あまりにも有名すぎる名前。レオナルド・ダ・ヴィンチ。教科書には必ず登場する歴史上の人物。とても遠い存在。ところが、先日、ダヴィンチ展を見に行ってからというもの、一人の身近な人間として感じられるようになった。
レオナルドは明らかに、モーツァルトのような天才とは違う。レオナルドは努力の人。婚外子として生まれ、中等教育を受けられなかった彼は、かなりのコンプレックスを持っていたらしい。でも、それがエネルギーとなり、あれだけの偉業を成し遂げたのだろう。
彼の観察力、分析力、洞察力はまさに天才の名に相応しい。私たちの目に見えるものの「かたち」は無限に変化するが、その変化には共通の法則があると見抜き、また、ものの「運動」にも法則があると気づいた。幾何学から流動力学までとことん観察し、分析し、法則性を探求した。人体解剖も30体ほど手がけ、かなり詳細な資料を残している。
今回の展示で一番感動したのは、スフォルツァ騎馬像である。ミラノ公スフォルツァの命で、高さ8メートル以上もあるブロンズの騎馬像を制作することになった。しかし、折からの戦争で、銅を使用できなくなり、中断。そして、その騎馬像原型もフランス軍に破壊され、この計画は実現しなかった。費やした月日は、なんと11年。この巨大な騎馬像のレプリカが、現在、名古屋国際会議場前に展示されているが、これは、現在の様々な技術をもって再現しているものである。今から500年以上も前に、これほど巨大で精密な騎馬像を製作しようとしたレオナルドの緻密な計算には驚き以上のものがある。
「受胎告知」にしてもただの絵ではない。そこにもレオナルドの緻密な計算が息づいている。人や物の配置から補助線を引くと画面の中央の1点に集束する。また、「空気遠近法」で遠い景色がかすかにぼやけ青白く表現されている。彼の絵は単なる描写ではなく、目に見える世界の法則の集大成である。
レオナルドの偉才は、ひらめきによって輝くのではなく、一つ一つのレンガを積んで、巨大な城が出来上がるようなものであると感じた。目に見えるあらゆる現象を観察し、分析し、根本にある法則性を見出す。その積み重ねである。膨大なエネルギーを費やさなければできない仕事である。
子どもの時のコンプレックスがこの膨大なエネルギー源だったということを知った時、レオナルドは単に歴史上の偉人ではなく、隣に座っている一人の人間としてその体温を感じることができた。
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