タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

ユネスコ登録版の「和食」は、中国文明に飲み込まれるリスク回避になる。

2020年11月22日 | Weblog
今月は国を挙げての和食月間なのですが、「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録された理由とそれがもたらした結果が意表突きすぎなので、今回はその話。

まず、様々な本にも書かれてますが、最初は「日本料理アカデミー」という団体が中心になって、「会席料理」を和食として登録しようとしたんです。だけど、次の2つの理由で却下されました。
・「無形」文化遺産を登録する制度だから有形の特定の料理は登録できない。
・絶滅の危険性がある文化を登録する制度だから世界的人気のある料理は登録できない。

それで、民間団体にかわり国が、次の論法で登録したんです。
1「おせちの具体的中身は一切定義しないけど、お正月におせちという名前の料理を食べる文化がある。」
2「おせちと同様に、多様で新鮮な食材と持ち味を尊重した、栄養バランスが取れて、自然の美しさや季節の移ろいを表現し、年中行事と密接に関係する食事をとる文化、それが和食。」
3「この文化が廃れつつあるので登録します。」

この方法なら形のないものだし、世界に広まってないから登録できるわけです。

さて、ここで疑問が当然生じます。
「そんな苦労してまでなんで和食をユネスコに登録したかったの?」
・・・当然すぎる疑問ですよね。
いろいろな人に理由を聞いてみたのですが、だれも答えは「わからない」でした。
「理由はわからないけど、だけど、消えつつあるものを保護しようとしてることはいいことでしょう。」「本来の予定では外国人にも人気のある会席料理を登録しようとしたのでしょう?だめって言われたときに、なんで、和食は廃れる寸前ですって言い張ってまで登録しようとしたの?なんの目的で?」「それは・・・知りません」

実は今読み返すと、2013年12月10日のエキサイトニュースにライターの青柳美帆子さんが書いた記事が、非常に重要なのでここに紹介します。

ユネスコで定義した「文化」はどれぐらい歴史があればよいのかと青柳さんが農水省担当者に取材したところ、「栄養バランスがよい」と登録してしまったからには「江戸時代の食生活が栄養学的にバランスが良かったかというと、必ずしもそうとは言えない。」と回答したのです!!!したがって、ユネスコ登録された和食文化は江戸文化ではなく「第二次世界大戦後、日本が再び豊かになってきた高度経済成長期。この辺りで定着・確立した食文化のイメージ」と記事の中で時代が特定されているんです!!
そう、昭和40年代の食事のイメージなんですよ。この時代の日本人は、洋風の食にすごくあこがれたので、行事食にも洋風のものが取り入れられているのです。こどもの日や運動会などでサンドイッチやポテトサラダやフルーツゼリー、バナナなどが食べられた時代なので、家庭によっては、令和の私たちの食事よりも洋風といえるかもしれません。

当然、青柳さんもそのことに気が付いたらしく、クリスマスケーキは文化的に和食の定義に合致するのでは、と水を向けたんです。すると担当者も合意したのです。現時点、個人的には和食じゃないと考えるが「子の世代、孫の世代と、次の世代に移り変わるにしたがって、和食の文化と考えられることもあるのではないでしょうか。」と、至極まっとうな回答をされています。

私もそう思います。クリスマスにケーキを普通の量食べるくらいであれば脂質もそれほどとりすぎではないし、むしろ新鮮なイチゴで冬場に不足しがちなビタミンが取れるメリットがあるし、季節の移ろいを感じられるので、あと10年もしたら和食と言っていいでしょう。イチゴショートケーキって日本人の発明だし。(アメリカやイギリスのショートケーキは歯ざわりがサクサクする別の食品。)

では、和食ではないものはなにかを考えるほうが、和食を考える時にわかりやすいですね。
これはユネスコ登録の時に「新鮮な食材」を重要視しているのがポイントです。2014年前後までは、「日本の食文化は新鮮な食材を最小限調理して、素材の持ち味を残すところに特徴がある。」という解説が普通でした。それゆえに「世界では発酵文化が盛んなのに、日本は発酵食品が比較的少ない。」という声さえあったものです。発酵食品が和食のかなめであるとする説が広まり始めたのはスローフードブーム以降で、この声が大きくなったのはだいたい2015年ごろからです。

今この文章書きながら気づいたのですが、ユネスコ登録の和食は、発酵食品業界や、江戸文化、会席料理(一汁三菜)を宣伝したい人にとっては都合が悪いんですね。
思わずへんな声が出そうになってます。前回は、ユネスコ登録の話がテンプレ化して気持ち悪いと書きましたが、ユネスコ登録を消したい人もたくさんいると気付いてしまった!

さて、今年の和食月間では、「和食」という言葉を使わず「和ごはん」という言葉を使って、「和ごはんとは、家庭でたべられてきた料理で、(1)ごはん、汁物、おかず等もしくはその組み合わせで構成されているもの。(2)だし並びに醤油及び味噌をはじめとする日本で古くから使われてきた調味料等が利用されているもの」を推進するのだそうです。

和ごはんは日常食である一方、ユネスコ登録の和食は行事食(つまりこどもの日やお食い初めなど)ですね。11月は行事が少ないから、ユネスコ登録の和食を話題にしても新聞や雑誌で取り上げる回数が少ない。

でも、問題はラーメン、餃子、韓国料理の焼き肉などが(2)に当てはまるから「和ごはん」になることです。味噌と豆腐は中国から渡来したことと、中華料理や韓国料理を醤油をかけて白米と一緒に食べることが原因で、和ご飯と中国・韓国料理の境界線はあいまいになるのです。一方、クリスマスケーキは「和ごはん」には絶対になりません。私たちが欧米の食事を排除し、中国・韓国の料理に近づけば、近い将来は世界中から「和食は中国文明の亜種ですね。」と言われそう。

ごちゃごちゃしてきたので、もう一度ポイントを繰り返します。
ユネスコの和食定義では季節の行事・文化との結びつきを重視しているので
イ・味噌、醤油、だし、発酵食品、ご飯中心の一汁三菜などを和食と定義できない。
ロ・クリスマスケーキなどの洋風料理でも、文化として定着して栄養面でもバランスがとれていれば将来和食になりうる担保を残して、文化としての懐の深さをアピールしている。

 この2点があるおかげで、「和食は中国文明の辺境」と誤解される可能性を回避できる。

別の角度からも情報提供します。味噌が体に良いと主張する雑誌記事や論文読むと、大げさに話を盛っているグラフや説明が多々目立つので気を付けてください。また、一汁三菜については昭和30年代から平成14年前後まではおかずや汁物にミートボールやマカロニサラダやポタージュを入れて当然でしたが、最近は「一汁三菜は味噌汁や豆腐など伝統的食材だけで構成される料理だ」と力説する人がいることです。

以上を踏まえて最後に、もう一度読者の皆さんに問い直します。
ユネスコへの登録は誰のため。
和ごはんの再定義は誰のため。
味噌や発酵食品を和と強調するのは誰のため。

私たち消費者は、なんとなく流されて生きていてはいけない。そんなことを強く思い起こされる月間です。



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