今回は変なタイトルですが、疑似科学の一種「水からの伝言」(通称「水伝」)と、歴史のねつ造である「江戸しぐさ」と、一部の食育指導者によって広められている疑似科学の「身土不二」説と、このブログで8月11日に紹介した「ツタンカーメンの豆」という都市伝説は、ある共通点が有る、ということをこれからご説明したいと思います。
その前にツタンカーメンの豆の話について第二報をお伝えします。
8月11日のブログに書いた通り、世界各地で「ツタンカーメン王墓から発見された豆の子孫」として栽培されている観賞用スイートピー(欧米ではこちらが主に栽培されている。)もしくは食用エンドウ豆(日本ではほとんどこちらが栽培されている。)は、どちらもツタンカーメン王の墓から出た豆ではないのですが、このことについて、著名な作物学者の前田和美高知大学名誉教授が2003年に「農耕の技術と文化」26号においてすでに指摘されていたのだそうです。
にも関わらず、その後この問題提起について学術的に論考した方が他にいなかったので、前田先生は2015年11月発行の著書「豆」(法政大学出版局)において、さらに詳しくこの問題をお書きになられ、「読者の批判と教示が得られれば幸い」とお書きになっているのです。日本人がいかに作り話に対して甘いかを示すエピソードと思います。
この「豆」という本に書かれた研究成果によると、カーター氏がツタンカーメン王墓で発見してイギリスに持ち帰った豆は、ヒヨコマメ、ヒラマメ、野生のメスキート、野生のエンドウ(1粒のみ)、ガラスマメ、野生のレンリソウだったということです。
一方8月11日のブログに書いたのですが、Heraldnet社がRoyal Botanic Gardens at Kew のスポークスマンRajveer Sihota氏に尋ねた所、peaに関しては"Only seven pea seeds"がツタンカーメン王墓から出たとの回答だったそうです。英語では豆をbean(楕円形や腎臓型の豆)、lentil(平たい豆)、pea(それ以外の丸い豆)等に分類するのですが、先述の前田先生の記した豆の中で英語でpeaと呼ばれるのは、ヒヨコマメ、野生のエンドウ、ガラスマメ、野生のレンリソウのみです(メスキートはbean、ヒラマメはlentilです)。
つまり、これらの情報をまとめると、王墓から見つかった7粒のpeaの中には、食用エンドウ豆は一粒もなかったのです。しかも、先のヘラルドネット社のニュースによると、この見つかった7粒の豆はキューガーデンに保管された(つまり蒔かれなかった)ので、観賞用スイートピーの方にしても食用エンドウ豆の方にしても、ツタンカーメンの王墓由来という説はあり得ないのです。
更に、日本で広まった食用エンドウ豆の方の「ツタンカーメンの豆」については、苦笑いせざるを得ないニュースがあるのです。この豆は前のブログに書いた通り、米国人のAさんが日本のある方に寄贈して、「善意の輪」で広がったのですが、この寄贈時の英語の手紙も前田先生は判読して、とんでもない事実を発見しているのです。
それはなんと・・・手紙には、寄贈した豆がツタンカーメン王墓から発見された豆だとは、書かれてなかったのです。書いてあったのは、「ツタンカーメン王墓の近く(beside)で」見つかったとの文章でした。
1980~90年代頃の日本で、「消防署の方から来ました。」といって消火器を法外な値段で売りつける悪質商法が広まり、捕まった犯人は「私は消防署から来たなんて一言も言ってませんよ。消防署の方角にある一会社から来たんです。」といいわけをしたという有名なエピソードがあります。Aさんも日本の関係者も悪気はなかったのだと思いますが、結果的には「ツタンカーメン王墓の方から来た豆です。」という、なんだか消防署の話と似ている話だったという訳です。
さて、水伝と江戸しぐさと身土不二とツタンカーメンの豆の共通点、それは、どれも全て、権威の有りそうな人々の会話や書物を通じて感動と共感の輪を広め、教育の場を介して広まったということです。どんなに感動しても、それらは全て作り話なのです。子ども達の道徳心を養ったり、科学への関心を広げたり、健康な身体を養うという目的で、嘘やでたらめを教えていいのでしょうか。サンタクロースのお話の例があるからいいではないか、と思う人も居るかもしれませんが、サンタさんは、子どもが成長する過程で、「サンタさんは人々の暖かい心の中にこそ居る物で、心の外には存在できないものだ」と悟るものです。一方水伝等は信じ込んでしまったら最後、いつまでも「事実である」として修正されない蟻地獄に陥るのです。私達は後世の人達に、嘘を事実として伝承していいのでしょうか。
嘘やでたらめを使わなくても、私たち人類には、人の心の美しさを学べる様々な歴史上のエピソードがあります。科学の不思議さを学べる様々な自然現象があります。健康を養うのに役立つ科学的な栄養バランスという概念があります。
教育の場で、嘘やでたらめを少しでも減らせるように、教育に関わる方々に、心よりお願いいたします。そのためにこのブログが少しでもお役に立つことを願っています。
10月13日追記:脱字の訂正と、文章の意図が正確に伝わるように一部修正しました。
その前にツタンカーメンの豆の話について第二報をお伝えします。
8月11日のブログに書いた通り、世界各地で「ツタンカーメン王墓から発見された豆の子孫」として栽培されている観賞用スイートピー(欧米ではこちらが主に栽培されている。)もしくは食用エンドウ豆(日本ではほとんどこちらが栽培されている。)は、どちらもツタンカーメン王の墓から出た豆ではないのですが、このことについて、著名な作物学者の前田和美高知大学名誉教授が2003年に「農耕の技術と文化」26号においてすでに指摘されていたのだそうです。
にも関わらず、その後この問題提起について学術的に論考した方が他にいなかったので、前田先生は2015年11月発行の著書「豆」(法政大学出版局)において、さらに詳しくこの問題をお書きになられ、「読者の批判と教示が得られれば幸い」とお書きになっているのです。日本人がいかに作り話に対して甘いかを示すエピソードと思います。
この「豆」という本に書かれた研究成果によると、カーター氏がツタンカーメン王墓で発見してイギリスに持ち帰った豆は、ヒヨコマメ、ヒラマメ、野生のメスキート、野生のエンドウ(1粒のみ)、ガラスマメ、野生のレンリソウだったということです。
一方8月11日のブログに書いたのですが、Heraldnet社がRoyal Botanic Gardens at Kew のスポークスマンRajveer Sihota氏に尋ねた所、peaに関しては"Only seven pea seeds"がツタンカーメン王墓から出たとの回答だったそうです。英語では豆をbean(楕円形や腎臓型の豆)、lentil(平たい豆)、pea(それ以外の丸い豆)等に分類するのですが、先述の前田先生の記した豆の中で英語でpeaと呼ばれるのは、ヒヨコマメ、野生のエンドウ、ガラスマメ、野生のレンリソウのみです(メスキートはbean、ヒラマメはlentilです)。
つまり、これらの情報をまとめると、王墓から見つかった7粒のpeaの中には、食用エンドウ豆は一粒もなかったのです。しかも、先のヘラルドネット社のニュースによると、この見つかった7粒の豆はキューガーデンに保管された(つまり蒔かれなかった)ので、観賞用スイートピーの方にしても食用エンドウ豆の方にしても、ツタンカーメンの王墓由来という説はあり得ないのです。
更に、日本で広まった食用エンドウ豆の方の「ツタンカーメンの豆」については、苦笑いせざるを得ないニュースがあるのです。この豆は前のブログに書いた通り、米国人のAさんが日本のある方に寄贈して、「善意の輪」で広がったのですが、この寄贈時の英語の手紙も前田先生は判読して、とんでもない事実を発見しているのです。
それはなんと・・・手紙には、寄贈した豆がツタンカーメン王墓から発見された豆だとは、書かれてなかったのです。書いてあったのは、「ツタンカーメン王墓の近く(beside)で」見つかったとの文章でした。
1980~90年代頃の日本で、「消防署の方から来ました。」といって消火器を法外な値段で売りつける悪質商法が広まり、捕まった犯人は「私は消防署から来たなんて一言も言ってませんよ。消防署の方角にある一会社から来たんです。」といいわけをしたという有名なエピソードがあります。Aさんも日本の関係者も悪気はなかったのだと思いますが、結果的には「ツタンカーメン王墓の方から来た豆です。」という、なんだか消防署の話と似ている話だったという訳です。
さて、水伝と江戸しぐさと身土不二とツタンカーメンの豆の共通点、それは、どれも全て、権威の有りそうな人々の会話や書物を通じて感動と共感の輪を広め、教育の場を介して広まったということです。どんなに感動しても、それらは全て作り話なのです。子ども達の道徳心を養ったり、科学への関心を広げたり、健康な身体を養うという目的で、嘘やでたらめを教えていいのでしょうか。サンタクロースのお話の例があるからいいではないか、と思う人も居るかもしれませんが、サンタさんは、子どもが成長する過程で、「サンタさんは人々の暖かい心の中にこそ居る物で、心の外には存在できないものだ」と悟るものです。一方水伝等は信じ込んでしまったら最後、いつまでも「事実である」として修正されない蟻地獄に陥るのです。私達は後世の人達に、嘘を事実として伝承していいのでしょうか。
嘘やでたらめを使わなくても、私たち人類には、人の心の美しさを学べる様々な歴史上のエピソードがあります。科学の不思議さを学べる様々な自然現象があります。健康を養うのに役立つ科学的な栄養バランスという概念があります。
教育の場で、嘘やでたらめを少しでも減らせるように、教育に関わる方々に、心よりお願いいたします。そのためにこのブログが少しでもお役に立つことを願っています。
10月13日追記:脱字の訂正と、文章の意図が正確に伝わるように一部修正しました。