確な記事を書くのは大変難しいと分かるので、こんなことをお願いするのは少々申し訳ないなと思いつつも、今後の科学記事の充実のために、指摘したいと思います。

今回の記事は、大阪大学の岡田随象先生の「ゲノムから日本人の特徴が分かってきた」という趣旨の研究成果を紹介したものですが、解説図が、先生の研究の意図や結論について間違って解釈していて、結果的に読者に大変大きな誤解を与えるのです。

どういう図かというと、まず、日本人男性の絵に「解析で分かったこと 酒に弱い、太ると心筋梗塞や虚血性脳卒中になりやすい・・・・」と書いてあります。そこまではOK。でも、その真下に「欧米人の特徴は違う」と金髪碧眼の男性の絵を描いて「パンを食べる」と書いて、パンを食べる人物像も添えられています、この図を見たら誰もが確実に「ゲノムを研究したら欧米人の特徴はパンを食べることと判明したのか。欧米人はパンを主食にするとDNAに書かれているが、日本人にはDNAにパンが書かれてないのか。」と思うことでしょうが、それ、岡田先生の言いたいことと全然違いますから!!

岡田先生の研究は、阪大のプレスリリースのタイトルを引用して、こういうことです「日本人と欧米人の適応進化に関わる遺伝子領域や形質を特定~日本人はお酒、欧米人はパンが深く関与~」。このタイトルは、新聞の挿絵のような「ゲノムを研究したら、欧米人はパンを食べることが分かった」という意味ではありません。先生の研究は、「SNP」という、遺伝子の中の一つの塩基が別の塩基に置き換わることについて調べる研究です。

岡田先生は、日本人と欧米人のSNPの変化を調べた。そうしたら、日本人は、お酒の摂取量や閉経年齢などと、SNPに強い「何かの関係」があった。当然ですが、「日本人は全員酒を飲まない」「日本人女性は全員閉経年齢が遅い」という話じゃありません。「酒に強い弱いの個人差や閉経年齢の早い遅いの個人差がSNPと関係があるんだよ。」という研究です。それと同じことで、欧米人の場合パンやシリアルの摂取量や握力が異なる人の間でSNPの変化が目立ったが、欧米人は全員パンを食べてシリアルを食べて握力が強いわけじゃありません。

というわけで阪大プレスリリースにもはっきり書かれています。
「今回採用した遺伝統計解析手法ASMCは、各遺伝子領域における適応進化の強さを議論できるものの、その方向性については議論することができません。同定した適応進化に関わる形質が、各集団における生存に有利・不利のどちらに働いていたのかは、既知の一部の形質(例:日本人集団はお酒に弱くなる方向に進化、欧米人集団は背が高くなる方向に進化)を除いて不明のままです。」

小中学校の方もこのブログを見ているので、先のプレスリリースをうんと簡単にして説明を補うと、こういうことです。「今回のデータ解析方法では、遺伝子の微細な変化が分かったけど、それが生き残りに良いか悪いかではっきりしてるのは、日本人だとお酒、欧米人だと背丈の遺伝子ぐらいだった。」ということ。

阪大プレスリリースと岡田先生の原論文を見ると、事前にアンケートでパンを食べる量やシリアルを食べる量や握力など様々なことが分かっている方の、SNPを調べたら変化が目立つけど、それに何の意味があるのか全く謎だ、というものでした。しかもその「欧米人」とは、岡田先生の原論文によると、UK Biobankというデータベースから、オックスフォード大のPalamara先生らがBritish ancestryの方々を選んで分析した研究(2018年)に基づくので、「欧米人」というくくりは正確ではありません。イギリス起源と判定された方々の遺伝子の分析結果が「欧米人」と日本の新聞に紹介されていると知ったら、イタリア起源のお名前のPalamara先生はたぶん渋い顔をされることでしょう。

頭がこんがらがって「それにしても日経記事本文には、欧米人が背が高くなるように進化したことについて、こう書いてますよ。『岡田教授は「欧米人はパンをたくさん食べて体を大きく強くしたのだろう」と推測する』と。欧米人というのがブリティッシュ起源の方々だとは分かったが、するとイギリス人の体にはパンが合うが、日本人はパンが合わないって研究結果か?」て誤解する方がきっといると思うけど、それは頭がこんがらがってるだけですから。
整理しましょうね。例えば仮に岡田先生に記者が、「欧米人は背が高くなるよう進化したが、何を食べてたんでしょうね?」と質問したら、先生は「肉が大量生産されて誰でもたくさん食べられるようになったのはここ100~200年だから、それ以前はパンをたくさん食べていたでしょうね。」と答えることでしょう。で、そう答えたら、この記事になります。

意味が分からないという方に別の角度から。スウェーデン人は背が高く、しかも、昔は貧しい国だったので、小麦は滅多に食べられなかったんで、オーツやライ麦や魚類、ジビエなどを食べていました。で、仮に、記者が専門家に「スウェーデン人は背が高い方に進化したが、何を食べてたんでしょうね?」と質問したら専門家は「タンパク質やカルシウムを補給したものと言えば魚ですねえ。」と答えます。すると当然ながら記者は「スウェーデン人が背が高くなるように進化したが、専門家は、スウェーデン人は魚で巨体を維持していたと推理している。」と書きますよね。そこから「スウェーデン人は魚が合うが日本人は魚が合わない」という話を引き出せませんよね。それと同じことです。

だから、この記事をネタに「欧米人の体に合うものと日本人の体に合う物は異なるのだ」と勘違いしたら、岡田先生が悲しむから、誤解しちゃ絶対だめですよ。
それから、一言、この日経のイラスト、「日本人の顔」は正面を向いた優しい瞳と口角の上がったにこやかな口元ですが、「欧米人の顔」は三白眼で口元がきゅっと締まってにらみつけるような怖い顔なんです。まさか欧米人への印象操作が目的じゃないですよね?


(参考)
大阪大学の発表(日本語)はこれ。
http://www.med.osaka-u.ac.jp/activities/results/2020year/okada2020-01

論文がこれ。
Genome-Wide Natural Selection Signatures Are Linked to Genetic Risk of Modern Phenotypes in the Japanese Population
 Molecular Biology and Evolution, Volume 37, Issue 5, 20 January 2020

Palamara先生の先行論文(ブリティッシュ起源と判定した方の遺伝子を分析しました、と記載されている。)はこちら。ネィチャージェネティクスの論文。
Nat Genet. 2018 Sep; 50(9): 1311–1317. doi: 10.1038/s41588-018-0177-x.
High-throughput inference of pairwise coalescence times identifies signals of selection and enriched disease heritability
Pier Francesco Palamara, Jonathan Terhorst, Yun S. Song, and Alkes L. Price

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1975年の食の健康性を過信するなと熊倉功夫先生が指摘。「和食という文化」1

2020年04月20日 | Weblog
和食研究で有名な熊倉功夫先生。先生が書いたNHKテキスト「こころを読む 和食という文化」をやっと入手。忙しかったので入手そびれて、やっと読みました。実に興味深い本です。熊倉先生も忙しい中でお書きになっている様子です。 読みどころ満載なので、数回に分けて内容をご紹介します。

今回は、あの有名な東北大学の都築毅先生の研究成果から出た「1975年ごろの食事が健康に良い」説の致命的欠陥を、熊倉先生が指摘したことを紹介します。両者ともアプローチ手法は別ですが「和食は良い」という点では一致されている方ですが、実は都築先生ご本人が、ご自身の研究結果を人間にあてはまることについて慎重な立場を表明されてもいるので、都築先生もこれを聞いたらむしろ安堵されるのかもしれません。

熊倉先生は同書の166頁以降で、都築先生の研究手法を説明しました。1週間分の献立をいちどに作り、これを全て混ぜて粉砕し、粉食にして、ラットに与えたことを。そして熊倉先生はなんと3頁にもわたって、攪拌して粉食にする前にはどんな料理だったのかを一覧表として載せています。例えば、ラットに与えられた「1975年の日本人の食事」の欄には、伝統的メニューに混じってサンドイッチ・コンソメスープ・ベーコンエッグ・オムレツ・クリームシチュー・フルーツヨーグルトなどの洋風のメニューがたくさん含まれることが示されました。

あの~~~私ですが~~~この3ヶ月間にコンソメスープもベーコンエッグもオムレツも全く食べてないので、この「1975年のメニュー」は令和の私の食事よりも洋風で大変驚きました。熊倉先生はこの研究について「和食の中でも一九七五年ごろの和食が日本人の健康を守る上で、すばらしい食文化であったことを、科学的に証明した画期的研究でした。」と述べて和食というのは洋食と中華料理がふんだんに混ざっている料理であることを認めながら直後に、実はこの研究成果をそのまま受け止めてはいけないとも指摘しました。熊倉先生は文化論がご専門なので、この一覧表をみて「和食だ」と言い切った以上、サンドイッチもベーコンエッグもオムレツも和食であると認めたことになります。

さて、上記の文章の後、熊倉先生は同じ頁で大変有名な栄養学者の豊川裕之先生の言葉を引きました。「人間は個体差が実験動物とは比較にならぬほど大きいので、実験結果を適用して説明するのに難しさがある」と。そして、熊倉先生はこうも指摘しました。実は都築先生の研究もご本人自身が非常に慎重な姿勢であること、この研究成果を極端に評価することはフードファディズムに陥りかねない、と。だからこの研究などについて「冷静に食と健康の関係を見ていく必要がありましょう。」と熊倉先生は締めくくっています。

そうです、全くその通りで、ラットやマウスの研究は、単一の成分についての効果を調べて人間に外挿することは可能でも、「食事メニュー」という何十種類もの物質の複合体をぐちゃぐちゃ混ぜて喰わせた結果を人間に外挿してよいのかということについては、疑問がつねに残るのです。

ラットやマウスに人間の「食事メニュー」を与えた時の結果を人間にあてはめていけない理由は他にもあります。
(1)実はラットやマウスは人間よりも食が植物性に偏っていること。
(2)人間には健康に役立つ成分が入っているのにネズミ類には毒になる食品があります。一例を挙げればネギ・タマネギがそうです。そういう食品が混ざっている研究は信用できません。
(3)一週間分の食事を全部一気に攪拌して粉砕・粉にして与えるのと、毎日それぞれの料理を皿や椀にとって少しずつ食べるのでは、血糖値の上昇パターンなどの生理反応が全く異なること。例えば同じおこめでさえも、炊いて食べるのと粉にして食べるのでは、粉で食べる方が血糖値が上がりやすい事実は有名です。だから、都築先生の研究は、人間の食事を反映した餌のように見えて、実際には、人間の食品と全く性質が異なる餌を喰わせているのです。

だからこそ、豊川先生の説明を引いて、熊倉先生は「都築先生の研究を極端に持ち上げるのはフードファディズムだよ」と言っているのです。そして、都築先生ご自身も、非常に慎重に、ご自身の研究成果を本当に人間に当てはめていいのかどうかをお話されていますので、読者の皆さんも、ちまたの「1975年の和食が体に良い」説はフードファディズムだから警戒してくださいね。
また、サンドイッチ・コンソメスープ・ベーコンエッグ・オムレツ・クリームシチュー・フルーツヨーグルトなどを食べても和食だと熊倉先生が認めたことは絶対に記憶してくださいね。
さーて、結局、なにが和食で何が洋食なのか、さっぱり分かりませんよね。世間の「和食が良い」という言葉が何を指してるのか、人によって全然ちがうんですから。これじゃ和食が良い悪いと議論しても、ボタンの掛け違いしか生じませんね。雑誌や新聞も、和食特集を組むときは、最初に「当社では和食とはこれこれだと考えます。」ってはっきり定義してから書いて欲しいものです。


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デマを阻止ししちゃいけないの?今問われる日本人の善意

2020年04月12日 | Weblog
今、新型コロナの大流行で私たちは厳しい局面にさらされています。一緒に打ち勝つために、デマとの戦い方について考えましょう。

2月27日にツイッターに投稿された「トイレットペーパーは中国産だから輸入できなくなる」とのデマに、大勢の方が「トイレットペーパーは国産。無くなるという話はデマだから、落ち着いて。」と善意でツイートしたら品薄になった、と4月6日付け日経朝刊一面に記事が載りました。この記事を見て、「たとえ善意でも、デマを阻止しちゃいけないの?」と不安になったかたも多いことと思います。でもご安心ください。答えを先に言うと、一般論としては、正しい情報だとする確証があるなら、デマを打ち消すことが社会の役に立ちます。でも、運悪く、トイレットペーパーの場合は特殊な事情が重なったため、善意があだになったのです。

なぜそう断言できるのでしょう。ITmediaビジネスonlineの3月16日記事によると、トイレットペーパーを買いだめした人にアンケートしたら、大半が「デマだと分かっていてそれでも買い占めに走った」と答えたそうです。大抵の人間は、デマがつまらないデマだと分かったら、そんなのに振り回されるのは人生無駄だから、節度ある行動に切り替えます。ところが今回のトイレットペーパーの件だけは、デマだと確信してて、それでも買い占めしたんだから、通常の例ではないことがわかりますよね。
 だから、もしもあなたが「カード会社の人が玄関先にカードを受け取りに来るという話はデマだから気をつけて」等、明らかに正確な話題をツイートするなら、決して萎縮しないで。

では、なぜトイレットペーパーの件だけは、人々はデマだと知っててそれでも買い占めしたのでしょう。実は、先ほどのITmedia記事によると、買い占め行動を後押ししたのは、ツイッターの善意投稿ではなくて、その後でメディア、特にテレビがトイレットペーパーのデマを報道したためでした。

その経過を詳しく説明しましょう。
まず27日午前10時過ぎに、デマが1つ投稿されました。それについてのリツイートはたった1件のみでした(日経によると、別アカで類似デマ投稿が2件あったが、それらもほとんどリツイートされてなかったそうです)。日経によると、このデマを否定する善意の投稿が、同日午後2時ごろ急増したとのこと。同紙5面にグラフが載っており、午後2時ごろにだいたい5万件のリツイートになってます。

そしてこの5面の記事に、夕方以降にニュースサイトと民放がこの話題を取り上げたと書いてありますが、そのことについてはそれ以上触れていません。一方ITmedia記事は、この夕方以降のメディアがパニック買いを引き起こしたとあります。どうしてでしょう。テレビや、テレビを転載したweb記事を見た人々が、「こんなデマを信じるつまらん連中が近所にいたら、結果的に迷惑を被るのはわしらだ。」と考えて自衛に走ったからなのです。なかでも決定的だったのがテレビ番組の影響だったと東大大学院の橋本良明教授(社会心理学)が分析していますので、関心のある方はITmedia記事原文を読んでください。日経さんの分析に協力した先生は、トイレットペーパーとツイッターの関係に注視するあまり、テレビの与えた影響までは想像してなかったのでしょう。


みんな知ってる通り、ツイッターは大体30~50歳代に利用されているので多くの利用者は「デマを信じるお馬鹿さんもいるのかねえ?」と思って読みますが、テレビ番組を転載したweb記事の読者は平均40~60歳代、さらにテレビ番組は60歳以上の高齢者が主な視聴者です。そして、60歳以上の人にはいまでもテレビは非常に信頼されており、テレビのニュースを見て、昭和のオイルショックのトイレットペーパー買い占め騒動を思い出すのもその世代です。そして、スーパーに繰り返し足を運んで多量にトイレットペーパーを購入する時間の余裕がある人はどの世代に多いでしょうか。その世代の方々のツイッター利用率はどの程度でしょうか?さあ、もうこれ以上言わなくてもわかりますよね?

マスコミの方々には、「物がなくなったスーパーの映像」を流すのは慎重にして欲しいと思いました。ニュースとしては面白い絵だとしても、見る側は、空っぽになった棚の映像を見て、「こんな馬鹿な連中が実在するのか?これは明日は俺たちの住む町のことかもしれない。静観していて迷惑を被るのはごめんだ。」と考えて、われもわれもと真似して購入します。それを見た人がさらに不安をあおられて「予言が成就」するのです。

ツイッターで投稿する方にもお願いですが、あやふやな情報しか持ってない方は善意でも投稿しないでください。多少教育を受けた読み手なら、あなたが無名だろうが有名だろうが、その投稿内容が何をデータソースとしているか、裏付けする専門家がいたり論文があるのか、投稿の信頼性をチェックしています。匿名でも、専門家の論文や正確なデータに裏打ちされた情報を誠実に提供するすばらしい方もいます。情報過多で揺れる不安な現代だからこそ、1人1人が誠実な情報提供に気をつけて理性的に行動したいですね。そして、このつらい危機をみんなで乗り越えましょう!!

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「NHK食の起源・ご飯」の間違い2「アミラーゼ遺伝子から腸内細菌まで」

2020年03月08日 | Weblog
○はじめに。
11月24日に放映されたNHKの「食の起源 第1回ご飯」は、科学的間違いが多いので、前回のブログで問題点を指摘しました。タミアもお米が大好きだから、お米食べてねと言いたい気持ちはNHKさんと同じなんですが、科学的に間違った理由でお米が体に良いと宣伝されるのは、お米がかわいそうです。

今日のブログは、お米とNHKにがんばれって愛を込めて書く第2回目です。NHKならもっと良質な番組を作れると、心から信じて書きます。

○前回のブログの指摘内容は?
 たくさん間違いがあったのでたくさん指摘しました。その中でも重要な指摘を一言で言うと、「番組の肝の『デンプンを食べて脳にブドウ糖が送られたから人類は賢くなった』説が本当なら、果物を食べて消化して大量のブドウ糖を脳に送っていた猿の方が先に進化してるよね?」というところ。

そのほか、肉ばっかり喰ってるネアンデルタール人もいたという有名な論文を無視して、デンプンを食べていたことばかり強調したり、菜食主義のネアンデルタール人が病気を患っていた話を言わなかったり、「火を使って加熱調理したデンプンをよく噛んで感じる甘みが初めての食の喜びだった(本当は、それよりも先に果物の甘みや肉類の出汁味を楽しんでいた。)」等のいろいろな間違いがありました。詳しくは前回のブログを読んでくださいね。

○今日取り上げる内容。
本日は、番組の中で強調されていたアミラーゼ遺伝子や腸内細菌の話題をメインに取り上げます。番組ではいろいろな取材と実験を行ってましたが、取材と実験に協力した先生達の研究内容自体は事実でも、その実験結果を科学的に不適切に説明している部分が多くて、視聴者が誤解する部分がたくさんありました。科学的に間違った解説が入ると事前に知っていたら、ほとんどの先生方はオファーを断ってただろうと思います。

○ラオスの少数民族と腸内細菌の話題。

番組開始後2分40秒で、「ラオスのある少数民族は、一日1キログラムもお米を食べているが太っていないで健康的だ、その理由は腸内細菌。」と説明しました。ところがですね、番組後半で、実は彼らが食べているお米は「蒸したモチ米」であることが明かされます。この時点でのけぞってしまいました。「蒸したモチ米」は日本人が普段食べている「うるち米を炊いたごはん」と性質が全く異なり、デンプン構成が全く異なるし血糖値上昇が緩やかなのです。

 それに、この少数民族の方々は映像から家屋・持ち物・生活ぶりなどを判断すると、運動量が平均的日本人事務職員より多いはずです。電車や車で会社に行き1日中パソコンやスマホに向かっている日本人サラリーマンと比較していいのでしょうか。運動量も全く異なるラオスの少数民族を、日本人がまねしたつもりで、「蒸した餅米」と性質が違う「炊いたうるち米」を大量に食べて健康になると考える方がおかしいのです。科学的には、ラオスの少数民族の方に最低1年以上は日本人と同じうるち米飯を1日1キログラム食べてもらって、ほとんど運動しないでパソコンやスマホで仕事をしてもらって、それでもやはり健康を保てるかどうかを調べなければなりません。こういう両国の様々な暮らしの違いをすっとばして、番組冒頭で「理由は腸内細菌。」と断言してしまうのは、科学論文だったら即座にリジェクトです。

○近江さんは番組の冒頭で「人類の祖先の主食が重要だ」と話してたのに。
ラオスの画面の後、ナビゲータのTOKIOさんたちが集まって会話をしていると、近江さんが現れて「人類の祖先の主食が重要」と語り、番組はその後、古代人の食事の話がしばらく続きます。でも、番組の36分目ごろに伊藤先生が「数千年で遺伝子が変わる」と述べて、欧米人と日本人では適切な食べ物が違うと示唆し、さらに43分目前後で、腸内細菌により日本人は「ご飯に適した体への改造を受けた」と言っています。とすれば、番組4分目前後で近江さんが「祖先の主食が重要」と言ったことは間違いだとなります。番組は論理的に破綻しています。

○本筋とは無関係な話を、人気タレントとCGで丁寧に説明・・・って一体。
 番組では21分目にシモンズ大学のTeresa.T.Fung先生が出演して、低糖質ダイエットを否定したんですが、説明はたった1分20秒ほどで終わり、直後、この番組が低糖質ダイエットを否定する理由は「32億年前に秘密がある」とナレーションが入り、5分間のタイムトラベルを始めます。

人気タレントの長瀬さんが32億年前に行くCG映像が流れ、同じく人気タレント城島さんが美しく楽しいCGでミトコンドリアの祖先に変身します。ミトコンドリアの祖先が無酸素呼吸する単細胞生物に寄生したおかげで、単細胞生物は糖質を分解して酸素呼吸ができるようになり、それが進化して現在の多くの生物になったことが、手間暇かけた映像で5分かけて説明されます。

その後で「そんな重要な糖質、もしもとらなかったらどうなるでしょう」とナレーションが入って、糖質を取らないと動脈硬化や心臓病のリスクが高まって健康に悪いのだと1分30秒程度紹介しますが、この部分には豪華なタレントも美しいCGアニメもありません。説明の構造は「ご飯バーガー」と同じ構造ですが、具(ミトコンドリア劇場)が5分間もあるのに、挟んでいるお米バンズ(低炭水化物ダイエットを止めよう論)が上下合わせても3分しかないのが奇妙です。

多くの生物が糖質を分解して呼吸してる、という説明のためだけに、人気タレントさんに依頼して手間暇かけて人件費かけて丁寧なCGと楽しい演劇で説明をしてる一方で、その前後の低糖質ダイエット否定部分があまりに簡素な番組作りなので、その人件費配分の温度差がどうも気になりました。

例えるなら「ゲームの歴史・球技」という番組で、出演者が頻繁に「野球がいいよね」と言いながら、クリケットやサッカーの健康面の効果を測定している学者が登場し、その間に、中大兄皇子のけまりの感動エピソードを高価な再現衣装を着た人気タレントの演劇で再現している番組、と同じぐらい奇妙です。

そこで、Teres.T.Fung先生の原論文を読みました。
出典はAnn Intern Med. 2010 Sep 7; 153(5): 289–298.
タイトルはLow-carbohydrate diets and all-cause and cause-specific mortality: Two cohort Studies.
アブストラクトの結論はこう書いてあります。
Conclusion
A low-carbohydrate diet based on animal sources was associated with higher all-cause mortality in both men and women, whereas a vegetable-based low-carbohydrate diet was associated with lower all-cause and cardiovascular disease mortality rates.

野菜ベースの低炭水化物ダイエットが健康に良いと?!本文を熟読したら、なんとこの論文は、穀類を少しだけ減らして植物性脂肪に置き換える低糖質ダイエットは死亡率を下げる、という論文だったんです!!

さらに本文掲載の第3表を見て愕然とする事実を発見しました。番組では、Teresa先生の声に日本語がアテレコされて「糖質が少ない人は死亡率が1.3倍になります。」と言っていたんですが、実際の表を見ると、死亡率が有意に1.3倍になるのは、男性でしかも食事のカロリーの中の糖質を29.3%以下まで絞る極端な低糖質ダイエットの例です。女性の場合、全ての低糖質ダイエットをまとめて統計分析すると死亡率に有意差なしと判定されました。そして植物性脂肪からカロリーを取る低糖質ダイエットなら、男女ともむしろ死亡リスクが減りました。

なお、この論文では低糖質ダイエットを軽いものから極端なものまでD1~10ランクに分けて、そのランク番号で死亡リスクを記載しています。ランク番号と糖質の割合の対応表を見たい方は、次の先行論文に書いてありますのでご参考までに。
N Engl J Med. 2006 Nov 9;355(19):1991-2002.
タイトルLow-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women.
著者Halton TL1, Willett WC, Liu S, Manson JE, Albert CM, Rexrode K, Hu FB.

Teresa先生が「糖質を植物性脂肪に置き換える低糖質ダイエットは健康に良い」と唱えている不都合な真実を、番組は伏せていたと判明しました。これで謎が解けました。番組では低糖質ダイエットは健康に悪いよと主張する映像が短くて、本論と関係ないミトコンドリアの進化の話を丁寧に時間をかけて画像を作り込んでいた理由が。

○お米をフードファディズムのネタにしないで。

さて、糖質制限ダイエットを批判したすぐ後(29分目)に、番組は「1万年前に農耕が始まった、中国浙江省で上山遺跡から世界最古の米が発見された」と紹介しました。ついで30分目に、「実はお米はすごい性質を持つ」、とナレーションが入り、30分50秒で「必須アミノ酸がすべて含まれている」、「繊維やミネラル、ビタミンなどもぎゅっと含まれて」いる、と説明されました。この説明が間違いであることは、このブログで既出ですので、2019年01月18日記事「「お米は栄養バランスが良い」は勘違いです。」を読んでください。ごく簡単にこの記事内容を抜粋します。
(1)お米は必須アミノ酸を全て含んでるがバランスが悪い。
(2)お米に含まれる必須アミノ酸の絶対量が少ないのでお米だけでは健康を保てない。
(3)お米にはある種のミネラルやビタミンCなどが含まれてないので、「栄養バランスが良い食品」という説を広めると、信じた人が健康を害する恐れがある。

○アミラーゼ遺伝子説には3つの奇妙な誤解が隠れてる。

32分目で「3000年前に、日本人は世界でもっともお米を食べる民族になった。」と放送しましたが、根拠が一切示されませんでした。中国南部や韓国、東南アジアと比較してデータがあるのでしょうか。
32分40秒前後で「日本人は遺伝子が変化した」と語られて33分に、「クラッカーを食べると、日本人はすぐに甘みを感じるが、欧米人は、甘みを感じるスピードが遅い。」と紹介されて、33分40秒でダートマス大学の研究が紹介されます。それは、世界の民族の唾液を集めてアミラーゼ遺伝子を解析したら、欧米人は遺伝子コピーを4、5個、日本人は平均7個もっていたとの研究でした。

この研究について、ナレーションは、こう解説しました。日本人は3000年の間に日本人はお米を食べてアミラーゼ遺伝子が増えたので、遺伝子のコピーの数が多い、だから日本人はクラッカーを食べてすぐに口の中でデンプンが分解されたから甘みを感じたが、欧米人はデンプン分解速度が遅くて甘みを感じにくいと。

(1)推論の前提が間違いで、背後に食養会が見え隠れ。
実は、一昔前、食育を3省庁協同で管轄してたころ、洋食否定食養復興運動の島田彰○先生(故人。)の友人が担当したんですよ。その人は島田先生の論とそっくりな講演会を各地の小中学校で開いていた上、その人の周囲にいた人が「日本人は他の人種と比較してアミラーゼ活性が高いが、お米を食べるためにそういう遺伝子になったのである、だから日本人は牛乳や肉を減らしてお米をたくさん食べるべきだ。」というパンフを配布しました。講演会に参加した子から伝え聞いた親たちが噂話をしたため、この情報は全国の食育研究者にも口コミで伝わり、ある掲示板(現在は削除されました。)にも、この出来事に関する情報が断片的に載りました。そういえば、そのころ知り合いの食育研究者は「あの役所はマクロビを応援してるのか!?」とカンカンに怒ってました。

その人が今どこで何をしてるかは知りませんが、一時昆虫食運動やビーガン運動にも関与していたらしいという噂もあります(あくまでも噂ですが)。このパンフを見てぞっとした知り合いが、遺伝の専門家さんに「日本人のアミラーゼ活性が高いのは、昔からお米を食べたことと、なにか関係あるんですか?」と確認したことがあります。その答えはもっともな内容でした。

「現代の日本人と欧米人のアミラーゼ活性を比較した結果を基に、『昔からお米を食べた結果だ』と説明するのは話が飛躍だ。その時点でもう科学者からは相手にされないよ。」と苦笑していたそうです。

続けて、「仮にそんな話が事実なら、パンやトウモロコシなどの穀類をたくさん食べる他の民族もアミラーゼ遺伝子が多いはずだ。欧米人もほんの100年以上前までは貴族や一部地域を除けば、穀類に依存していた地域も多い。日本人も、伝統的には、お米をたくさん食べていたのは裕福な人と都会の庶民。日本の農民の場合、長寿伝説のゆずりはら村に代表されるように、ほんの数十年前までは、雑穀や芋類を主食としていた地域がたくさんあり多くの現代日本人はその子孫である。そして日本人のアミラーゼ活性が高いということは、ヒエやアワや芋をたくさん食べていた人の子孫もアミラーゼ活性が高いのだから、つまり、お米と関係がない証拠だ。

祖先が大陸横断して日本にたどり着く直前に、ボトルネック効果などが原因で、すでに遺伝子が変わっていた可能性もおおいにありうる。だから、現代の遺伝子を比較しても食事が原因で遺伝子が変わったなんていう結論はだせないんだよ。」という答えだったそうです。(ボトルネック効果は、以前、このブログの「牛乳不要論は疑似科学」の回で詳しく紹介しています。)

高校で日本史をきちんと学んだ人なら分かると思うけど、この学者さんの方が筋が通ってますよね(遺伝子の変化が食と関係なくて単なる偶然やボトルネック効果で生じることは、このブログの乳糖不耐の記事にも書きましたのでご覧ください)。

番組の説が本当なら大発見なので、遺伝学の専門家が出てお話をして欲しいところです。番組の説があのパンフをそっくり同じくなぞっているのはどうしてなのでしょう。不気味な何かを感じるのですが。

あと、この番組では口の中で生じるのを間違ってブドウ糖としてましたがこれも痛い。アミラーゼ酵素がデンプンを分解して作るのはマルトース(麦芽糖)です。

(2)実験手続きの不備につきリジェクトしましょう。
クラッカーを食べて日本人が先に甘みを感じたという実験には、手続き上重要な欠陥があるのです。日本人の方が先に「甘みを感じる」と答えたのは、アミラーゼ遺伝子の数ではなく、甘みレセブターの数の違いや感度の違い、あるいは単なる文化の差の可能性が高いのです。

皆さんも輸入のお菓子を食べて気がつくと思いますが、欧米や東南アジアのお菓子は普通は激甘です。欧米の人や東南アジアの人は、少々の甘みでは満足できないのでお菓子に大量の砂糖などを加えています。口の中の甘みレセプターが少ないのかもしれませんし、子どもの頃から激甘のお菓子を食べていた影響で、少し甘いくらいでは甘いとは言わない文化なのかもしれません。

したがって、こういう実験をする場合は、最初に同じ濃度の麦芽糖液をなめてもらって、同じ感度で甘みを感じる人を集めて被験者にしなければなりません。同じ程度に甘みに敏感な人を集めて、クラッカーを噛んで、アミラーゼ遺伝子のコピー数が多い人の方が甘みを感じやすいのかどうかを比較するのが、正しい実験方法です。

(3)アミラーゼ遺伝子を持つ人は太りにくい説は?
35分目で「アミラーゼ遺伝子を持つ人は太りにくい。20パーセントインシュリン分泌量がでにくい、だから日本人はご飯をたべても太りにくい。日本人が長寿である原因の一つと考えられる。」と言うのですが、太りにくいのだから安心してスパゲティのお昼ご飯やハンバーガーのお昼ご飯やラーメンの夜食でもいいよね?日本人は太りにくいということとお米を食べろという話は全然関係がありません。

本当にインシュリン分泌量が少ないなら、血糖値が上昇している時間が長いということですので、そこへ糖質をたくさん取り入れたら糖尿病予備軍になりかねません。ですので、血糖値対策としては、デンプン質と一緒に脂質を取り入れるのがふさわしいです。パンや白米は油と一緒に食べるとGI値が激減するのです。バターを塗ったパンや油で炒めたピラフはGI値が低いんですよ。白米を茶碗に盛ったご飯ばかり毎日食べるよりは、スパゲティやピラフも血糖値対策に取り入れてみてはいかがでしょう。

そうそう、日本人は本当に太りにくいのですか?つい近年まで「日本人は代謝経路の酵素が欧米人と異なるため、太りやすい体質だから粗食をしなければならない」とあちこちのテレビ番組で言ってましたが、その「日本人は太りやすい体質だ」説はどこへ消えたのでしょう。

それから、日本人が長寿になったのは、お米の消費量が激減した昭和50年代以降のことです。お米をガンガン食べていた大正時代から昭和40年代初頭(ただし戦時中は除きます。)は、日本は寿命が短い国でした。日本人が長寿に変化した圧倒的理由は、小児期の死亡率が激減したことですので、アミラーゼ遺伝子が原因だという説が本当なら、日本人の中にもアミラーゼ遺伝子のコピー数が少ない人が大勢いるので、日本人の中で比較しなければなりません。そういう基本統計もなしに安易にこういうことを言うのは謹んで欲しいものです。

36分目で伊藤先生が、数千年で遺伝子は変わる、と。であれば番組前半の話は何だったのだろう。先生はさらに「いくらご飯を食べてもぜんぜんだいじょうぶ」と、個人的に発言しました。そして脈絡もなくチンパンジーのアミラーゼ遺伝子は2個だとぽつりと言いました。なにをほのめかしてるのかと不安になりました。次いで「アミラーゼ遺伝子が少ない人はよくかんで唾液を出してください」と言っているので、多くの平均的日本人はよく噛まなくていいってことになりますね。

38分目で「ご飯を食べて遺伝子を変えた」とナレーションが入ります。昭和初期にお米をもっと沢山食べるようになったとも説明されました。それならさっきの「3000年前からお米を沢山食べるようになった」という話から、「2900年間もの長い間、昭和初期よりも少ない量の米を食べていた」という意味になりますよ。昭和初期にオーバーな量の米を食べ始めた、ということになりますよ。従って、健康を考えれば昭和初期のようにたくさんお米を食べてはいけない、という意味になりますね?それに、雑穀や芋類や麦類を食べていた人々も日本にたくさんいた事実を無視してませんか。

○ラオスの少数民族のプロボテラ菌の話は。
39分目で舞台はラオスに移ります。
もち米を食べる村が紹介され。「肥満や生活習慣病の人はいません」と言いますが、それは運動してるからではありませんか。40分目で、検便と腸内細菌が紹介され、41分目で珍しい腸内細菌としてプロボテラ菌を紹介し、それがラオスの村人の腸内細菌の2割を占めていたと言います。この菌は短鎖脂肪酸を作るので肥満予防、動脈硬化予防になると紹介され、42分で、かつては日本人の腸内にも同じ菌が多かった可能性がありますと言うのですが、それは証明のしようがありません。山形県鶴岡で50人を集めて検便したらプロボテラ菌が「受け継がれていた」と主張するのですが、「受け継がれた」という言い方がすでに偏っています。古代の日本人の大多数には実はその菌はなくて、100年くらい前にその菌がたまたま日本海側の一部地域に来た可能性があります。しかも、現代の鶴岡の人が現代の生活をしてもこの菌がいる以上、お米の摂取量とプロボテラ菌の量が正比例してない証明になります。

ラオスのその少数民族はお米を食べすぎたために、糖質過剰で大勢の人が死んで、プロボテラ菌を持つ人のみが生き延びた可能性もあるので、現代日本人が無理矢理お米を沢山食べる理由はどこにもありません。いや、もっと深刻な問題があります。この番組を見たあなたがお米をドカ食いしても、あなたが生きている間にあなたのおなかにプロボテラ菌が住み着いて健康になるなんて誰も一言も言ってないのです。

43分目、腸内細菌のおかげで日本人は「ご飯に適した体への改造」を受けたとするが、それを言うなら、お米をたくさん食べられなかった北関東、四国、岩手など多くの地域の子孫はそんな改造を受けてないわけです。それに現代の日本人の大多数はプロボテラ菌を持ってないから、お米をたくさんたべちゃいけないという事になります。私たちは、現代の食事に適合する善玉菌を腸内で育てるほうがよほど健康に良いでしょう。

ラオスの人たちは餅米だから血糖値上昇はうるち米よりゆるやかです。日本人がラオスの人と同じほどのうるち米を食べたら、血糖値が上がりすぎて体を壊す恐れもあります。


47分目直前で伊藤先生が登場して、「脳は糖質が一番おいしいと感じる」とお話されるのですが、であれば果物おいしいですよね。その次先生は「ご飯はご飯、砂糖は砂糖、違うものである、ご飯やゆっくり消化されるものがよい。」と言いますが、バター付きパンやスパゲティもゆっくり消化されてGI値低いですよね。ここで言っている「ご飯」はまさかご飯論法のご飯ではないですよね。

○いよいよまとめ。
この番組は、「200万年前の祖先はデンプンを食べて賢くなったしデンプンをかみしめて甘みを感じて初めて食の喜びを知った」といい、米ではないデンプン(原論文からおそらく松の実)がくっついたネアンデルタール人の歯を紹介し、植物の根やどんぐりを古代日本人が食べていたと紹介し、小麦クラッカーを食べて甘みを感じる実験をし、ラオスの餅米を食べる少数民族を紹介しながら、番組の最後では白米を炊いた飯を勧めるのだから、論理が破綻しています。

番組終盤の48分目で「ぼくらの遺伝子が変わってしまう可能性がある」と語られます。うん、現代の食事は1980年ごろから40年続いて、その間日本人は史上最高の長寿を保ってるんだから、理想的な方向に遺伝子が変わっていくと思いました。

○もしかしたらこっちの方が重要な問題かも???

さて、科学とは別の角度に分析を切り替えます。映像のマジックが何度も登場している問題です。
例えば、45分目で、「50~50%の糖質をカロリーからとるのがよい、その量はご飯に換算して1日3杯に相当」とあたりさわりのない話がありましたが、そこへゲストが唐突に「それなのに、パンや麺などをたべてますよね?おいしいものを知っちゃった、脳がね。」。と言い、同時にテレビ画面にはドーナッツの写真が写ります。このシーンはあきらかにおかしいですよね。この番組は、この場面までに、パンや麺やドーナツが米より劣るとは一言も言ってなかったのです。ゲストの方は「疑うまでもなくパンや麺などを食べるのは悪い事だ」と信じていたのでしょうが、そういう思い込みでお話したのを、科学番組としてそのまま放映するのは奇妙です。

実は番組冒頭の3分目で、鋭い人はすぐ気がつきます。この番組はお米をテーマにしてるのに、タイトルは「ご飯」という、不思議な事実に。日本語では、ラーメン食べてもそばを食べてもスパゲティを食べても「ご飯を食べた」と言いますよね?そんなあいまいな言葉を、お米の良さを宣伝する番組のタイトルに選択しているのは、言葉の使い方に非常に厳しいNHKとしては異例です。

そこへたたみかけるように、ナビゲーターのTOKIOさんが、炊いた白米を指しながら口々に「ご飯」「ご飯」と連発し、直後に近江さんも「お米にはでんぷんが大量に含まれる」と1回だけ「米」と言った後、即座に「ご飯」「ご飯」と言い換えています。43分目でも腸内細菌によって日本人は「ご飯」が適切だと主張していますが、前後の文脈から、ラーメンやうどんの昼ご飯ではなく、白米飯を指している発言です。「ご飯と言えばお米であり、お米だけをご飯と呼んで欲しい。」と、視聴者に働きかけようとしてるように見えるのですが。もちろん、出演された方にもそんなつもりは全くなくて、台本にそう書いてあるからなんとなくそういっただけなんだろうと思いますが。

画面変わって、シアトルの「パレオダイエットの会」のパーティが映し出されます。「石器時代の食事」を再現する会ですが、料理パーティ会場を撮影してるのにふさわしくない、美味しくなさそうな映像なのでドキリとしました。画面には、色があまりおいしそうに撮影されてない肉が映し出され、登場人物も肉をかぶりつき、ナレーションは「肉、肉、肉」と語り、画面のテロップには大きな「肉、肉、肉」という文字、パーティのシンボルマークの「肉を手にした原始人の絵」が何度も画面にクローズアップされ、登場した男性は「原始時代は肉を食っていたんだよ」と吹き替えが入ります。
さてここでクイズです。「パレオダイエットって、何を食べること?」

「肉ばっかり、がっつり食べることでしょ?」と答えたあなた、はずれです。

番組中では詳しく説明されなかったのですが、パレオダイエットとは、原始時代に人類が食べていなかった食品を食べないことで、具体的には、「パン・米・砂糖・乳製品・ジャガイモ・スナック菓子などの加工食品を避け、代わりに野菜・果物・魚・卵・肉類をバランス良く食べましょう」という運動なのです。うそでしょうと思ったあなたは、海外のサイトをみてごらんなさい。セレブ達が「私はパレオダイエットでパンやジャンクフードを止めて野菜をたくさん食べてこんなに美ボディよ。」と、個人の感想を語る頁がたくさんありますよ。この事実を知ってもう一度同じ映像をスローモーションでじっくりと見れば、肉の隣にサラダボウルが一瞬映っていたり、遠方のテーブルには、野菜や果物と思われる皿があったり、サラダを食べる女性の姿が一瞬映っていることに気づきます。でも、カメラは肉ばっかりクローズアップしているので、野菜や果物が画面に出ていることには、ぼーとみてると気がつかないのです。しかもナレーションやテロップや吹き替えで「肉、肉、肉」と音声と目から意識づけられ、こでもかと「肉を手に持つ原始人の絵」がインサートされるため、視聴者の大多数は、「パレオダイエットとは肉ばかりやたらと食べることだ」と、思ってしまう映像になっています。

もしもパレオダイエットを正確に日本に紹介したいのであれば、こういう撮影とナレーション、テロップになるはずがありません。だからここには明確な意図があると考えた方がいいでしょう。しかも登場した男性の、「原始時代は肉を食ってたんだよ」、という声の直後にナレーションが「この定説を覆す」と、ばっさり男性の発言を切り捨てたので、男性がかわいそうで痛々しくなりました。前回、このブログに書いた通り、原始時代に肉ばっかり食べていたネアンデルタール人の遺跡も発掘されてるのですから、この男性の言うことも一面では事実なのですよ。この男性もこういう演出がなされるって事前に知ってたら、出演依頼を拒否したでしょうね。

このほかにも、この番組では、寿司などお米を食べるシーンにはいい印象を与える明るい画面構成をして、逆に洋風の食品を食べるシーンでは台詞か画像が良くない印象を与えるものになってます。

例えば、番組開始40秒目に、「食べ過ぎ」は肥満や糖尿病などになるというナレーションに、日本で普通に売られてる普通サイズのハンバーガー(またはアイスクリーム)を白人が一個食べるシーンが登場しますが、薄暗くて寂しげ・わびしげな絵作りをしています。
ここは、番組の意図を紹介するシーケンスなので、これをナレーションと映像とテロップの3つに分解して、詳しく説明しましょう。

まず「食べものは人を幸せにする」というナレーションが入り、アジア人(たぶん日本人)が寿司や焼き鳥を食べる映像が明るく鮮やかに映ります。次に、地中海式食事の典型例のピザを食べる人物が色鮮やかに映りますが、太った白人男女を写しだし、太る食品のようなイメージがかもしだされます。そこに、「でも気をつけないと」というナレーションが入ります。その瞬間に、普通サイズのハンバーガーを食べる肥満白人女性が映り、「肥満や糖尿病」というナレーションとともに、画面の色味が急に暗くて寂しく変化します。そしてただちに、白人男性が普通サイズのハンバーガーを1個食べながら、電話をする映像が映されます。

そこへさらに「心臓病にガン」というナレーションがあり、画面には、円錐形のアイスクリームコーン(長さ7~8センチ、直径3~4センチ程度)を食べる白人男性が映ります。この男性の映像の上に、巨大なテロップが「糖尿病、心臓病、肥満、ガン」と刻印されます。このテロップが残存したままで、「命を縮めることに」というナレーションが、フォークで何かを食べる白人女性の映像に重ねられます。その直後、テロップがさっと消えます。「私たちは何を、どう食べればいい?」という、気持ちを切り替えるナレーションが入り、そこには東欧系と思われる老人が雑穀のような物を食べている映像と、日本人と思われる人影がアパートの一室で弁当らしきものを正座で食べている映像が当てられます。この人影の背後の窓越しには、明るい町並みが見えます。こうして一連のシーケンスが終わります。

・・・こうしたナレーションと画面によって視聴者の潜在意識には、「肥満や心臓病、糖尿病、ガンなどの原因は白人の好きなハンバーガーやアイスクリームやフォークで食べる洋食などであり、これらは平凡な量で命を縮めることになるのか。」とすり込まれる可能性が高いと言えるでしょう。悪気はなくて、たまたま偶然こんな映像とテロップとナレーションになってしまったのかもしれませんが、北欧圏でメディアリテラシー教育を受けた人ならすぐに「これは科学番組ではなくプロパガンダ番組特有の演出ではありませんか」と言い出しかねないなあ。こういう映像は、白人をおとしめているようで適切とは思えないのですが、いかがなものでしょう。

テレビ番組は、作り手の心の奥底の熱い気持ちがついつい画面ににじみ出ちゃうのよね。だから、お米を食べて欲しいばかりに奇妙な映像になっただけだと信じたいのです。でも問題は、なぜ、お米を食べない人は「残念な人」「命を縮める人」扱いをされるのでしょう。個人的思い?忖度をしなければならない何かの力学?食養会復興運動に近いポジションのパンフと同じ論法が登場したのは何故?そういえば、和食の健康性について懐疑的な研究をしようとすると科研費がつかないという噂は本当?

重い「何か」が見え隠れするので、これ以上私はこの問題には踏み込めません。過去のブログで食養会について、いくつか指摘をしてます。つなぎ合わせればある構図が見えてくることでしょう。読者の方々に宿題として考えて欲しいです。

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NHK食の起源・ご飯」の間違い1「デンプンで脳が大きくなった説は誤り」

2020年02月10日 | Weblog
○はじめに。
11月24日に放映されたNHKの「食の起源 第1回ご飯」は、科学的間違いが多い、と知り合いの学者がぼやいてました。それでタミアも慌てて先週見ましたが確かに問題だらけでびっくり仰天!タミアもお米が大好きだから、お米食べてねと言いたい気持ちはNHKさんと同じなんですが、科学的に間違った理由でお米が体に良いと宣伝されるのは、お米がかわいそうです。

このブログは、お米とNHKにがんばれって愛を込めて書きます。きっとNHKが本気を出せばもっと良質な番組が作られるはずだから、あえて問題を指摘します。間違いが多すぎて長文になるから、連載にしますね。

○今日のお題。
本日は、番組の肝の「人類はデンプンを食べたおかげで200万年前に脳みそが急に大きくなったから、賢くなった」説の間違いを取り上げます。

○「脳みそが大きい人は賢い」は差別を助長しかねない。
実はね、科学的間違いを言うよりも前に、「脳みそが大きい人は賢い」という言葉自体が非常に危険な言葉です。知能検査の結果では、脳の重さが影響するのはほんのごくわずかであり、脳の重さより他の影響の方が遙かに大きいという論文もあります。それに「賢い」ってどういう意味なのって問題が実は一番重要。のらりくらり意味不明な答弁をする人は賢いのか馬鹿なのか評価が分かれますよね・・・。

○人間と動物の比較の場合でもアウト。
「脳が大きいと賢いよ」と言っちゃったら、「ふーん、じゃあ鯨は頭が良いはずだね?」ってなるんです。そこで知ったかぶりで「人間の脳は体重の38分の1だが鯨の脳は体重の2500分の1しかないから、体重との比で考えるとやっぱり人間は脳がでかいんだ」と言い返しちゃだめよ。小さい動物の方が体に占める脳の割合が大きく、例えばネズミは体重の28分の1なんで。そこで公平のために哺乳類の脳の大きさを対数でプロットすると、やっぱり鯨の脳は霊長類なみに大きく発達していることが分かっています。(アリゾナ大のJoseph Robert Burger先生の論文 The Allometry of Brain Size in Mammalsより。Journal of Mammalogy, XX(X):1–8, 2019)。脳が大きいのは本当に賢いのか、そもそも人間の間でさえも、どういう人を賢いというのか感覚が違うのに、ましてや全然違う動物の間で賢さをどう比較するのか、と何かと議論になるため、「脳が大きいから知能が高い」と単純に言うのは科学的ではありません。

○番組の一人歩きが始まってる。
残念なことにこの番組をそのまんま鵜呑みにして「よくぞ言ってくれた。お米を食べるとデンプンで頭が良くなるんだ」と声を上げている人(米屋さんとか。)がけっこう多いんで、こんな姿が海外に見られたら「日本国民の教育レベルって低いね。」って言われそうで悔しい。お米は色々と良いところがたくさんありますが、科学もどきの科学的ではない説明で「頭がよくなる」って思い込むのはいけません。欧米に負けない世界から尊敬される科学番組を作ってほしいんです!!NHKラブだよ本気だよ。

○デンプンで脳が大きくなった説を番組ではどう説明したの?
(1)カレン博士の研究の引用ミス!

番組では、スペインの洞窟で石器時代の研究をしているバルセロナ自治大カレン・ハーディ博士が登場しました。
彼女は「石器時代の人類の歯石にでんぷんがついている」と指摘。博士が「(先祖は)でんぷんでエネルギーを得ていた」と言いましたが、画面に映ったのは何のデンプンか分からない写真でした。石器時代のスペインにお米生えてないし。

ところがこの画面の直後にナレーションで「日本の祖先はドングリや地下茎をたべてたと」解説が入るため、「博士の見つけたデンプンは何かな?」と想像するより先に、視聴者の頭の中はどんぐりや地下茎のことでいっぱいになります。カレン博士の研究対象はネアンデルタール人ですし、一方人類の祖先が東へ移動して日本にたどり着いたのはホモ・サピエンスで、わずかに交雑していますが別の種族です。だから、カレン博士の研究対象が食べてた物と、日本の祖先食べた物を同じだと決めつけてはいけません。(後で詳しく説明するけど、おそらくこのネアンデルタール人の歯石のデンプンは松の実と想像されます。)

(2)実は極端に肉食のネアンデルタール人もいた!

石器人の歯石研究で有名なのは、2017年にNatureに載ったアデレード大学のローラ・ウェイリッチ博士の論文、Neanderthal behaviour, diet, and disease inferred from ancient DNA in dental calculus。アブストラクトには、At Spy cave, Belgium, Neanderthal diet was heavily meat based and included woolly rhinoceros and wild sheep (mouflon), characteristic of a steppe environment. In contrast, no meat was detected in the diet of Neanderthals from El Sidrón cave, Spain,と書いてありました。つまりね、「ネアンデルタール人は、ベルギーの洞窟で見つかったのは極端に肉食でスペインで見つかったのは菜食主義でした。」という論文で、肉ばっかり喰ってるネアンデルタール人もいたんですよ!

 番組制作スタッフがこの有名なネイチャーの「肉ばっかり喰ってたネアンデルタール人がいたよ論文」に気づなかったとは、常識的に考えにくいことですが、本当に気がつかなかったのでしょうか。

(3)菜食のネアンデルタール人は歯痛の上に病気を持っていた。
 さらにローラ博士によれば、スペインの菜食主義のネアンデルタール人が食べていたのはコケ・松の実・キノコなどが多く、しかも歯周病などを患ってポプラの葉の化学物質「サリチル酸」で鎮痛作用を得たり、下痢と吐き気の病原菌まで持っていたと指摘しているの。つまり、このネアンデルタール人は本当は肉を食べたかったけど病弱な上に歯痛で肉を食べられなかった可能性が高いのです。

(4)番組後半でちゃぶ台返し。
それに、実は番組後半では、「ホモ・サピエンスが成立した後も数千年単位で西欧人と日本人では遺伝子がかなり変化したのだから、どういう食べものが体に良いかなんて西洋と日本人では比較できない」って言ってるから、「昔の食事はこうだったから、昔の食事を見習いましょう」って番組の論法は自己撞着ですね。フィンランドあたりの学校教育を受けた人なら、直ちに「この番組は論理的に変だよ」と声が上がりそうです。そういえば、この間問題になった「PISAで日本人が1番苦手だった問題」は「情報の真偽を論理的に推測する能力」だった。

(5)「デンプンで初めて食の楽しみを知った説」は間違い。
デンプンより先に果物と「だし味」を楽しんでいた!

さて、番組開始から10分目以降はこう展開します。
「700万年前の祖先は果物を食べていたが、寒冷化で地面に降りて、二足歩行を始めて、初めてどんぐりのような木の実を食べたのだ。他の動物と比較してか弱かったので、木の実を割って食べなければ生き残れなかったが、でんぷんは味わいはいまいち。そこで、大改革があった」として、イスラエルのガリラヤの200万年前のホモ・エレクトスの石器を紹介しました。

この石器からホモ・エレクトスが火を使っていたことが分かった、木の実を焼いていたことが証明された、火によるでんぷんの調理が食の大革命だった、とナレーションが入ります。本当はこの時代に同時にタンパク質も焼いて食べてるんですが、なぜか映像は、日本の山で木の実や地下茎を焼いて食べて「おいしい」と言う画面に切り替わります。ホモ・エレクトスが火を使って肉を食べて焼いていたことに視聴者が気がつく時間を与えたくないから、デンプンを食べるシーンを急いで見せたのでは?と推測されてもしかたない不自然な演出だと思いました。

それに「ホモ・エレクトスが地下茎を食べていた、日本のホモ・サピエンスと同じものを食べていた」とは証明されてないので論理の飛躍です。

15分以降は、「でんぷんが加熱でブドウ糖に変化し、味蕾にふれておいしいと感じる」と述べ、ブドウ糖は「命をささえるエネルギー」でかつおいしく食べられるよ、と。
そして加熱されたデンプンの甘みこそが「人類が初めて知る食の喜びだった。いままでは生きるために仕方なく食べていたのが、ここで初めて、おいしい食べ物を知ったのです。」と紹介されるんで、論理がぶっ飛んでいるのでびっくりしました。だって、700万年前から、人類の祖先は甘い果物を食べて「食の喜び」を感じたし、200万年前には肉とデンプンを焼いて食べて、肉のアミノ酸のだし味=うまみで「食の喜び」を感じていたんですから。

②口の中ではブドウ糖はほんの少量しかできない。
それに、もっと重大な間違いがあります。でんぷんは加熱しただけではブドウ糖には変化しません。加熱して口に入れると、α-アミラーゼという酵素が出てデンプンの一部分をマルトース(麦芽糖)という物質に変化してくれ、さらにそのマルトースの一部分が口の中で別の酵素の働きでブドウ糖まで分解されるので、結局、口の中で生じるブドウ糖はごくごく少量なのです。脳に届くブドウ糖のほとんどは、口の中で出来たブドウ糖ではなくて、小腸で消化されてから吸収されたものなんですよ。

読者の皆さんも小学校の時、デンプンを口の中で5~10分間もぐもぐして、じわじわと甘みを感じる実験をした人が多いと思います。普通の食べ方、つまり数回もぐもぐしてすぐに飲み込む食べ方だと、口の中で分解されるでんぷんは、ほんの少し。だから小学校の実験ではじっくり噛んだというわけ。

 ちなみに、小学校の実験ではデンプンを噛んで吐き出してヨウ素デンプン反応実験をして、紫色にならないですね。これを指して先生が「口の中でデンプンが麦芽糖に消化されたからで、皆さんの普段の食事でも、口の中でデンプンが全て麦芽糖に変化してるんですよ。」と言ったなら、その指導は誤りです。

 あの実験は本当のところはですね、口から出してお皿に取って、先生の説明を伺いながら皆でわいわい言いながらポタポタとヨウ素を垂らしてるでしょう?その間に数分間が経過してデンプンが分解されたんです。専門的には、この経過時間をインキュベーションタイムと言います。普通に食事する場合、口の中でデンプンと唾液中のアミラーゼは混ざってすぐ飲み込まれるので、口の中ではほとんど変化がありません。唾液のアミラーゼはデンプンにくっつくと胃酸にも溶けないのでそのまま小腸に運ばれて、小腸でやっとアミラーゼがデンプンを分解してるんです。

繰り返しますよ。実際の生活では長時間ももぐもぐせずに、ちょっとかんですぐ飲み込んでるので、口の中ではデンプンは大部分デンプンのままです。で、よく考えれば分かりますが、古代の人間が、長時間もぐもぐやってたと本気で信じられますか?よほど平和な時期や安全な場所、巫女など特殊な地位でもない限り、長時間もぐもぐやってたら天敵や別の部族に襲われるなど命の危険がありました。長時間もぐもぐやって甘みを感じて「ああ幸せ」なんて言ってる余裕はそう滅多になかったと考えるべきです。

ブドウ糖よりも果物の方が断然甘い。
体温に近い36度で食べた時に、一番甘く感じるのは果物の甘み成分のフルクトース(果糖)、次がショ糖(別名、砂糖またはスクロース。)です。ブドウやリンゴ、ナツメヤシなど多くの果物はフルクトースを大量に含みます。一方、ミカンや柿、桃、オレンジなどはショ糖を大量に含みます。
 では口の中でデンプンをもぐもぐ噛んで数分経ってようやく生じるマルトースの甘みはどれぐらい高いの?というと、実はショ糖のたった3分の1です。さらに、口の中でほんの少量しかできないブドウ糖の甘みはというと、フルクトースのおよそ半分です。そう、果物の方がマルトースよりもブドウ糖よりも遙かに甘いんです!人類の祖先が「食の喜び」を感じたのは、200万年前のデンプン食時代ではなくて、700万年に果物を食べていた時代の方です。

ちょっと科学をかじった人なら誰でも分かるこんな凡ミスを犯すとは、NHKさん、どうしたのでしょう。

(6)ブドウ糖で脳みそがでかくなったは、単なる統計グラフの扱いの間違い

①対数グラフを使わない凡ミス。

番組17分目では「加熱されたでんぷんは、おいしさだけではない」と言って、「ブドウ糖を食べて食の喜びを得た結果、肝臓と脳にブドウ糖が運ばれてる映像」が映し出されます。18分目からは、「ブドウ糖が脳に運ばれたから神経細胞が増殖して、脳が大きくなった」といいます。すごいなあ、これが事実ならバナナなど果物を食べてた猿の方が先に進化してないとおかしいよね。なぜなら果物のフルクトースやショ糖は体内で吸収されるとすぐにブドウ糖になり、脳みそに運ばれるんですから。果物もブドウ糖の重要な原料だということは、義務教育で習った人多いと思うなあ。

19分目、「200万年前から急速に脳が大きくなった」とグラフで紹介。でんぷんをブドウ糖にして食べたおかげで「仲間の結束を高め」「神経細胞が増殖を始めたと考えられます。ホモエレクトスは初期人類の二倍以上の脳を持つようになりました。デンプンを食べたことが脳の決定的進化をもたらしたのです」とまで断言した。そして、脳が大きくなったから動物を狩りできたとアニメで説明しました。これらの説明も、科学者ならやっちゃいけない説明が並んでるので、順を追って問題点を指摘しますよ。

まず、人類の進化で200万年前に突然急ピッチで脳が大きくなりました、という説明そのものが、グラフの不適切な用い方なんです。なぜかというと脳の容量は3次元なので、ほんの1センチ頭蓋骨の横軸が伸びるだけで脳みそは3乗で飛躍的に増えるの。例えばね、立方体入れ物の縦横高さが2倍になったら、容積は2倍じゃなくて8倍でしょ?3次元では右上がりの急カーブグラフになるのです。

だから「人類の進化で脳が大きくなりましたよ」って説明をするときには、対数グラフを使わなければなりませんし、対数グラフを見れば人類の脳みそは200万年前に急激に増えたんじゃなくて直線で増えているの。だから、「200万年前に突然脳みそがでかくなった」説は科学者に話したら「なに変なこといってんの?」でおしまい。最初にお話したアリゾナ大の論文ももちろん対数グラフです。

②200万年前に食べてたのは米じゃない。
ちなみに、100歩譲って200万年前にデンプンで脳が大きくなった説が事実なら、それはお米じゃなくて松の実やどんぐり等のおかげだと推測されるから、「お米なんか食べないで松の実やドングリを食べたら脳が大きくなるよ」って番組になっちゃいます。

③ブドウ糖を大量にとっている他の動物はどうなの?

20分目からは糖尿病の第一人者の伊藤裕先生が出演されるのですが、人類学や進化の専門家じゃないんですね。伊藤先生は、「従来の説では肉を食べたから脳が大きくなったというが、それよりはむしろでんぷんを調理したことが脳が大きくなった原因ではないか、脳にはブドウ糖がないことは困るから。」とお話されました。でも、それを言えば「果物を食べていた700万年前の人間の脳はなぜそのときに大きくならなかったのか。果物を主食としている他の生物も脳が大きくならないのはなぜか。大量の穀物を食べるネズミや雀も体内ででんぷんをブドウ糖にして吸収しているはずだがどうなのか。」と、番組は矛盾だらけです。

(7)デンプンで賢くなった説を唱えたら最後、「だからデンプンはそれほど重要では無い」と結論づけられてしまう!

私たち人類を生み出した最も重要な「脳の変化」は何かと問われると、多くの専門家は「火を扱う技術」と答えます。火を扱えなかった時代は、たまに落雷などの自然火災で焼けた肉や木の実を拾って食べる程度でしたが、脳の発達で手先が器用になり、しかも将来を見通し、因果関係を考え、時間経過を理解する能力が生じたから、火を扱う技術を身につけたのです。こうした様々な能力が身についたから、肉や魚やデンプンなどを黒焦げにならずちょうど良い加減に焼いて食べられるようになったのです。デンプンを焼いて食べたおかげで賢くなった説がもしも事実なら、当然ながら「火を使ってデンプンを焼けるほどの器用な指の動きや時間などの概念をもたらした脳の成長は、デンプン以外の何かがもたらした」となるので、「従ってデンプンはそれほど重要ではない」と結論づけられます。

まだまだこの番組には問題点がたくさんあります。大好きなNHKさんだからこそ、次回こそは国際的に誇れる番組を作って欲しいです。そして、本当に良質なお米の番組を期待しています。


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坂本龍一さんに惚れ直し。玄米食主義からの脱出。

2019年12月25日 | Weblog
本心から言います。坂本さん、ありがとう。
感激で涙が止まらなかった。長年あなたのあの言葉を願っていました。

・・・・坂本龍一さんが、ある保険会社の広告記事に登場しました。一読して感銘を受けました。過去を振り返りながら、これからの生き方を考えた内容だったからです。

坂本さんは、デビュー当時から少々ナルシストな発言で逆に人気を集め、作品も画期的で才気ほとばしる新時代を切り開くものばかりでした。でも、いくら素晴らしい才能があるとは言え「時々イリーガル(違法)でいい」という腰を抜かす発言もありました。ドリンク剤のCMに提供した曲「エナジーフロー」が大ヒットした時、テレビに出演して「こんな曲がなんで流行るのかな、僕はもっといい曲を沢山作っているのに。」とお話しして、ファンを悲しませたこともありました。

 坂本さんは90年代末からはかなり極端な玄米食運動にはまって、熱心に他人に勧めてました。坂本さんの応援したのはビーガン運動とはまた異なるもので、「厳格な玄米食をすれば、ガンにならず、小柄だが心身健康になり、宇宙と一体化する。魚や牛乳や果物などを食べると病気になり、邪悪な心になる。」という不思議なものでした。この考えにはまった人は、栄養学指導者を激しく糾弾していたのです。「魚と肉を食べるな!みかんやトマトが体に良いなんてウソだ!」と。そのため、このムーブメントが大流行した2005~2014年頃は、栄養士や普及員などが断罪されるできごとが生じました。

坂本さんがあまりに素晴らしい曲を作るだけに、そんな神がかりな話を信じるとは「なんとも残念な方」という印象は拭えませんでした。
その坂本さんが、ガンにかかって、しかも治療法は一切外部に話さないと発表したのが2014年のこと。私はこのニュースを聞いて、坂本さん、どうか代替医療にはまりすぎて西洋医学を否定しないでくださいと願いました。

その後、坂本さんは無事復帰し、ある保険会社のインタビュー広告記事に出るようになったのです。そこでご自身が語られたのは、疑似科学にはまった自身を振り返り、どんな生活をしてもガンになることがあると気がつき、極端な考え方にとらわれてはいけないと悟ったことでした。

ニューヨークで放射線治療を受けていた間、痛みでスイカ以外のどを通らない時期もあって「スイカに生かされたようなものです」と語り、治療後オムライスを食べて「普通のことができるありがたさをしみじみと実感しました」と語っていました。坂本さんが信じていた玄米食運動では、スイカはあまり食べてはいけない食品、卵やトマトは食べちゃいけない食品に分類されてるので、ああ、坂本さんは本当に脱出できたんだなあ、と、ほろりとしました。

最後に坂本さんはこう締めくくってました。音楽を作ったり聴いたりすることはなんて幸せなことかと。「それは普通のご飯が食べられるしあわせに似ている。一膳の白いごはんのようなもの。それぐらいありふれたものであることが、しあわせなんだ。」
坂本さんが信じていた運動では「白いご飯は毒だから玄米を食べろ」と指導するので、坂本さんの声は運動否定そのもののです。当たり前の幸せ、あまりにも近くにありすぎて気がつかない幸せ、だけど「どこか遠く」に、「とても気高い理想があるに違いない」と信じて、そして時々、うっかり私たちは道を踏み外してしまうのかもしれません。それは、坂本龍一さんが出演した映画「戦場のメリークリスマス」と重なることに気がつきました。

(以下、映画と原作「影の獄にて」のネタバレが含まれます)。舞台は、第二次世界大戦中の、ジャワ島の日本軍捕虜収容所。坂本さんが演じたヨノイ大尉は、形式的規律を重視し過ぎて、自分の信じる正しさを他人に押しつける役柄です。ヨノイは審美眼が高い故に、収容されたセリアズ少佐の美しさに心を引かれます。でも、セリアズには、美しい心と声と恵まれない容姿の弟がいて、弟は学校でいじめに遭っていた。弟に負い目を感じたセリアズは、後悔の念から1人で信念を貫くぶれない生き方を目指し、それが、第三者の目には反抗的にも映るのでした。

クライマックスシーンでは、ヨノイが重病の捕虜を無理に歩かせよと命じ、捕虜の集団と日本兵は一触即発の危機に陥ります。そこへ唐突にセリアズが前に出て、ヨノイに頬ずりします。セリアズは自分の命を投げ出して、集団同士の対決の構造を個人対個人の構図に切り替えたのです。その頬ずりはフランス軍隊の激励の仕草にそっくりだった、と原作に書いてあります。しかし文化の違いでセリアズは処刑されてしまいます。ヨノイはセリアズの真意を悟り、戦後に特赦になった後、「この世になによりも大切にしていた」と、セリアズの遺髪を神社に納めて、その御霊に祈るのです・・・・。

戦場のヨノイの姿は、ある種の玄米食運動が普通の人の食事を否定する姿、に重なって見えます。坂本さんが、今は純白の心で言葉を紡いでいることを尊く思い、しみじみ感慨にふけりました。これからも坂本さんを応援します。
・・・メリークリスマス、坂本龍一さん、メリークリスマス。


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旬を覚える必要はない!佐々木敏先生の「栄養と料理」記事で判明。

2019年12月15日 | Weblog
以前、ある勉強会の会場で通りすがりにこんな会話を聞きました。
女性A「キュウリの旬は夏、キャベツの旬は冬から春。旬ではない野菜は体に悪いのよ。キュウリは夏だけ、キャベツは冬と春だけ食べるようにしなくちゃ。」
女性B「(気乗りせず)どの野菜の旬がいつか、一つ一つ覚えるの大変ね。」
女性A「(得意そうに)私はバッチリ30種類の野菜の旬を記憶してるわよ!」
女性B「・・・まあ、それは・・・(作り笑いで)努力家ですのね。」
こういうマウンティングもあるのかと、つくづくBさんに同情します。前にこのブログで書いた通り、旬を外れた食事で体に悪いとは立証されてません。

さて、このことに関して大変面白い科学記事がありました。我が国栄養学の第一人者、東京大学教授佐々木敏先生が書いた「栄養と料理」2019年12月号「佐々木敏がズバリ読む栄養データ 第105回」記事です。「旬がなくなった」と言われる現代ではありますが、旬を気にしなくてもただ普通のスーパーでそのとき売っているものを買って食べて栄養的にはほとんど問題がないことが分かったのです。

記事を要約するとこういう情報になります。
・よく「最近は季節感がなくなった」という言葉が聞かれるが、実態はどうなのか。
・実は、主食や主菜(特に肉類)には、旬がない。かつて旬があったのは、野菜と果物、それに一部の魚介類だった。
・今から50年以上も前の1965年にはすでに、キャベツやイカや豚肉など様々な食品の季節感がなくなり、一年を通して毎月同じぐらいの量を購入していた。
・きゅうりは1965年は夏の野菜で冬はほとんど購入しないものだったが、今では多少変動はあるが一年中購入されている。
・一方、みかんのように、今でも特定の季節に大量に購入されてるものも残ってはいる。
・一年中購入できるようになったものについては、科学技術の向上のおかげと考えられる。
・その結果、昔は季節による栄養素の偏りがあったと見られるが現代では季節による栄養素の偏りはほとんど見られなくなった。
・ビタミンC、鉄、カロチンには、いまだに季節変動が見られて、ビタミンCは特に秋に大量摂取している※(欄外注)が、そういう少数の例外を除けば、栄養素の偏りがない時代が現代である。
・だから、そのときに普通のスーパーで売っている食べものを買って食べて、栄養素の面では十分になった。

・・・と、書いても、駆け足の説明だったので、まだ分かりかねる人も多いので、もう少し、情報を補って説明しますね。佐々木先生は詳しくは触れてませんが、例えばレタスだと、春から秋は長野・群馬・北海道、秋から翌春は茨城・長崎・兵庫のを買うと、どれも旬なので、結局スーパーに並ぶレタスは年がら年中旬なのです!!!キャベツもダイコンもニンジンもトマトも同様に年がら年中「旬のもの」がスーパーに並んでます。そのため、消費者が旬を意識して生活したくても、「メジャーな野菜は年中旬」ということになってるんです。

科学技術の向上=全国各地で品種改良と栽培技術と冷凍・輸送技術が多いに向上したことと、南北にひょろ長いくて高低差も大きい日本の地の利もあって全国一年中どこかで「リレー栽培」ができるようになったので、ごくごくふつーのスーパーで何も考えずに野菜・肉・魚を買ってればそれで旬(魚の場合は旬の時期に収穫し、数ヶ月後に解凍したものも含めます。)なので、旬という概念自体が死語の世界になり、体に必要な栄養素が年中とれるようになりました。研究レベルが高くて栽培技術の向上に熱心な農家さんがいて多様な気候が各地にある日本に生まれて感謝です!っ的な話です。

年々、日本人は季節による栄養素の偏りが解消されて、それに主食や肉類はもとから旬がないので、佐々木先生は119頁の囲み文中で「栄養素にはあまり旬はありません」とはっきり指摘しています

今までの識者さんはしたり顔して「日本から旬が失われた。キュウリやトマトが年中手に入るなんていけないことだ。」と怒ったり悪い事だと嘆いていました。今思えば、彼らが嘆いていたのは俳句を読みたいためだったかもしれません。せっかく暗記した京都または東京中心主義の旬の知識。それが、いまじゃ全国各地からリレー出荷されるので読者から「その野菜は確かに東京では今が旬だけど、他の地方では別の時期が旬だし~。」と指摘されて地方軽視の都会重視主義が露呈してしまうことに気がつき、焦りがあったのかなあと思ったりします。

都会の文学者の旬知識を丸暗記して、「トマトときゅうりとピーマンの旬は夏だから夏しか食べない!ニンジンとダイコンとキャベツは冬だけしか食べない!」と意地を張っている人は、全国各地の様々な旬の物を食べる機会を失って栄養が偏る恐れがあります。

季節による食べものの偏りが減ったおかげで、旬など覚えなくてもなんとなく近所のスーパーで買うだけで健康の強い味方になってくれるありがたい時代です。スーパーの夏のニンジンは夏に旬が来る品種・産地のニンジン、冬のは冬に旬の品種・産地のニンジン。キウイフルーツが年中並ぶのは、ニュージーランドものと日本もので季節が逆だから。旬はミカンや柿や桃などの一部のフルーツ類にはこれからも残るでしょうが、そうしたものを除けば、旬を無理に覚えなくても、新鮮で安いスーパーの野菜が家庭の強い味方になってくれるという訳で、こんなに食に恵まれた日本に感謝です。

※秋にビタミンCを大量摂取してしまう理由は、柿とミカンを食べるからです。この雑誌を読む人は知ってるだろうと考えてか、先生は詳しく説明してませんが、ビタミンCはたくさん食べても体の外に排出されるので、蓄積は心配しなくて大丈夫。それとね、未だに誤解している人が多いけど、ビタミンCをたくさん取ってもガンが治ったりはしませんよ。1977年に物理学者のポーリング博士がビタミンを通常の100倍取る方が体にいいって間違いを主張したもんだから、名声に惑わされて今でもそんな説を信じてる人がいて困ります。ポーリング博士は物理学者だから専門外なのにね!


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ビーガン(ヴィーガン)について詳しく知りたい!

2019年11月10日 | Weblog
最近、「オリンピック・パラリンピックに向けてビーガン(ヴィーガン)向けの飲食店を増やそう」という新聞・雑誌・ネットの記事が増えていますが、ビーガンについて詳しく解説している記事はあまり多くありません。今回は、日本のおもてなし精神をよりよく発揮するヒントとして、詳しい情報を紹介します。

□ビーガンはウールの服も着ません。

ベジタリアンと混同して「完全菜食主義」と説明するのは、ビーガンの方々のセルフイメージとは違います。ベジタリアンは、所属している宗教・団体が菜食を勧めたからか、健康に良さそうなイメージで始めた方々です。動物を食べるのはかわいそうな気「も」する、と言う人が多いです。そのため、ベジタリアンであれば、牛乳や卵や魚を食べ、絹やウール(羊毛)の服を着ても特に怒られません。たとえばインドでは法律で、牛乳や乳製品は植物性食品とされているため、インドのベジタリアンは牛乳やヨーグルトなどを食べます。この情報は農文協「世界の食文化・インド」に基づき、詳しくはこのブログの2016年9月22日記事を読んでください。

ビーガンは、宗教や健康よりもまず、動物愛護精神が根っこにある運動です。ビーガンは「ビジネスマナーだと上司に叱られても、俺は革靴なんて絶対に履かない!」「金運が上がると言われても、蛇皮の財布はおぞましい!」「毛糸の服なんて絶対いや!かわいいと言われても、羊毛フェルトのアクセサリーなんて羊がかわいそう!」「絹糸って、蚕蛾を殺して作るんだよね。」と、毛皮や革製品・羊毛・絹などを否定することが前提にあります。「寿司は残酷だ。蜂蜜は蜂から蜜を盗んだ物だ。」という気持ちが先にあり、「それに、ビーガンは健康にもいいって噂だから。」という噂もあって植物性食品を食べる運動です。

□ビーガンはサプリメントと科学合成繊維が必須。
ただ、申し訳ありませんが、ビーガンが他の食事より健康によいという証拠は今のところありません。例えばharperbazaarの記事2019年9月14日付けによると、日本ではあまり知られてませんが、海外では人気ブロガーのジョーダン・ヤンガーさんなどの実践者が「体を壊してその怖さを告発する人も後を絶たない。」と記されています。同記事では管理栄養士の三城円先生が、ビーガン食について「全体の栄養バランスでみると、総エネルギー量が圧倒的に不足します。なかでも、タンパク質、脂質、カルシウム、鉄分、亜鉛などは、一般的な食事と比較すると明らかにマイナス。」と、して特にビタミンB12が完全に欠乏するので「要注意です」と指摘しています。

そのため、ビーガンはサプリと化学合成繊維・合成皮革が絶対に必要です。有機農業推進派は「工場で作られたサプリに頼るビーガンは不自然だ。」と言うのですが、ビーガンは「合成繊維や合成皮革などの工業品を使えば動物を搾取しないですむ。」と科学技術の恩恵を強調します。このように、ビーガン運動と有機農業運動は対立しやすいということも、よく覚えておいてください。

□ビーガン運動はどのように誕生したの。
 マナーや縁起や伝統上の理由で動物の皮、骨、毛皮、真珠、羽などを身につける文化が全世界にありますが、ビーガン運動は、そういう今までの文化に「いやだ!!」を突きつける運動です。だから「ヴィーガンって、菜食主義の厳格なものですよね。」と説明したとたんに、彼らが渇望するユートピア観からはずれてしまうのです。

 宮沢賢治先生(1896~1933)は短編小説「ビジテリアン大祭」の中でベジタリアンと肉食派の討論会を執筆しています。その当時はベジタリアンとビーガンには区別がないので、動物愛護でベジタリアンを勧める人も描かれています。この小説中に興味深いシーンがあります。ベジタリアンにすっかり論破された肉食派の1人が悔しさのあまり、君たちは羊の毛の帽子をかぶってるじゃないかと叫ぶと、会場は「割けるばかりの笑い声」に包まれて参加者全員がベジタリアンになるのです(ちなみにこのシーンはまだオチでもネタバレでもなくて、最後にとんでもないオチがあります)。つまり、約1世紀前のベジタリアン運動では、ウール(羊の毛)を使用するのは当たり前のことで、それを批判する人の方が嘲笑される時代だったのです。時が経つと人々の思考回路も変わるという実例ですね。

じゃあ、ウールなどを使用しない現在のビーガン運動はどうやって生まれたのでしょうか。だいたい1970~80年代ごろに、ベジタリアンとはまた別の運動として動物愛護運動が欧米で盛んになりますが、外国のさる有名女優さんが毛皮を着ながら動物愛護を訴えるので、大勢の一般の人々があきれてしまい、動物愛護運動を否定したのです。そうした反省から、動物愛護運動では1990年代に毛皮などを否定するようになり、やがて、化粧品も動物実験をしていないものを買おうという運動がイギリスで盛んになり、だんだんと対象品目が広がって、現在のように、ウールや革靴も身につけない運動になったのです。
 

□代替肉のお得意様はビーガンではない。
 さて、ここで代替肉についても詳しくご説明しますね。
 日本では、代替肉はビーガン向け商品と誤解されてるんです。でも、本場、欧米のメディアでは、代替肉を購入する人の大多数はむしろ普段肉を好んで食べる人だ、と報道されています。例えば、Forbes Japanの今年8月8日のビジネス記事(Andria Cheng氏の「需要が伸びる代替肉、それでも肉に「取って代わる」日は遠い」)にはこう書いてあります。

「代替肉を購入する人の多くは、習慣的に主に肉を食べている人たちだ。(中略)代替肉を購入した人の約98%は、実際には平均的な消費者以上に食肉を買っている人たちであることも分かっている。平均的な購入者(年間購入額は478ドル)よりも多く(同486ドル)を費やしている。」

ようするに、こういうことです。肉好きの人が時々ふっと「おれ、中性脂肪の取り過ぎかなあ。昨日もついつい肉をたくさん食べ過ぎてしまったよ。健康に悪い生活だなあ。でも肉を食いたいしなあ~。」とつぶやいて、免罪符気分で代替肉を買うの。

ビーガンは人数が少ないので、代替肉の主要な消費者になり得てないのです。例えば米国ではベジタリアンとビーガンを合計しても、国民全体のたった5%しかいません(先ほど紹介したForbe Japan8月8日記事より)。

 ちなみに、現在主流の代替肉は、大豆などの加工品で出来ていますが、1970年前後の日本でも同じような商品が流行しかけた時期があるんですよ。ところが、食品添加物反対運動の代表者の郡司さんという方が、「油を絞った残りかすに薬品と石油由来の香料を加えた食べ物が体によいとは私は思いません」と講演して一石を投じたのです。ただ、代替肉が定着しなかったのは、郡司さんの話ばかりが原因ではないと思います。当時の日本人の感覚では、お肉はハレの日の料理でしたので、子どもの頑張りのご褒美にハンバーグを買ったり、お祝いの時にステーキを食べるという家庭が沢山ありました。そのようなわくわくしている場面で「本物ではない肉」がでたら、気分盛り下がり度マックス。子どもの誕生日だったら泣いちゃう場面ですよね。だから当時は代替肉が定着しなかった、と考えたほうが当時の世の中の雰囲気をより正確に反映していると思います。

 現在、代替肉開発に積極的な企業は、ビーガン対応ではなく、むしろ、さっき書いたような「肉好きだけど脂肪のとりすぎが心配な人」への対応や、「CSF・ASFで豚が大量に死亡した中国大陸の方々への販売。」といわれています。特に中国料理は大量の豚肉を食べるので、昨今の豚大量死は国民にとって大問題なのです。すでに中国では大量の大豆買い付けを決めました(シカゴ 11月1日 ロイター「中国、米国産大豆13.2万トン買付 年度で632万トン=米農務省」)が、中国ではたくさんの豚が病気で死亡したため、この大豆を豚の餌として使用する量は少なく、大部分は代替肉などに加工して食べると見られます。その裏付けとして、日経の9月20日記事にこういうタイトルの記事も載っています。「中国、「人口肉」企業が台頭。豚肉、疫病や消費増で需要逼迫。数十社競合、株価急騰も」

 
□現在、なぜ欧米でビーガンに注目が集まってるの?
さっきも書いた通り、米国でビーガンとベジタリアンを会わせても全国民の5%しかいません。そんな極めて少数派の方々の活動に、ここ2年くらいで急に注目が集まっています。なぜでしょうか。このことについては「SNSなどで、うんこまみれの牛などの映像が拡散したためだ」と複数のメディアが報道していましたが、確かCNNだったかなあと思うのですが、記者が酪農家さんに取材したら「あの写真のような不潔な飼い方なんてありえませんよ。なぜなら、不衛生な環境で育てたら不経済で農業を続けられません。」というもっともな回答があったそうです。

そうですよね。農家さんが家畜を大事に衛生的に育てるからこそ、良質なミルクやお肉をありがたくいただけるのです。農家さんが牛をうんこまみれ環境においたら、その牛がお肉になるより前に病気で弱って死んでしまうでしょう?体が弱ったところで慌てて強力な薬を使って回復させようとしても、薬は値段が高いんですよ。だから、ほとんどの農家さんは動物を衛生的に大事に育てています。動物を虐待する農家は経営が出来なくなるからすぐに廃業します。

もしも皆さんが、不衛生な飼い方をされている家畜の写真・動画を見たら、「合成写真かもね。もしも本当の写真なら、希な農家を撮影したのかもね。」と考えてみることをおすすめします。

□牛のゲップが地球温暖化に与える影響は意外に小さい。
ビーガン運動が活発化したもう一つの理由としては、「牛のゲップにはメタンガスが入っていて、地球温暖化の原因になるから、肉を食べないようにしよう」というやや大げさな話が広まったことが挙げられます。メタンガスが混じってることは事実ですが、それを言うと、エコロジー運動で飼育が盛んなヤギや、お米を作る水田からも大量のメタンガスがでているのです。ゲップを批判すれば、ヤギによる草刈りや、お米も食べられないことになります。

2008年に発表された「日本国温室効果ガスイベントリ報告書」によると、日本の農業分野でのメタンガス排出量は、消化管内発酵(つまり、牛・羊・ヤギのゲップとおなら)が46%、稲作が37%、家畜排泄物管理(つまり、豚の糞などから出るガス)が16%でした。この事実を前に、稲作農家さんも畜産農家さんも、心ある方々はメタンガス排出を減らすように苦心していますし、科学者たちも、子どもたちの将来のためにメタンガスが稲作や畜産から排出される量を減らす栽培法・飼育法を真剣に研究しています。

先の報告書によると、日本国内での消化管内発酵ガスは二酸化炭素換算で704万トンです(異なるガス同士で温暖化に与える影響を比較するために、二酸化炭素で換算して比較するきまりです)。704万トンを日本の人口1億2600万人で割ると56キログラムです。一方、お風呂の追い炊きをやめれば二酸化炭素を87キログラム減らせます。エコドライブ(急発進や加減速の少ない運転を心がけること)をすれば、二酸化炭素を262キログラムも減らせます。燃費のよい車を買うことや、バス・鉄道など公共交通を使用するのも二酸化炭素削減に役立ちます。シャワーの無駄遣いやお風呂の追い炊きを止めるなどの日常生活で、家計も助かるのはうれしいことです。まずは、普段の暮らしで見直せる部分が大きそうですね。

□牛のゲップを気にするよりも、もっと私たちにできること。
環境問題の視点から牛肉の問題を挙げるならば、ゲップの話ではなく、餌となる草や穀類を栽培するために沢山の農地が必要なことです。アマゾンを焼いて作った農場の餌で育った牛は環境によくないのですが、大昔から草地だった土地で草を主体に食べて育った牛は、カーボンニュートラルに近くなります。牛肉を全部否定することは、今いる牛の遺伝子が途絶えることになるので、避けるべきでしょう。メタンガス排出を減らす活動をしている畜産農家や環境負荷の少ない餌を与えている畜産農家さんを応援することが、未来の子どもたちのためによい贈り物ができそうですね。日本人が食べる牛肉の量は欧米人よりもぐっと少ないから、牛肉の消費をやめても、温暖化ガス削減への効果は小さいのです。それでも牛のゲップが気になってしょうが無いというなら、なにもビーガンにならなくても、ジビエや豚肉や鳥肉を食べませんか?農家さんが丹精込めて作った農作物を荒らすイノシシなどのジビエを食べることは農家さんを元気づけるのに役立ちます。また、同じ量の肉になるには、牛より豚や鶏の方が餌の量が少なくて済むので、飼料を育てる土地の面積が小さいのです。しかも、コンビニなどで廃棄されたお弁当は豚の餌になるので、お弁当を燃やして灰にするよりもエシカルですよね。その上カーボンニュートラルに近づくので、豚肉を食べることでできる社会貢献もあるのです。以上のように、牛のゲップを理由に「ビーガンになろう」と言うのは論点がずれています。
 温暖化防止のために私たち日本人にできることは、エコな車の開発・販売や、自然エネルギー発電とこの間ノーベル賞をとったリチウム電池など。それから、家庭の節電、ゴミや食品ロスを減らすのも大切ですよね。

□オリンピック・パラリンピックでビーガン対応の食品を出すことについては、オリパラ終了後の着地点をぜひ美しく決めて欲しいと期待しています。海外では、先鋭的なビーガン運動家が肉屋や寿司屋に来て「そんなものを食べないでください」と営業妨害し、報道も過熱化して賛否両論が沸き起こっています。もちろん、穏やかな性格で自分の考えを人に押しつけないビーガン運動家もたくさんいますので、偏見を持ってはいけません。ただし、過激なタイプのビーガン活動家が来日して日本の文化を批判した時、どう対応するべきか、私たちは前もってよく考えておきたいものです。たとえば和歌山や千葉にきて「鯨をとるな!」、群馬や京都にきて「絹は蚕からの略奪物だ!」、長野にきて「昆虫を食べるとは何事だ!」、山口で「ふぐを食べるな!」という場面が想像されます。多くのビーガンさんはおだやかでも、一部の過激な方々が日本の素晴らしい伝統を否定することがないように、日本に育つ子どもたちの誇りや夢が傷つかないように、見事なフィニッシュと、あとあとの時代の人に「ああ、あのオリパラは素晴らしかった」と言える美しいレガシーを遺したいものだと思います。

2019年11月18日の追記:10日に投稿した際には、従来からの用語の「豚コレラ」「アフリカ豚コレラ」を使いましたが、コレラとは全く異なる病気で人間にはうつらない病気ですので、国際標準名の「CSF」「ASF」に改めることになるそうです。そのためこの部分を訂正しました。また、ジビエを食べて日本の農家さんを応援できることを追記しました。

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食べたコラーゲンがそのままお肌のコラーゲンにならないのはなぜ?

2019年10月02日 | Weblog
おばあちゃんからまた電話がありました。
「タミアちゃん、あのね、ある雑誌にへんな記事がのってたのよ。」
「どんなのですか。」
「それはね、こんな記事よ。「コラーゲンを食べると消化されてアミノ酸になりますが、そのアミノ酸が皮膚で再度コラーゲンの材料になるのではありません。」というの。
この記事は間違いだわ。だって、ある機能性食品の広告で、コラーゲンを食べた人の肌がぷるぷるになった論文が示されてたのよ。」あらあら、おばあちゃんは勘違いしてます。

「おばあちゃん、コラーゲンを食べたらお肌の潤いが増加しましたという研究成果は、食べたコラーゲンが皮膚のコラーゲンになったとは証明してないんですよ。」
「え??じゃ、なんで「コラーゲンを食べたらお肌が潤った。」と言う人が多いのよ。」

「現在、多くの科学者が考えている仮説はこうです。

コラーゲンを食べた後でお肌がうるおうケースが多いのは、食べたコラーゲンがお肌のコラーゲンになったからではなく、未解明の別の仕組みだろう。
(1)コラーゲンを食べると腸でアミノ酸とペプチドに分解されるが、そのペプチドの刺激で、繊維芽細胞(コラーゲンを作る細胞)が活性化するのでは?。
(2)真皮の中の幹細胞に働きかけて、繊維芽細胞が増えるかもしれない。
(3)たとえコラーゲンは増えなくても、ヒフの水分保持能力がアップするなど、別の理由で肌が潤うケースもあるでしょう。
・・・という説なんです。」

「なんですって?」

「そうねー、たとえ話をいえば、こういうことです。
「ニンゲン町のヒフという壁は、コラーゲンという鉄筋が不足して、壁の修理が必要でした。そこで、チキンポーク町のコラーゲンづくり名人、亜美野さんとぺぷちどくんを町に招きました。

亜美野さんとぺぷちどくんは工事しませんでしたが、お二人のお話を聞いて感動したニンゲン町の人々がヒフ壁を磨いてきれいにしました。

ところが通りがかりの人は勘違いして、「チキンポーク町の亜美野さんがコラーゲンを作ってヒフの中に入れたんでしょ?だって、亜美野さんがきたらヒフ壁がきれいになったんだから。」と思いこんだのでした。

・・・とまあ、こんな説明でだいたいわかってもらえるかな。」

「そういうたとえ話は、子供やあたし以外のお年寄りにはわかりやすいけど。でも私はリケジョのはしりなのよ。もっと科学的な用語で説明してほしいわ。」

「そうね、おばあちゃんは昔から科学が大好きだったものね。それでは、もう少し深く、食べたコラーゲンがヒフのコラーゲンになるとは断言できない理由を説明しますね。

まず基礎を押さえますね。

コラーゲンはタンパク質の一種です。
タンパク質はたくさんのアミノ酸が数珠繋ぎになってできた物質です。
アミノ酸は、アミノ基(窒素原子1つに水素原子2つがくっついたもの)とカルボキシル基(炭素原子と酸素原子2つと水素原子がくっついたもの)を持つ物質の総称です。

コラーゲンというタンパク質は、グリシン、プロリン、ヒドロキシプロリンなどのアミノ酸が数珠繋ぎになったものです。

食べたコラーゲンは、グリシンやプロリンなどのアミノ酸に分解されるほか、完全に数珠がぷちぷちと切れずに、数個~数十個の数珠繋ぎ(ペプチド)になったりもしています。

アミノ酸はまで分解された場合、ヒフのコラーゲン合成に使用される可能性がありますが、ペプチドはコラーゲン合成には使用できません。

ちなみに、コラーゲンが体内で消化された場合、アミノ酸まで分解されるよりもペプチドの段階で止まる量の方がずっと多いのではと言っている方もいますが、この説が正しいかどうかは異論もあるようです。

ここまではいいですか?」

「ふふふ、こんなの楽勝だよ。」

「ここからが問題なんです。
まず、アミノ酸まで分解された場合を説明しますね。

数珠はひもが切れたら、玉がころころころがります。その玉が赤に黄色に丸に四角に、と、様々な別の物に変化すことはありません。

ところが、タンパク質の鎖が切れたら、アミノ酸の玉は猛烈なスピードでころころ変化するんですよ。消化吸収されたアミノ酸はそのままではいられません。

たとえばグリシンって玉は酵素のアタックを受けて、セリン、トレオニン、プリン、クレアチン、グルタチオン、グリオキシル酸、などに変化します。さらにその変化で生じた物質が別の物質に変化します。

プロリンの場合も同様です。酵素のアタックを受けて変化した後、さらに別の酵素のアタックを受けて、最終的にはα-ケトグルタル酸に変化して、クエン酸回路に入って、体内のエネルギーづくりの目的で二酸化炭素と水に完全分解されるんですよ。

ヒドロキシプロリンはピルビン酸になって、呼吸に使われたり糖新生といって糖になったりします。」

「え!吸収されたアミノ酸は、元のままでいられないのかい?」

「はい、そうなんです。
たとえば某社のコラーゲンドリンクを飲んだとします。表示にはコラーゲン2000ミリグラム配合って書いてあるとします・・・」

「ふっ。たくさん入ってるように見えるけど、ようするにたった2グラムってことよね。」

「そのコラーゲンは、体内でアミノ酸に分解されるのもあれば、分解しきれずにペプチドのままのものもあるんですよ。
完全にアミノ酸まで分解できたのが仮に半分の1グラムだとしましょう。しかし、これらは酵素の働きによって別のアミノ酸に変化して筋肉になったり、DNAの材料になったり、クエン酸回路でぐるぐるまわって口から二酸化炭素となって吐き出されるのです。

一方、日本人は人によっても違いますが、まあだいたい1日70グラム前後のタンパク質を食べています。その中にはもちろんコラーゲンも含まれますが、それ以外のタンパク質も沢山あります。コラーゲンではないタンパク質は、よりアミノ酸まで分解されやすい傾向があります。そのアミノ酸もやはりぐるぐると様々な物質に変化するんですが、一部がヒフを作る細胞に届けられて、コラーゲン生成の原料に利用されるんです。」

「70グラムのタンパク質を食べているって、なにからなの。」

「うーん、そうですね。
卵1個50グラムを食べるとタンパク質が約6グラムとれます。
まさば切り身水煮100グラムでタンパク質約23グラム。
肉類だと、たとえば、皮下脂肪をのぞいた焼きもも肉100グラムでタンパク質約30グラムがとれます。ほかにも、豆腐や納豆など大豆類もタンパク質の大事な供給源です。

一方、コラーゲンの場合はアミノ酸にまで分解できずに、分解途中のペプチドに止まるケースも多いらしいってお話をしましたよね。」

「そうだったわね。そっちはどうなの。コラーゲンの原料にはならないと言ってたわね。」

「今までの研究から、吸収されたペプチドが、コラーゲン生成細胞を刺激してコラーゲンを作らせてる可能性が高いだろうと考えられています。あるいは幹細胞を刺激して、コラーゲン生成細胞を生成している可能性もあります。しかし、食べたコラーゲンがアミノ酸になってお肌に届いてお肌のコラーゲン生成の原料になっているという考え方は、アミノ酸が猛スピードで別の物質に変換してることを考えると、話を盛りすぎなんですよね。」

「あら、放射性同位体で標識をつけたコラーゲンを食べて、肌に移行するかどうかを調べてみたらいいじゃない?」

「うわあ、おばあちゃん、そこまで食い下がるんですか!」
「こうみえても、あたしゃリケジョなんだよ。」
「さすがおばあちゃん。だけど、そういう研究もあまり意味がないんです。仮に放射性同位体で標識をつけたコラーゲンを食べた後で、ヒフで標識が見つかっても、『食べたコラーゲンがアミノ酸になってそのアミノ酸が皮膚に届いてコラーゲンに組み立てられた』という証明でないのです。」

「そんな・・・。いったいなんでなの?」
「さっきはなした通り、アミノ酸は、次々別の物質に変化させられるからです。アミノ基と、炭素骨格のついたカルボキシル基は切り離されてバラバラになって組み替えられるんですよ。

アミノ基は体内の各種酵素でどんどんバケツリレー式に様々な物質に渡されて、次からつぎへと別種類のアミノ酸に変化しちゃうんです。アミノ基とさよならしたカルボキシル基と炭素骨格も、やっぱり高速で様々に変化しますし。

たとえば窒素に標識したとしますね。わかりやすく説明するために、今食べたコラーゲンの中の、1つのグリシンにつき1つの標識がついて、全部で100個のグリシンが投与されたとします。でも、体内に入るとアミノ基部分と骨格部分に分解されます。グリシン由来の炭素骨格は、豆腐や魚や肉などから来たアミノ基と次々くっついて離れます。一方、グリシン由来のアミノ基のほうも、米や芋や果物や野菜から来た骨格などとくっついては離れるのです。

そして、99個の標識は肉や骨や尿などにいきました。

そして、一方では様々な食品由来の大量のアミノ酸が、ヒフのコラーゲン生成細胞に何万個も届き、コラーゲンに組み立てられます。さて、その中に、たった1個、標識のついたアミノ酸がありましたが、そのアミノ酸はもはや『骨格部分はぐるぐる回ったクエン酸回路から供給された骨格だから、果物由来かパン由来か、本当のところ、何から由来してるのかよくわらんな』、な状態でした。さて、こういう状態で『コラーゲン由来のアミノ酸を原料にヒフでコラーゲンが作られました』と言えるでしょうか。」

「なるほど、そのアミノ酸が、何由来とか言うこと自体、もはや全く意味がないのね。」
「そうです。」
「だから、『食べたコラーゲンがアミノ酸になり再びお肌でコラーゲンの原料になる』という言い方は、とっても大げさなのね。なるほど、だからあの雑誌の文章は科学的に適切な表現だったのね。反省するわ。」

「ありがとうございます。念のため、コラーゲンを飲食するのが無駄と言い切れないことも強調します。
繰り返しますが、直接お肌のコラーゲンになる可能性はきわめて低いが、コラーゲンを飲んで体内で生成されるペプチドが、肌に対して、コラーゲン生成するように働きかけしている可能性を示唆する研究論文が次々登場しています。
ただし、劇的な若返り効果と言うほどでもありませんので、値段と効能が見合ったものか、慎重に判断して購入してください。高いからよいという訳ではありません。原料として何を分解して得られたペプチドなのか、また、どういう分解法なのかによっても異なるペプチドが出来るので、性質も異なると考えられています。まだまだ未知の分野です。今後の研究で体内での仕組みがしっかりと解明されてほしいものです。」

「でも、あのメーカーのコラーゲンは機能性食品として申請したから、食べたコラーゲンがヒフに届くことが証明されたと、いってもいいんじゃないの?」

「おばあちゃん。それは基礎科学と法律をごちゃごちゃにして語ってます。基礎科学は全世界で同一のユニバーサルなルールですが、法律は人間が話し合いで決めるものなので国によって異なります。機能性食品の届け出制は海外には今のところ存在しない日本独自のユニークな法律です。」

「どこがユニークなのかしら」
「国ではなく企業の責任の範囲で食品の効能を主張することが認められた、世界の最先端の超斬新な制度です。法律を、科学と疑似科学を見分ける線引きに利用してはいけません。」

「なるほど、機能性食品で認められたからってものの言い方は、科学的事実の評価には使っちゃいけないのね。小島先生にこのことを伝えておくわ。お友達は選んでねって。」

「え?小島先生ってだれっ?」
「それは聞くだけ野暮よ。」


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外食で塩分を減らす方法。

2019年08月24日 | Weblog
前回、塩分の取り過ぎにご注意をという記事を書きましたが、「外食すると塩分を取り過ぎるのよね。」と悩む人も多いと思います。今回は、外食や中食を上手に活用しながら、塩分を控えめにできる簡単テクニックをご紹介します。
なお、ここに書く減塩方法はゆるい方法です。腎臓病や高血圧症の症状もなければ診断もされてない段階向けなので、すでに少しでも自覚症状が出ている方や診断された方はお医者様の指導の元でもっと厳密に食事メニューを工夫してください。

・まず最初にポイントですが、食事の全部を薄味にすると、物足りなかったり、結局手料理しなければならなくて、長続きしない方が多いのです。
なので、食べものの一部分を、無塩で美味しい食べものに置き換えると取り組みやすいですよ。
例えば、醤油せんべいが大好きで毎日醤油せんべいばかりおやつに食べている人が、全部薄味せんべいにしたら、耐えられないでしょ?そこで、醤油せんべいを半分に減らして、その代わり、フルーツ寒天やかき氷、アイスクリーム、ヨーグルトなど、塩分のとても少ないおやつを選ぶと、長続きできることが多いのですよ。

・めん類は、汁を残す。
ラーメンの汁、美味しくて、私もついつい飲みたくなるけど、そこは我慢です。そば湯も、おいしいからとがぶ飲みすると塩分過剰になるので、めんつゆは少量入れるだけで我慢したいですね。

・野菜類は、同じ重量を食べるなら、漬物よりサラダの方が塩分控えめ。
漬物の乳酸菌を取りたいという方は、代わりにヨーグルトなどから乳酸菌を取れますよ。植物性乳酸菌について以前このブログで3回に分けて書きましたが、ヨーグルトの本場ブルガリアのヨーグルトの菌は植物由来で、当然日本でもその菌を使ったヨーグルトがたくさん販売されてますし、それ以外に、植物と動物性食品の間をいったりきたりする菌もあり、また、人間の腸内の善玉菌を活用したヨーグルトもあるし、なので、植物性が良くて動物性が悪いなどと二分できないのです。


・食卓に、醤油やソースや塩などの小瓶が置いている店で。塩の強い調味料を使うときは料理の上からかけないのがこつです。別の小皿に調味料を入れて、食品をはしなどでつまんで小皿につけると、少なめの調味料で美味しく食べられるんですよ。特に、唐揚げの様に最初から味がついている物は、レモン汁や唐辛子など塩分のない調味料を使うといいですよ。

・和食なら、塩漬けの魚よりも、さしみや鮭のバター焼きなどの鮮魚を選ぶ方が塩分が少ない。刺し身の時も、醤油はほんのちょっとつけるだけにして、お魚の繊細な味を楽しんでくださいね。

・昭和の生まれの人は、料理は塩や醤油などの調味料で味わうものだと思っている人もいまだに多いので、そういう方は素材の香りやテクスチャーを味わう気持ちを心がけてください。そうすると、塩や醤油は少量ぐらいの方が、素材のおいしさを引き立てることに気がつきます。

・外食が必ず和食か中華という方は、時々洋食を取り入れてみませんか。というのも、有名外食チェーン店を比較すると、和食や中華より洋食の方が塩分が少ないメニューが多いからです。意外なのが、実はハンバーガーセットは低塩だということ。もちろん毎食ハンバーガーだとカロリーが高くて食物繊維やビタミン類が不足するので、時々食べる程度ですよ。牛肉が苦手な人には、魚肉、鳥肉、豆腐(肉もどき)のバーガーなどもあります。

・外食店にはいろいろな店があるので、メニューを良く見て味わい、比較検討すること。素材の風味を生かして比較的塩分が少ない店もあるし、塩味を強くして素材の風味がわかりにくい店もあります。

塩分を減らそうと気をつけることは、素材のおいしさや、料理人さんの工夫やこだわりに気がつくきっかけにもなります。おいしく、食事を楽しみながら塩分を控えたいものだと思います。

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「味噌汁の塩分は高血圧にならない」は誤解。

2019年07月23日 | Weblog
「味噌汁に含まれる塩分は1グラム程度と少ないので血圧に影響はありません。」という文章、昭和の頃から健康雑誌によく載っていますよね。でもそれは誤解です。どうやら、栄養について大学などで勉強したことのないライターさんが誤解で書いて広めているようです。

 なんてったってみそしるは日本人の郷愁をそそる美味しい料理です。だから「飲み過ぎると塩分が心配だよね」と言う人よりも、「心配ご無用!」と言う人の方が好かれますよね。ライターさんも人気商売ですから、「いいね」が欲しくて「味噌汁は健康に良いことばかりで悪いことはありませんよ」ってな文章を書く残念な人もいるのです。マスコミがそういう人を登用するのは危険です。きちんと栄養学や医学を学んで事実を伝えるライターさんに記事を書いて欲しいですよね。健康情報について誤解している記事が増えたら、ツケを払うのは私たち消費者なんですから。

今回は、この「あるある文章」のどこが間違いなのか、わかりやすくご説明します。(念のために:味噌汁を上手に利用すれば野菜や海藻や肉や貝などを美味しく食べられるので、味噌汁にはいいところもいっぱいあります。だけれども「味噌汁に含まれる塩分は心配ご無用だ」という文章はアウトだよ、という説明です。)

まず、「お米にはヒ素が含まれますが、普通の調理方法で普通に食べる量なら、ヒ素は少量なので健康に影響はありません。」という文章は事実です。
このように、世の中には「大量に取れば健康に悪影響があるが、常識的な食事なら悪影響が出ない物質」が色々あります。それで
「食品Aには、物質Xは少量しか含まれないから、安心していいですよ」
と役所などが情報提供しているのですね。

そしてですね、実は冒頭の文章は、役所の定型文の「食品A」のところに味噌汁、「物質X」のところに塩分と書き込んだパロディなんです。炊いたご飯に入っているヒ素は、常識的な食事量だったら少量しか体に入らないことが科学的に明らかにされた物質です。だから、この定型文が書けるのです。一方、塩分は、常識的な食事でも過剰に体内に入ってしまうのです。だからこのような定型文にのせて紹介しちゃいけないのです。放っておけば、塩気のついた食品はついつい美味しいからたくさん食べてしまうからなんです。

(塩分と食塩の違いについて(知ってる人はここを読み飛ばして大丈夫ですよ。)。「健康のために塩分の取り過ぎには気をつけましょう」という文章の指す「塩分」とは、ナトリウムのことです。醤油や味噌の主原料である「食塩」の正体は、塩素とナトリウムが結びついて出来た化学物質の「塩化ナトリウム」です。食塩を水気のある食品や口の中に入れると、塩素イオンとナトリウムイオンに分かれるのですが、このナトリウムイオンを取り過ぎると体に影響が出やすい、ということなんですね。ということで、厳密には塩分(ナトリウム)と食塩は違うのですが、塩分はたいてい食塩からやってくるので、塩分という言葉と食塩という言葉はだいたい同じ意味で用いられるのです。)

例えば、ごく普通の勤め人の平凡な一日を想像してみましょう。

朝ご飯。白米には塩気がありませんが、食塩(つまり塩化ナトリウムですね。)の摂取量は焼き魚から1グラム、タクアンとキムチからは2グラム、味噌汁飲んで1グラム。
昼ご飯はラーメン食べたら5グラム・おやつに塩気のあるパンを食べたら1グラム。
晩ご飯は健康に気を遣いたいなと思います。テレビや雑誌が「乳酸菌が取れるから体に良いんだ」と言っていたから「ぬか漬け」も食べましょう。食塩が2グラムだ。味噌汁も体にいいとテレビや雑誌が言うから2杯飲みましょう。食塩2グラム。野菜の天ぷらも体にいいよね、と天つゆで食塩1グラム。食物繊維が多くて腸内環境を整えるとヘルシーな印象の野菜の煮物で食塩2グラム。

こうして、一日の食塩は合計で17グラムとなりました。・・・・あれ?日本人は一日どれぐらいの食塩量を取るのがおすすめなの?
はいはい、それはですね、厚生労働省が定めた「健康日本21(第二次)」という平成25年度から10年間の計画によると、日本人は塩分を取り過ぎなので平成34年度までには塩分を食塩換算で一日8グラムに下げることを目標としましょう、と定められています。別表第5という資料に載ってますよ。WHOは5グラムを目安にしていますが、日本人にはこの目標は高すぎるので、8グラムと設定しているのです。一方、あまり気を遣わずに食事をしていたらたちまち食塩が15グラム以上は簡単に体の中に入るのだから、結構怖いですね。

だから、ヒ素や水銀のような物質とは違い、食塩はとにかくいろいろな場面で減らすように気をつけた方がいいのです。

「味噌汁の塩分は1グラムだから心配いらない」という言葉が許されるなら、「食パンの塩分も1グラムだから食パンの塩分も心配いらない」「この漬物の塩分は2切れで1グラムだから心配いらない」「この塩魚の塩分は2切れで1グラムだから心配いらない」「この煮物も一口分だったら塩分1グラムだから心配いらない」と、なし崩しで、なんでもかんでも「塩分1グラム程度だから心配いらないよね」となります。消費者は「これもあれもたった1グラムだから安心して食べられる」となって、チリツモで一日15グラムを簡単に突破してしまうのです。こんな悲劇を防ぐためには、「味噌汁の塩分だったら心配ご無用!」という説には耳を傾けてはいけないのです。

ラーメンの汁を残し、味噌汁も乳製品などを入れてコクを出して減塩する、漬物も煮物もレモン汁を入れるなどのアイデアで減塩を工夫する、などなど、1つ1つの食品はちょびっとでもいいから食塩を削ることで、食事全体の食塩の摂取量を減らせるのです。だからこそ、いろいろなメーカーも一生懸命、減塩醤油や減塩味噌・減塩漬物などを生産しているのですね。「味噌汁の塩分だったら1杯1グラムだから気にしなくていい」なんて台詞がまかり通るんだったら、一生懸命減塩味噌を製造販売している味噌業界の努力はどうなるのかな?味噌業界の味方をしているつもりが、ひいきの引き倒しですよ。

「食塩をとっても高血圧にならない遺伝的体質の人がいるから、食塩を減らそうなんてみんなに勧めるのはおかしい。」という人がいますが、これも生半可に信じるのはとても危険な説です。理由は2つあります。まず、食塩を取ると高血圧が進む人は日本人の約半数いて、自分の血圧が食塩に反応するかどうかは病院で調べないと分からない。だから、日本人全員に一様に「高血圧にならない人もいるんだから、食塩を減らそうと進めるのはおかしい」と言うのは、約6千万人の健康を害しかねないのです。
もう一つの理由は、腎臓への負担の問題です。これは少し後で改めて述べます。

腎臓の話の前に、「味噌汁の塩分は心配ない」説の根拠とされがちな「もう一つの都市伝説」を紹介しましょう。それは「味噌汁の具に野菜を豊富に入れれば、野菜のカリウムのおかげで塩分(ナトリウム)が排出されるから心配いらないよ」という「あるある間違い」です。なぜ「あるある間違い」なのかというと、もしも「カリウムをとればナトリウムが排出されるから心配無用」が正しいなら、次の文章も正しくなるからです。

「塩魚をカリウムの多い野菜でくるんで食べればいい」
「パンに野菜を挟んでサンドイッチにすればいい」
「煮物は野菜が多いから煮物の塩分は気にしなくていい」
「梅干しは梅の実由来のカリウムがあるから塩分を気にしなくていい」
「ラーメンにモヤシとネギをたっぷり載せればいい」
「カリウムのサプリメントを飲めばいい」

はい、そろそろ読者の皆さんも、これらの文章がおかしいと気がつきましたよね?
はい、次の文章を声に出して読んでください。「カリウムさえ取りゃ食塩をたくさん取っても大丈夫というお気楽な説が事実なら、国やWHOが塩分摂取量の上限を定める必要ないじゃん!!」
はい、ご協力ありがとうございます。

カリウム摂取が体内のナトリウムの排出に役立つのは事実でも、大量にカリウムとナトリウムを取る生活をしていたら腎臓に負担がかかります。医師の指導下なら可能ですが、素人が家庭で自己流にやると、体質によっては最悪死に至ります(詳しくは次の段に書きますね)。まずは、とにかく体内に入る食塩を減らす方が大事なんですよ。だから、元の「野菜たっぷり味噌汁なら塩分が体外に排出されるからオッケー」論も間違っているのです。

この点を、歴史を簡単に追って説明しましょうね。
ナトリウムを取っていてもカリウムもたくさん取れば血圧(最大血圧)が上がりにくくなること自体は1958年のMeneely and Ballの論文や、1972年の Dahl et al.の論文で知られてはいたことでした。しかしですね、1980年にAcademic Presss社からMorley R. Kare博士らが発行した塩と生体の関係の研究書で、ペンシルバニア大学Torii博士が一部分執筆を担当し、重要な研究結果を報告するのです。高血圧研究用のSHRラットの子どもにこの実験をすると、実に44%(25匹のうち11匹)が死んでしまったのです。

この本を手にして驚いたのが、東北大学農学部の木村修一教授でした。SHRラットは腎臓機能が少し弱いらしいことは当時から知られていました。木村先生は1987年発表の論文「食塩の生理」に、Torii博士の論文を引用して、こう説明しました。「ネズミでこのようなことが見られることは、人間の場合でも腎臓がよくない場合など、塩化カリウムを単純に塩化ナトリウムの代わりに使えばよいといった単純な発想には疑問が残ります。」この文章は、ナトリウムの害を防ごうと思ってカリウムをたくさん取れば、腎臓が弱い人が死ぬ可能性がある、と示す文章でした。

ですが、1984年に鳥取医科大学の家森幸男教授達のグループが、日本人でもカリウムをたくさんとれば高血圧が防げることを証明し、この実験は健康な高齢者を対象としたため、腎臓への危険性が医学者には認識されないまま、世の中は「カリウムを取ればOK」論に流れてしまいました。家森先生達の研究そのものは正しかったのですが、世の中にはこの研究成果を応用できない生来腎臓の弱い体質の人がたくさんいて、しかもその体質は隠れていて本人も自覚がない、という重要な点が見過ごされたのです。
初期の腎臓病も自覚症状がありません。多くの患者さんは、健康診断で医師から指摘されて初めて知りますが、健康診断を受けない人や、結果を聞かされても自覚症状がないものだからピンと来なくて話を聞き流してしまう人も多いのです。でも、重症化してから「ああ、食塩とカリウムの多い野菜を食べ過ぎてしまった。」と後悔しても、もう間に合わないのです。

高齢化が進んだ現代、高齢者はかなり高い確率で腎臓を患っていることが確認されてます。慢性腎臓病は、70歳代で約3割、80歳代で約4割の方に生じています。野菜をたくさんとればいいという生兵法では、大勢の方々の命を損なうことになります。しかも困ったことに、古い時代の教育を受けた医師や栄養士には、未だに「野菜をたくさんとればおっけー」論を信じていて、情報をアップデートしてない方も大勢います。高血圧と腎臓が心配な方は、きちんと専門医にご相談して、適切な量のナトリウムとカリウム量にセーブするように心がけてくださいね、

勘の鋭い方は気がついたはずだけど、一部の声の大きい方は「○○という物質の世界基準は1日につき○マイクログラムだけど日本の基準はそれより緩くて許せない!」とよく言うけど、こういう人たちは「塩化ナトリウムの日本の基準は世界より緩くて許せない!」とは決して叫ばないのですよね。でも、どっちの方が、より切羽詰まって深刻な問題かと言えば、大勢の人たちが悩んでいる高血圧問題です。日本人の約半分が塩分に反応して高血圧が進む体質だから、国の医療費削減のためにも減塩はこれからも進めたいですよね。タミアは、医療費削減のために社会のお役に立ちたいです。だから「味噌汁の塩分は気にしなくてオッケー」説は間違っていると、声を大にして叫びたいのです。
みなさんも、本当にこの国を愛しているなら、医療費削減のためにも、お年寄りが健康的に長生きできるためにも、おかしな健康情報を掲載している雑誌には気をつけてください。

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「色々な物を食べよう」と「何でも食べよう」は全然違う。

2019年06月20日 | Weblog
「AI vs.教科書が読めない子どもたち」を執筆した国立情報学研究所の新井紀子教授は、7万人を超える方々に短文読解力テストを実施し、多くの方々が短文を正確に読めない事実に衝撃を受けたそうです。この間の6月17日の日経記事にそう書いてありました。
「そんなに日本人の読解力って落ちてるの?」と首をひねってたら、それを昨日実感しました。芸能関係のニュースに強い「ネタりか」サイトさんの記事「娘がお弁当を全部残してきた・・・」を読んだ時のことです。

記事はこういう内容でした。
障害が原因で特定の食品が食べられないお子さんがいました。その子が小学校の給食で「出された物は残さず全て食べなさい」と指導されて、その苦手な食品が入っていたために、ひどい吐き気で苦しんだのだそうです。それで、お母様で料理研究家の桜井奈々さんが、自身のブログにこう書きました。栄養バランス的には色々食べられた方がいいが、吐き気がする程嫌いな食品を涙を流してまで食べるように指導するのは正しいことなのでしょうか?と。このブログが多くの方々の共感を集めている、と記者は報告しています。

記事の後半には、「しらべえ編集部」が全国の男女1352人に調査して「給食で食べてトラウマになったものがある」と回答した人が全体の約14%だったことも記してありました。そしてネタりかの記事の最後は「無理矢理食べさせることは、正しい食育なのだろうか。」と締めくくられています。

これを読んで、タミアはとても残念に思いました。栄養学者の言う「いろいろなものを食べて栄養バランスを取ろうね!」という台詞は、「どんなものでも何でも食べよう」という話とは全然違うからです。栄養学は、いやな物を無理して食べろとは言ってないからです。栄養学は世界で学ばれている学問ですが、ムスリムの方に豚肉を強制してますか?してませんよね。ベジタリアンに牛肉や昆虫食を強制してますか?してませんよね。そう、栄養学は、いろんなものを食べることをおすすめしてますが、どんな物でも食べろとは言ってないのです。

ところが、どういう訳か、小中学校の食育や給食の担当の先生は「好き嫌いは悪いことだ」という日本の古い考え方と栄養バランス説を頭の中でごちゃごちゃにして、「栄養バランス説はどんな物でも絶対食べろという意味なのね?」と信じてるので、この桜井さんのお子さんのようなかわいそうなケースが発生しているのです。もちろん、ただの食わず嫌いだったら良くないことなので、そういう子には、味付けや見た目などを工夫して食べられるものの種類が増えるようにしてあげられればいいのですが、吐き気がするほど嫌いな物となると話は別です。

新井先生の指摘を思い出してください。「いろいろな物を食べよう」と「何でも好き嫌いなく食べよう」は同じ文章ですか?違う文章ですよね。小中学校の先生でさえも、こんな簡単な文章を正確に理解できないとは。そういうおかしな学校教育を受けた結果だと思いますが、このネタりかの記事に、かなりの数の読者も「嫌いな物があるなんてわがまま。社会ではそんなことは通用しない。親の甘やかしだ。」というようなパターンのコメントに賛同しているので、こういう批判を書いてかっこいいつもりになっている人たちも、実は、困った先生に教育された哀れな被害者なんだなあと思います。

料理研究家の桜井さんも、もしかしたらはっきりとこの点について意識してないのかもしれません。記事によると、桜井先生はいろいろな物を食べることが大事だとは分かっているが「今回みたいなことがあると正直よくわからないです」と困惑しているそうです。桜井先生、どうか自信を持ってください。栄養学は、食べられないものを無理して食べさせる学問ではありません。

宗教や信念など様々な理由で、あるものをどうしても食べられない人がいますし、顎関節症や歯並びの事情で固い肉などが食べられない人もいます。「嫌いなものがあるのはわがまま・親の甘やかし」という人は、そんなことを言うのだったら、ベジタリアンの方に昆虫を食べさせますか?それ、虐待ですよね。
生まれつき嗅覚や触覚が鋭敏なため、特定の物が食べられないという人が料理人にもいます。ある種の食べものの微妙な悪臭などが、他の人より強く感じられるからです。特に発達障害の方には、味覚や臭覚がとても鋭敏で、この特殊能力を生かしてコーヒー専門家として活躍している人もいるほどです。
ガラスや黒板をきーっとひっかく音が苦手な人、いますよね。そういう人を見て「嫌いな音があるなんてわがままだ。親に甘やかされて育ったんだろ」と思いますか?生まれつき嗅覚や臭覚が鋭くて食べられないものがある苦しみも、黒板のひっかき音が苦手な人がいることと全く同じことなんですよ。

また、コメント欄には、「おばあちゃんはご飯と味噌汁と漬物ばかりの食事で90数歳まで長生きしたから、いろいろな物を食べようという栄養学自体が信じられない。」というような意味のことを書いている方もいたけど、そういうコメントは「私のおばあちゃんはカラオケ教室に通ったことがないけど歌が上手だから、カラオケ教室に行くと歌が上手くなるなんて話は信じられない。」と同じ。おばあちゃんは、カラオケ教室に行ってたらさらにもっと歌が上手くなったかもしれないし、栄養バランス良い食事を取ってたら、110歳まで生きてたかもしれない(笑)し。
あ、ちなみに、給食でトラウマになった人が約14%いたということは、「給食で出された食べものは好きになる」という良く聞く噂も「盛り」確定ですね。

新井紀子先生、「いろいろな物を食べよう」と「どんな物でも何でも食べよう」の区別もつかない日本人がたくさんいますので、文章を正しく読める人を増やすためにこれからも頑張ってください。そして桜井先生、どうか元気をだして、お子さんの幸福のため「食べられないものは食べられません」と胸を張ってください。タミアは、お子さんの健やかな成長を心から願っています。

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星はなんでも知っている。シュタイナーでどっきり。

2019年06月09日 | Weblog
「あ、あの窓!」
友達のノブさんが指さしたのは、住宅街の一軒屋の窓でした。
そこには、半分透き通った紙で作った幾何学的なお星様。
老舗喫茶店に行く途中でした。
「タミアさん、あれなつかしいね。」
「そうねノブさん。確か10年位前に流行したよね。」
「もう無くなったと思ってた。・・・」

すると、続けて、ノブさんは、意外なことを口走りました。
「あの星って、目印だったな。」

目印?何の?
なにかが私の頭の中で、チカチカと回るのを感じました。

「あれを貼っている家は、オーガニックとかスローなんとかとか、雑誌の宣伝にすぐ飛びつくキャラの女子が住んでるなって、バレバレだったよね。」

そうだ。
そういえば、「センスのいい流行物」を紹介する雑誌で時々見かけたなあ。オーガニック素材の日用品を売る雑貨店と知育玩具店にあった。
有機農産物店にも、なぜか飾ってあった。
「お子さんと一緒に折ってみませんか?」とかなんとか書いたPOPもあって、普通の折り紙とセロファンの中間のような半透明の折り紙の束を売っていた。

この紙を規定の形に8枚?12枚?・・・とにかくたくさん折って、点対称にぐるり並べると星の形になる。これを窓に貼って完成する。
ちょうど息子が幼かったので一瞬気になったけど、でも、息子は折り紙に関心無かったし、同じ形の物をたくさん折るなんて時間ないし、クリスマス以外の時でも星形ばかりおすすめするので「変だなあ」と思って、結局真似しなかったなあ。

目印、と聞いて、私は、何か背中が寒いものを感じました。
黙りこくった私を見て、ノブさんは別の話に切り替えました。
それで、その日はそれまで。その後で詳しく調べて見ました。

その結果分かったこと。あの星は、有機農業マニアやロマンチック系のオカルトが好きな人に大人気の、「シュタイナー教育」の幼児教材でした。シュタイナー教育は知識よりも芸術性や感性を重視するので、そういう教育がツボにはまる子供と全然合わない子供がいます。教育の背後の理論は、とても神秘的な(なぞっぽい)オカルトです。まあ、万人に勧められる物ではなくて、「ごく一部の人には合うかもしれない」ぐらいの話です。
シュタイナー教育の教材は10年前当時、オサレな店とオーガニック系の店に、よく置いてました。この折り紙キットを買った人は、それがシュタイナー教育キットだと知ってたのか、それとも単に流行りできれいだからか、そこは分からない。

けど、つまり、この星を窓に貼ることは・・・・
この家に幼い子供か若い女性がいますよー!
しかも、折り紙に手間暇かける程度の時間の余裕もあるよー!
有機とかスローなんとかってのが好きだよ~!
ロマンチストな上に意識高い系だよ~!
流行と宣伝されると素直に飛びつくお人良しだよ~!

、と自分で叫んでいるようなものです。

・・・背中が寒くなってきました。

本当に効果があるのかよく分からない化粧品や健康食品、キラキラ系宗教、乙女心をくすぐるメルヘンチックなおまじない商品のポスティングする時に、狙いを定めやすいってことです。タミアはそういう連中とは付き合いがないから、彼らがあの星を目印にしたという確証はないけど、そういう商売をしている人が、あの星を飾ってる家を見たら、しめしめカモだと思ったことでしょう。

そう、確かに、あの紙をお店で見たとき、「もっと簡単に折れる花や犬やネコを折って貼ればいいのに、星の形しかおすすめしないのは変だな?」と思ったことがあった。星の形にこだわったのは、シュタイナー教育の面では理論上のわけがあったんだろうけど、日本国内では、偶然だとは信じたいんだけど、結果的にはね、「この家の住民が流行をあっさり取り入れやすいかどうか識別するのにガンガン使えた」、ってことです。

たぶん、今日も、○○を食べ歩きしたり、○○の店に行列作って並ぶのをSNSに投稿したり、○○のカバンや時計を持っていることで、だれかが「お、あいつは宣伝広告に簡単に引っかかるやつだな。」「あれを身につけるなんて、ははーん、あの雑誌の読者だなあ。」
「素直というか、カモられやすいというか、使いやすい人物だね。」と、個人情報の推定に利用されているんでしょう。



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