少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

世界は「関係」でできている

2022-01-22 07:00:00 | 読書ブログ
世界は「関係」でできている(カルロ・ロヴェッリ/NHK出版)

この人の本は、これまでに2冊読んでいる。

『すごい物理学講義』は、この人の専門である「ループ量子重力理論」の一般向け解説書。ループ理論では、物理量として最小単位があるのは体積と面積。そして、超対称性粒子は必要ないらしい。書いてあることはさっぱり理解できないのに、とても読みやすい本だった。

このブログで2019年10月に紹介した『時間は存在しない』では、過去と未来を分かつ「時間の矢」は、熱力学第二法則にしか根拠を持たず、時間とは、「意識」が細部を識別できないことから生じる一種の錯覚だと説く。

そして本書では、量子力学最大の謎に挑む。

シュレディンガーの猫や量子もつれに代表される観測問題は、いまだにすっきりと解明されず、たいていの物理学者は近寄らないようにしている。多世界解釈(SF的な平行宇宙を根拠づける説)という、およそ科学とは考えられない説も、あながち否定されていない、というやっかいなしろもの。

この本ではこう説明している。箱の外にいる人にとっては、箱の中には生きた猫と死んだ猫の重ね合わせの状態が存在するが、箱の中にいる人にとっては、生きた猫か死んだ猫のいずれかしか存在しない。箱の外にいる人にとっての現実が、箱の中にいる人にとっても現実とは限らない。対象物の属性は相互作用の瞬間にのみ存在する。世界は関係のネットワークでしかなく、全体を俯瞰して揺るぎない真実を認識する視点など存在しえない。

別の対象物を設定せずに、速度という概念は成立しない。特殊相対性理論では、時間や空間のあり方が速度により変化する。科学の進展は、我々に常識とは大きく異なる世界像を示してきたが、量子力学もまた同じ、と本書は主張している。

本書の内容を分かりやすく要約することは私の能力を超えているので、興味のある方は自分で読んでほしいが、どうもこの解釈は決定版のような気がする。なお、先々週に紹介した『時間の終わりまで』と共通のキーワードは「情報」と「進化」。