ままちゃんのアメリカ

結婚42年目のAZ生まれと東京生まれの空の巣夫婦の思い出/アメリカ事情と家族や社会について。

「天使の輝き」

2019-07-04 | アメリカ事情

 UNIVERSAL HISTORY ARCHIVE/SHUTTERSTOCK

 

 

 

 

7月4日はアメリカ合衆国の独立記念日であるが、ここでは、独立戦争についてではなく、1861年から1865年にかけて起こった南北戦争での不思議な一件についてである。

 

1862年のテネシー州シャイロ【注:皮肉にもシャイロはヘブライ語で「平和な土地」を意味する。】で起こった南北戦争の大きな戦いの一つは、南北両軍ともに三千の兵士が負傷し、一万六千の戦死者を出した。この戦場へ両軍の医療班が駆けつけるには二日二晩かかった。

 

戦場にそれまで放っておかれた負傷兵たちは、地面に横たわり、なすすべがなかったが、この負傷兵たちにだけ、奇妙だが実際に起こった現象があった。これは「天使の輝き」と呼ばれ、暗闇の中、彼らの負傷は、青白く輝いていたのだ。 何人かの負傷兵たちは、輝いている傷が輝いていない傷よりも早く治癒することに気づいた。

 

当時は知られていなかったが、その謎は今日、Photorhabdus luminescens(P. luminescens)昆虫病原性細菌によって起こった。それは昆虫病原性線虫などの寄生虫の腸に生息する生物発光細菌として認識されている。寄生虫がこの光るバクテリアを吐くと、寄生虫宿主内の病原菌を殺すことができる。 通常、P. luminescensは人の体温では生き残れないが、負傷兵たちが寒い夜に低体温症を起こし、地面に動かずにいたため、かのバクテリアが繁殖して体内の病原菌などを殺すことができたのである。

 

 

 

kevkurtz.com

 P. luminescens昆虫病原性生物発光細菌

 

 

2001年、17歳の南北戦争ファンのビル・マーティンは、家族と共にシャイロの戦場跡を訪問し、天使の輝きの伝説を聞いた。彼の母親、フィリスは、偶然にもPhotolhabdus luminescensまたはP. luminescens(昆虫病原性生物発光細菌)と呼ばれる土壌細菌を研究していた微生物学者であった。その土壌菌は、自身で淡い青い色の発光をすることで知られている。母フィリスは、息子ビルに実際にこの戦場跡でその菌が見つかるか研究したらどうかと提案し、ビルと友人のジョナサン・カーティスは、その菌が「天使の輝き」の原因であると仮説を立てた。

 

 しばらくして少年たちは、P. luminescens(昆虫病原性生物発光細菌)が土壌または植物の昆虫の幼虫に潜む小さな寄生虫(線虫など)であり、それが、幼虫の体内に侵入すると、バクテリアを吐き出し、宿主の幼虫やその中に生息する他の微生物を殺す化学物質を放出するとわかった。 

 

ビルとジョナサンは、P. luminescens(昆虫病原性生物発光細菌)が、しかし通常の人間の体温では生き残れないことを発見したことに少し困惑した。そこで彼らは、テネシー州の4月はまだ寒い夜気であることを調査し、そんな冷たい字面に横たわったり、座ったりしていた負傷兵たちが医療班の到着しなかった二日間で、すっかり体温を低下させていたと考えついた。そんな状況の中、傷口が青白く光っていたのは、土壌からの線虫が傷口に侵入しても、十分生き残り、繁殖できる環境にあったからだとわかった。こうしてP. luminescens(昆虫病原性生物発光細菌)が負傷兵たちの傷口に潜んでいた感染症を起こす雑菌をきれいに掃除してくれたので、負傷兵たちの命を救った、と結論した。

 

  

kidsdiscover.com

 

 

南北戦争以前から19世紀後半まで、負傷兵は感染症により死に至ることが多かった。1876年にコッホがやっと炭疽菌の純粋培養に成功し、炭疽の病原体であることを証明し、細菌学(微生物学)が確立がされるには、まだ十年以上も早い1862年のシャイロの戦いであった。医学が漠然とした混沌とした時代であったから、シャイロで負傷しても無事延命できた人々やそれを目撃した人々は、それが天使による奇跡だと信じたのである。実際は、土壌に住む寄生虫のおかげであったわけである。

 

ビル・マーティンとジョナサン・カーティスの二人のこの研究は2001年インテルの国際科学技術展示会で見事一等賞を受賞した。つまり十代の少年たちは140年のミステリーを解いたのである。アメリカでは小学生からサイエンス・フェアやプロジェクトを奨励し、多くの学校が公私問わず催してきている。その検査・研究結果から、思わぬ発見や発明が生まれ、今日役立つ医療や技術の発展へつながっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント (4)
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