研ぎたてたる刀㉟・・・水雲問答
雲 およそことを処するには、気合をかけてのち実行するのがよいと思います。たとえば
研ぎたての刀を見るとみな驚くように、大上段から圧倒するようにかかるのがよろしい。
しかしそうすると、ぼろも出易いものですから、ことをさっさと片付けることが大切で
あります。何かしてやろうとするときは、破竹の勢いをもって、いかなる難しいことで
もやっつける、ということが必要でありまして、神武不殺、すなわちすぐれた武道は殺
さないという言葉に感心いたします。
水 この御意見も一見識でありますが、ちゃんと実力があって、その実力を含んで表現を
先にするのであれば宜しい。実力もないのに偉そうなことを言うと、すぐ化けの皮が剥
げて正体が露見します。ある人が驢馬(ろば)をつれて行ったところ、その辺には驢馬が
いなかったので、虎も最初は恐れていましたが、ところが驢馬が虎を蹴ったので、その
非力なことが知れて、ついに喰い殺されてしまった。という話があります。ちょうどこ
れと同じであります。こういう御意見は大変明快でありますが、これは非凡な人物だけ
ができることでありまして、元来聖賢の説くところは誰にも理解され、行われるという
平凡な人物、非凡の表現法でありますから、これをやり得るだけの人物次第であると申
せましょう。