夜の蟬(北村薫/創元推理文庫)
先々週に引き続き、北村薫の「円紫師匠と私」シリーズの第二巻。短編というには少し長めの3編が収録されている。
このシリーズの探偵役は円紫師匠だが、名前が明かされない「私」は、単なるワトソン役ではない。私の日常の中で謎が生まれ、その解明やその後の展開を通じて、私の物語が丁寧に描かれる。
1つ目の謎は、友人「正ちゃん」のアルバイト先の書店での小さな異変。何かと味のある正ちゃんの人となりが描かれるとともに、「私」の恋愛観や本を通じて知り合った男性への小さな恋心も挿入される。
2つ目の謎は、もうひとりの友人の「江美ちゃん」に誘われて出かけた軽井沢の別荘での、チェスの駒の紛失。季節の移ろいを主題とする和歌や、落語の三題噺をめぐる師匠との会話が楽しいが、この章の主役は江美ちゃん。
3つ目の謎は、シリーズを通じて言及されてきた、「文句のつけようがない美人」の姉に、間違って送られた歌舞伎座のチケット。その騒動を通じて、幼い頃から積み重ねられてきた姉との確執が、新たな展開をみせる。
つまりこの一冊は、二十歳の「私」の、ある種の成長物語なのかなと思う。加えて、軽快な会話や、文学、落語に関する知識がちりばめられた文章は、いつまでも読んでいられるほど心地いい。
「私」シリーズはこの後、『秋の花』、『六の宮の姫君』と続く。それぞれ趣向の異なる作品だが、いずれも長編なので、次の機会には第五巻を紹介したい。
先々週に引き続き、北村薫の「円紫師匠と私」シリーズの第二巻。短編というには少し長めの3編が収録されている。
このシリーズの探偵役は円紫師匠だが、名前が明かされない「私」は、単なるワトソン役ではない。私の日常の中で謎が生まれ、その解明やその後の展開を通じて、私の物語が丁寧に描かれる。
1つ目の謎は、友人「正ちゃん」のアルバイト先の書店での小さな異変。何かと味のある正ちゃんの人となりが描かれるとともに、「私」の恋愛観や本を通じて知り合った男性への小さな恋心も挿入される。
2つ目の謎は、もうひとりの友人の「江美ちゃん」に誘われて出かけた軽井沢の別荘での、チェスの駒の紛失。季節の移ろいを主題とする和歌や、落語の三題噺をめぐる師匠との会話が楽しいが、この章の主役は江美ちゃん。
3つ目の謎は、シリーズを通じて言及されてきた、「文句のつけようがない美人」の姉に、間違って送られた歌舞伎座のチケット。その騒動を通じて、幼い頃から積み重ねられてきた姉との確執が、新たな展開をみせる。
つまりこの一冊は、二十歳の「私」の、ある種の成長物語なのかなと思う。加えて、軽快な会話や、文学、落語に関する知識がちりばめられた文章は、いつまでも読んでいられるほど心地いい。
「私」シリーズはこの後、『秋の花』、『六の宮の姫君』と続く。それぞれ趣向の異なる作品だが、いずれも長編なので、次の機会には第五巻を紹介したい。