タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

まだ間に合う!映画「クラブ ゼロ(Club Zero)」必見です。

2025年01月05日 | Weblog
食育に関するすべての方にお知らせします。もうすぐ上映が終了しますが、間に合えば、今映画館で上映中の「クラブ ゼロ」を見てください。ヨーロッパのある町の私立高校を舞台に、ほんの善意で始めたはずの食育がカルト化して悲劇に陥る、現代社会を痛烈に批判した物語です。

映画は、不協和音の混じる不思議な音楽と、スタイリッシュな構図に美しい色彩の映像で始まります。
 舞台の私立高校は、富裕層が学ぶ上昇志向の高い学校。意識高い保護者の一人がインターネット検索で、最先端の栄養学を教えるという触れ込みのノヴァク先生という女性を見つけて、校長先生にうちの子どもたちに学ばせたいと推薦します。
 彼女は、自分の顔写真をパッケージに配した「断食茶」を販売する程度にカリスマなので、校長先生も彼女と面会してすっかり信用してしまいます。
 彼女は栄養学講座を作り、10名弱の生徒が集まります。そこで先生が指導するのは「コンシャス イーティング」、直訳すれば「意識高い食事」。それは少食である、と。
 先生の話を聞いた生徒は夢中になります。少食になれば、寿命も延びるし二酸化炭素排出量が減って地球環境に優しいし、食品メーカーのマーケティングの網から自由になって資本主義に鉄槌を打てる。そして、私たちが食べる量を減らせば、飢餓の国に食品が分配される。ああ、なんて素晴らしい考えなんだろう!パレオダイエットもビーガンも古い古い!

賢い皆さんはもう気がつきましたよね?贅沢な邸宅に暮らしてパソコンを使う富裕層のお子さんたちが少食になった位で、GAFAの資本主義の網の目から逃げ出せないし、世界各地の飢餓は食糧分配の問題なので、先進国が食べる量を減らせば穀物相場が下がり、穀倉地帯の作付け面積が減って価格が維持され、結局飢餓地域には食糧が届かないのです。
しかし、高校生のかれらはナイーブ過ぎて、そんな深い因果関係まで思いもつきません。少食になるメリットに夢中になり、ノヴァク先生に深い信頼を寄せるようになります。

すると先生は、今度は植物性の食品1つだけを食べるようにしましょうと言い出して、馬鹿馬鹿しくてついて行けないと一部生徒が離脱します。しかし、信じる学生が多かった。中には糖尿病でインシュリン投与が必要なのに、先生の言う通りにすれば薬も要らないと信じて注射を拒んで緊急入院する学生も。それでもみんなの、先生への信頼は揺るがず。

(以下ネタバレあり)

でも、実は先生には裏の顔があった。実は彼女は、オリエンタル系の謎のカルト宗教の信者で、母なる神様のために信者を集めようとしていたのでした。ある日先生は、選ばれた生徒たちに打ち明けます。「食べないと死ぬなんて話は嘘。一切何も食べないことで永遠の命を得られる秘密のクラブがあるの。本当はこの世界はもうすぐ滅びる。しかし正しい食事を選びより高い意識に移行する私たちだけが生き残れるのよ。」

これは宗教界ではドゥームズデイ・カルトと呼ばれる典型的な激やばカルトです。「もうすぐ滅びの日が来るが、信じる物は救われる~」というアレです。古くは日本でも平安~鎌倉時代の仏教がこれ化して、貴族たちも庶民も末法の世と信じて信仰を堅くしたわけですが。話を映画に戻すと、子どもたちの奇矯な行動に気がついた親たちが、まともな栄養の知識を取り戻させようとしますが、時すでに遅し。映画でこのあたりの場面は、それぞれの親の困惑や悲しみが丁寧に描かれて、特に貧しい中で精一杯息子のベンを育てて良い学校に入れたお母さんの悲しみは胸を打ちます。
しかし、各家庭の親たちの願いは叶わず、クリスマスの朝、美しい映像と音楽とともに悲しい別れが訪れます・・・・。

監督は、複数のカルト事件からこの脚本を作成したと述べていますが、おそらく欧米の多くの視聴者はマクロビオティックを連想したことでしょう。理由を列挙します。
・マクロビオティックは、アメリカでは1960年代に「禅」の1種の長寿法と偽ってひろめられた(映画では、先生の登場シーンで三味線が鳴り、先生と生徒の重要な会話シーンで障子が背景に使われ、先生の家の祭壇には蓮の花が飾られています。)
・正しい食事をすれば薬も不要であり、既存の常識を疑えと洗脳されます。(映画にまるごとそういうシーンあり)
・肉を禁止するゆるい食事制限から始まりますが、そのうち、植物しか食べてだめ、小麦を食べては駄目、と指導されるようになり、最終的には米しか食べてはいけないとなります。(映画では一つの植物性食品だけを食べましょうというシーンに相当)
・単なる健康法ではなくて、世界をよくする運動であり、自身をより高次の意識に持って行くための食事として指導されます(映画でほぼ同じ台詞あり)

さて、ここまで読んでくださった方の多くは気がついたと思いますが、これらの話は、ここ近年での日本の食育でも頻繁に登場した説と妙に重複すると思いませんか?
曰く「肉を食べるな、小麦を食べるな、たくさん食べるな、食育の目的は単なる健康だけではなく環境問題やよりよい生き方の指導にあるのだ、資本主義はおかしい、食品企業のマーケティングの魔の手から逃げろ、既存の科学や医療を疑え、食事だけで病気を治せ、薬は要らない!!」
で、こういう食育が広まるのを手助けしたのが誰を隠そう、先般お亡くなりになった、大変有名な料理学校の先生かつ農水省の食育検討会のトップなのです。お名前は伏せますが、彼は近年は、有機農業を推進すると称する、高次元意識と波動で世界を変えましょうという宗教っぽい団体を推賞していました。

大切な子どもたちを、食育と名乗るカルトに奪われる前に、この映画を見て、これまでの食育が日本のまともな教育をいかにむしばんできたのかを考えてみてはいかがでしょう。


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