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読書のよもやま(2023.06.12)

2023-06-12 | 雑文
「対談 日本の文学 素顔の文豪たち」中央
公論新社編(中公文庫)

勝手なイメージではあるが、平成において文
豪という言葉は、明治や大正、そして戦前ま
での昭和というイメージがある。

もしかしたら、令和の若い世代は、もう少し
後の昭和も入ったりするのだろうか。

どちらにせよ、文豪と呼ばれる作家の作品は、
どこかお堅く、その人物像もなんだか気むず
かしさが漂う。

本作は、そうした幸田露伴、森鴎外、夏目漱
石、芥川龍之介といった文豪らについて、そ
の身近にいた人たちが語るというもの。

この世を去った人たちは、時が経てば経つほ
ど人間味を失い、成したことの持つ意味や性
質を帯びてくる。

本対談で話す人たちは、家族であることも多
く、そうしたイメージを持つ遠くの人たちと
違い、言葉通り経験として生身を知る。

実はこういうところもあり、という期待され
た、期待に応える対談も多く、当たり前に人
間であるということの新鮮さ。

裏表紙の、「文豪の家族が弟子が、間近に見
たその生身の姿を語る。」という文句は、裏
表紙にしては珍しく正しい。

特に、それぞれの子どもから見た文豪たちは、
子を育てるという、文豪その人の人生ではな
い面白さがあり、面白かった。

ある意味どこにでもいる保護者であり、やは
りどこか変わったところもあり。

個人としては、幸田露伴と芥川龍之介につい
ての対談が印象に残っているが、気になる文
豪が一人でもいれば価値はあるのでは。

ただし、それは三分の二までなので、注意も
必要。

終わり三分の一は、テーマがガラッと変わり、
よくある文学論、作家論が集められている。

面白かった前三分の二とは性質が異なり、つ
まらなくはないが、この本でなくてもよいし、
求められてもいない。

ボリュームが不足しようと、太宰治までで一
冊の方が適切であるし、美しいから、全体と
しては惜しい作品。