少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

戦場のコックたち

2024-04-26 16:30:22 | 読書ブログ
戦場のコックたち(深緑野分/東京創元社) 

22年11月に、この作者の『ベルリンは晴れているか』を紹介した。その後、近作を少し試してみたが、やはり評判の高いこの作品を読むべきだと思った。

 この本は、合衆国が第二次世界大戦に参戦した時期に陸軍に志願し、ノルマンディー上陸からドイツ降伏までコックとして従軍した若者の物語だ。

 コックといっても専業ではなく、当然、戦闘に参加する。輸送機からの降下、物資の補給、銃撃戦など、戦争の様々な局面が描写される。多くの文献を参照したことがうかがわれるが、それにしても、終始、一人称で語られる文章が生み出す臨場感には目を見張るものがある。 

戦争を描いているから凄惨な状況が次々と現れるのはやむをえないが、時おり、謎解きの要素が挿入される。戦争を題材にした謎解きというよりは、それが物語の骨格をなし、読者にとってはページをめくる推進力になる。

 読むべき作品とは、あえて言わない。しかし、読む価値のある本だ。

 エピローグがよかった。予想していなかったが、予想外ではなかった。

横浜ネイバーズ

2024-04-19 15:47:42 | 読書ブログ
横浜ネイバーズ(岩井圭也/ハルキ文庫)

本屋で、初見の作家の文庫を買おう、と思って選んだ本。短編連作の探偵もののようだし、表紙に惹かれるものがあった。

横浜中華街を舞台とする物語。主人公は週に三日、バイトをしている20歳のフリーター。推理ものというよりは、身近で起こった困りごとを解決していくお話、というべきか。読み終えると続編があることがわかり、現在出版されている第4作まで、一気に読了した。

取り上げられる困りごとが実に現代的なのが、本書の際立った特色か。薬物乱用、課金ゲーム、特殊詐欺、ルッキズム、いじめ、eスポーツ、転売ヤー、闇バイト、マッチングアプリ、ギフテッド、ディープフェイク・・・

軽い読み物には違いないが、内容はそれほど軽くない。警察がらみの事件も多いが、警察官になった先輩の手助けと、ネジが1本外れている主人公の行動力で乗り越えていく。

シリーズが進むにつれて人脈が広がり、ストーリーに深みが増してくる様子は、『ビブリア古書堂の事件手帖』を思わせるところがある。いろいろと気が回る主人公だが、ある一点では極めて鈍感、という設定は必要なのか、とも思うが、それも愛嬌か。

いずれにしても、このシリーズにはしばらく付き合うことになりそうだ。

ルームメイトと謎解きを

2024-04-12 19:39:08 | 読書ブログ
ルームメイトと謎解きを(楠谷佑/ポプラ社)

全寮制の男子校を舞台とするミステリ。

新年度を迎えた高校生活の描写から、軽いノリの謎解きかと思ったらそうではなく、明確な殺意に基づく殺人事件で、しかも特殊な状況から容疑者が限定される、一種の密室殺人。

主人公は「オレ」で、背が低くカワイイ系だけど空手部の硬派。探偵役は、転入で主人公と同室になる、長身で頭脳明晰ながら、動物を偏愛する不思議系。そして謎解きは、証拠に基づいて一人ひとり容疑者リストから除外する、消去法推理。

あまり踏み込むとネタバレになるので、いくつかの感想を。

中高一貫で、「いちおう進学校」の私立学校で、理事長やその関係者が強権的、というのは、私立学校の実態を知る立場からすれば、妙なリアリティがある。(もちろん、私立学校が全部、そうだという訳ではない。)

捜査のまねごとを通じて主人公と探偵役が親しくなっていく様子は、本筋の謎解きとは別物だが、高校生を主人公とする作品としては、不可欠な要素だと思う。

この設定での続編を読みたい気がするが、殺人事件が続発する高校というのもどうだろう。

私事だが、3月末でフルリタイアした。読書の時間はいくらか増えたが、現在のところ、ブログの掲載回数を増やすほどではない、と感じている。しかし、何かの「沼」にはまることを恐れる理由がなくなったので、今後は、ミステリを取り上げる頻度が増えるかもしれない。(よろしくお付き合いください。)

平蔵の首

2024-04-05 20:30:13 | 読書ブログ
平蔵の首(逢坂剛/文藝春秋)

逢坂剛氏といえば、百舌シリーズなどで著名なミステリー作家。
これまで読んだことはなかったが、2週前に紹介した『校閲至極』を読んだときに、長谷川平蔵を主人公とする時代小説を書いていることを知った。

池波正太郎の鬼平犯科帳は、何度も読んだ。再読するというよりは、例えば休日の午後、料理の待ち時間などに、お酒を飲みながら読める本が、ほかにあるだろうか。

『平蔵の首』、『平蔵狩り』、『闇の平蔵』、『平蔵の母』の4作品があることを知り、続けて読んでみた。池波作品と比較して論評するのもおこがましく、いつものようにいくつかの感想を。

生きて娑婆に出ることはない盗人にしか素顔を見せない、という設定。そのための影武者的な存在もいる。

元盗人の手先、特に女性の手先が強く印象に残る。

気楽に読みとばすには、やや複雑でトリッキーな筋立て。

いずれにしても、鬼平作品の名に恥じない秀作だった。

この作家の他作品を読む予定はないが、同じ時代小説の「重蔵始末シリーズ」は少し気になっている。