関東のA県南部に住む知人から、地元の小学生とその家族に配布される「小学生新聞」の食育欄に時々奇妙な説が載っている、という話を伺いました。A県南部の民間情報会社が作成し、公立小学校という公的機関を経由して配布される新聞です。1例を見せてもらうと、「6つのこしょくは食生活の赤信号」、と紹介する内容でした。
「6つのこしょくって何だろう?」と思って記事を読んだところ、食育で指導されがちな疑似科学「5つのこしょく」説の延長線と分かりましたので、「5つのこしょく」説の方を先に説明します。
「5つのこしょく」とは、「孤食(家族で別々に食べること)」「個食(家族によって異なるメニュー)」「固食(偏食のこと)」「小食(食が細いこと)」「粉食(パンなどの粉製品を食べること)」のことです。食育の指導者はいかにも科学的裏付けがあるかのように、「こんな食事をしていると社会性や協調力が身につかず、肥満や味覚障害なども起こって良くないので止めるように。」と指導するわけですが、実は科学的根拠の希薄なものが多く紛れているのです。
これらのこしょくに「濃食(濃い味付けの食事)」が加わると、「6つのこしょく」になり、これらは良くない物であるというのが、上記小学生新聞の内容でした。確かに「固食」=偏食は栄養不足になりがちなことから余り勧められるものではありません。しかし残りは首をひねるような内容ばかりです。
まず、「濃食」というのの定義があやふやです。塩分の取りすぎという意味でしたら、確かに身体にあまりよくないのですが、だし汁で味が濃いという場合は減塩になるのでむしろ勧められる、という説が近年では主流です。とはいえ、昆布出汁だとヨードの過剰摂取にもなるので毎日は勧められません。まとめると、「濃食」はそもそもの定義が曖昧なので、善し悪しを判定できるようなものではありません。
また、以前このブログでも紹介した成田崇信先生の「管理栄養士パパの親子の食育BOOK」でも、「5つのこしょく」については批判的記事が載っていますので、ここで紹介いたしますね。「個食」については、成田先生は、年齢が違えば必要な栄養素も違うので、家族が別の料理を食べることが悪いこととは思えないと指摘されています。「粉食」については、パンや麺類を食べて何が悪いのでしょうか、と問いかけています。「小食」については、おやつの食べ過ぎが原因だったら問題ですが元々少食の子どもも居るはずです、と指摘なさっています。
成田先生のこの指摘は全くその通りだと思いますし、更に付け加えたいことがあります。
まず第一に、和食の歴史は基本的に「孤食」だったという事実です。詳しいことは食文化研究の大家、石毛直道先生先生の「食卓文明論」(中公叢書)に書いてあるのですが、日本では、箸や茶碗を共有することでケガレが伝染すると古くから信じられていたため、箱膳という道具に食器類をしまっておき、食べる時も、家族でも離れて食事をしていたのです。その上、食事中の会話も禁止されました。「家族で楽しく団らん」なんて雰囲気じゃ全く無かったのです。また、同じ家の中でも主人達と使用人は別々の場所で別の時間に食事をしていました。
さて、そういう事実を知ると、近年盛んな「和食の伝統を見直そう」というスローガンと「孤食は良くない。みんなでちゃぶ台を囲もう。」というスローガンは完全にコンフリクトを起こしてしまいます。「ちゃぶ台で家族団らん」が主流だった期間は日本の歴史から考えると非常に短い(大正末期から昭和40年代まで。)ことが、上記の石毛先生の本には記してあるからです。
箱膳方式とちゃぶ台式のどちらの食べ方にもその時代時代の歴史的背景があり、良い点と欠点があると思いますので、どちらが良いと簡単に勧めることはできないと思います。そうした中で「孤食は悪い」と決めつける講演を聞くと、ああ、この先生は和食の歴史を知らないからこういうことが言えてしまうんだなあ、と思ってしまいます。
次に、「粉食が悪い」という話なんですが、和食の伝統食であるうどんや蕎麦はどうなんでしょうか。しかも、健康に良いと言われる地中海式食事法やイタリアのスローフードは粉食(パン、パスタ、ピザ)です。地中海付近、特にイタリアの人達は地中海式食事やスローフードが原因で、健康を損ねて社会性や協調性がないというのでしょうか。そんなことはないですよね。こうやって落ち着いて考えてみると、「粉食が悪い」なんて、もはや笑ってしまうような低レベルのお話です。こんな疑似科学にだまされた食育指導者が「粉食はやめましょう」と言っているのを見ると、人材の浪費で誠に残念に思われてきます。それに粉食批判を学校で指導すると、日本の将来を背負って立つ子ども達に「西洋の人達は間違った食事をしている。」という人種差別的偏見を与えてしまうのではないでしょうか。
最後に、「個食が悪い」という話も変ですよね。家族の中に歯や内科の病気等を患っている方がいて、皆で同じメニューを食べられないという家庭も時々あると思います。そうした家庭に、不要なプレッシャーを与えてしまうのが心配です。家族のメニューが違っていても、それぞれに健康的に幸せに食べられることの方が大事に思われます。
以上のように、「5つのこしょく」「6つのこしょく」は疑似科学(エセ科学とも言います。)であり、しかも外国の方への偏見さえ形成しかねない言説であることが分かりました。本気で食育のプロを目指す方々は、こんな奇妙な言説に惑わされずに、子ども達や家族の幸せのことを考えて、きちんとした指導をして欲しいと願います。また、公的機関がこのような言説を広めないように、御願いします。
「6つのこしょくって何だろう?」と思って記事を読んだところ、食育で指導されがちな疑似科学「5つのこしょく」説の延長線と分かりましたので、「5つのこしょく」説の方を先に説明します。
「5つのこしょく」とは、「孤食(家族で別々に食べること)」「個食(家族によって異なるメニュー)」「固食(偏食のこと)」「小食(食が細いこと)」「粉食(パンなどの粉製品を食べること)」のことです。食育の指導者はいかにも科学的裏付けがあるかのように、「こんな食事をしていると社会性や協調力が身につかず、肥満や味覚障害なども起こって良くないので止めるように。」と指導するわけですが、実は科学的根拠の希薄なものが多く紛れているのです。
これらのこしょくに「濃食(濃い味付けの食事)」が加わると、「6つのこしょく」になり、これらは良くない物であるというのが、上記小学生新聞の内容でした。確かに「固食」=偏食は栄養不足になりがちなことから余り勧められるものではありません。しかし残りは首をひねるような内容ばかりです。
まず、「濃食」というのの定義があやふやです。塩分の取りすぎという意味でしたら、確かに身体にあまりよくないのですが、だし汁で味が濃いという場合は減塩になるのでむしろ勧められる、という説が近年では主流です。とはいえ、昆布出汁だとヨードの過剰摂取にもなるので毎日は勧められません。まとめると、「濃食」はそもそもの定義が曖昧なので、善し悪しを判定できるようなものではありません。
また、以前このブログでも紹介した成田崇信先生の「管理栄養士パパの親子の食育BOOK」でも、「5つのこしょく」については批判的記事が載っていますので、ここで紹介いたしますね。「個食」については、成田先生は、年齢が違えば必要な栄養素も違うので、家族が別の料理を食べることが悪いこととは思えないと指摘されています。「粉食」については、パンや麺類を食べて何が悪いのでしょうか、と問いかけています。「小食」については、おやつの食べ過ぎが原因だったら問題ですが元々少食の子どもも居るはずです、と指摘なさっています。
成田先生のこの指摘は全くその通りだと思いますし、更に付け加えたいことがあります。
まず第一に、和食の歴史は基本的に「孤食」だったという事実です。詳しいことは食文化研究の大家、石毛直道先生先生の「食卓文明論」(中公叢書)に書いてあるのですが、日本では、箸や茶碗を共有することでケガレが伝染すると古くから信じられていたため、箱膳という道具に食器類をしまっておき、食べる時も、家族でも離れて食事をしていたのです。その上、食事中の会話も禁止されました。「家族で楽しく団らん」なんて雰囲気じゃ全く無かったのです。また、同じ家の中でも主人達と使用人は別々の場所で別の時間に食事をしていました。
さて、そういう事実を知ると、近年盛んな「和食の伝統を見直そう」というスローガンと「孤食は良くない。みんなでちゃぶ台を囲もう。」というスローガンは完全にコンフリクトを起こしてしまいます。「ちゃぶ台で家族団らん」が主流だった期間は日本の歴史から考えると非常に短い(大正末期から昭和40年代まで。)ことが、上記の石毛先生の本には記してあるからです。
箱膳方式とちゃぶ台式のどちらの食べ方にもその時代時代の歴史的背景があり、良い点と欠点があると思いますので、どちらが良いと簡単に勧めることはできないと思います。そうした中で「孤食は悪い」と決めつける講演を聞くと、ああ、この先生は和食の歴史を知らないからこういうことが言えてしまうんだなあ、と思ってしまいます。
次に、「粉食が悪い」という話なんですが、和食の伝統食であるうどんや蕎麦はどうなんでしょうか。しかも、健康に良いと言われる地中海式食事法やイタリアのスローフードは粉食(パン、パスタ、ピザ)です。地中海付近、特にイタリアの人達は地中海式食事やスローフードが原因で、健康を損ねて社会性や協調性がないというのでしょうか。そんなことはないですよね。こうやって落ち着いて考えてみると、「粉食が悪い」なんて、もはや笑ってしまうような低レベルのお話です。こんな疑似科学にだまされた食育指導者が「粉食はやめましょう」と言っているのを見ると、人材の浪費で誠に残念に思われてきます。それに粉食批判を学校で指導すると、日本の将来を背負って立つ子ども達に「西洋の人達は間違った食事をしている。」という人種差別的偏見を与えてしまうのではないでしょうか。
最後に、「個食が悪い」という話も変ですよね。家族の中に歯や内科の病気等を患っている方がいて、皆で同じメニューを食べられないという家庭も時々あると思います。そうした家庭に、不要なプレッシャーを与えてしまうのが心配です。家族のメニューが違っていても、それぞれに健康的に幸せに食べられることの方が大事に思われます。
以上のように、「5つのこしょく」「6つのこしょく」は疑似科学(エセ科学とも言います。)であり、しかも外国の方への偏見さえ形成しかねない言説であることが分かりました。本気で食育のプロを目指す方々は、こんな奇妙な言説に惑わされずに、子ども達や家族の幸せのことを考えて、きちんとした指導をして欲しいと願います。また、公的機関がこのような言説を広めないように、御願いします。
お袋の味というが、下ごしらえは子どもの仕事だった。
囲炉裏・板の間に、筵ゴザを敷くのが普通でした。
※ちゃぶ台が普及したのは大正時代だし、畳みの一般化も(実は)明治になってからです。
ご飯・パン・麺、どれも炭水化物で変わりません。
柔らかいもが増え・咀嚼が減り、脳の発達に良くないようです。
※砂糖の取り過ぎは、癇癪持ち・落ち着きのない原因になるようですが・・・
昔の方が炭水化物比率・塩分量が多いのは、事実です。