少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

横浜ネイバーズ5

2024-08-30 13:07:35 | 読書ブログ
横浜ネイバーズ5 ディテクティブ・ハイ
(岩井圭也/ハルキ文庫)

今年4月に紹介したシリーズの第5作。

今作も、フリーターの主人公が、周囲で起こる4件の困りごとに体当たりで立ち向かう。キーワードは、地下アイドルの押し活、闇金、合法(違法)薬物、特殊詐欺の闇バイト。はやりもの?の事件を取り上げるのも、これまでと同様。

しかし、漫然と巻を重ねるだけのシリーズではないようで、事態は大きく動いていく。

近隣の人々の役に立ちたい、という思いはあるが、事件を解決しても報酬が得られるわけでもなく、将来の見通しが立たない主人公だが、これまで積み重ねてきた人の縁から、少し方向性が見えてくる。

これまでも、少しあぶない方向に踏み出す傾向のあった主人公だが、今作では、かなり危険な領域に突き進んでいく。

そして、シリーズを通しての大きな謎である、母親との因縁がクローズアップされる。

クライマックスが近づいている気配があるが、果たしてどうなるのか。

これまで速いペースで新刊が出てきたが、次作も早めに出ることを期待したい。

化学の授業をはじめます。

2024-08-23 16:28:39 | 読書ブログ
化学の授業をはじめます。(ボニー・ガルマス/文藝春秋)

この本は、化学の解説書ではない。(なお、写真の右側に写っているのは、解説書。説明は省略します。)

物語は1961年11月から始まる。主人公は人気のある料理番組のスターだが、自分を料理家ではなく化学者だと考えている。男尊女卑の傾向が強かった時代に、自らの信念を曲げることなく生きる女性の物語。

厳しい生い立ち、女性であるが故に受けるさまざまな理不尽、思わぬ不幸など、過酷な話が続くのは少し苦手だが、何故か読むのをやめることができない魅力がある。

感想を少し。

過酷な話だが、ハピーエンド(ちょっとでき過ぎ?)なので安心して読んでいただきたい。

犬は人間の言葉を理解している、という設定は、犬好きの方には共感できるだろう。

料理を本格的に始めた頃、料理は化学の実験みたいだと思った。この本には、次のような言葉がある。

「料理は化学です。化学とは変化です。それなら、あなたは何を変えるのか、自分に問いかけてください。」

間の悪いスフレ

2024-08-16 14:49:57 | 読書ブログ
間の悪いスフレ(近藤史恵/創元クライム・クラブ)

近藤史恵の「ビストロ・パ・マル」シリーズの第四作。

近い将来に続編が出ると期待していなかったので、図書館で見つけたときは望外の喜びだった。(昨年9月の刊行。これまでは文庫を見つけて買っていた。)

7作の短編が収録されている。初出時期をみると、2018年8月から2023年2月まで。コロナ禍に直撃された時期を含んでおり、作品にも反映されている。

ビストロを舞台に、料理に関係する小さな謎や相談をシェフが解決する、というスタイルは今作も健在だ。が、シェフだけでなく、他のメンバーも力を合わせて、周囲の困りごとを解決する、という色合いが強まったような気がする。

そして、その困りごとの内容が、「確かにそういうことがある」と思わせるところに、この作者独特の、時代を見る眼の繊細さを感じる。

いずれにしても、「ビストロ・パ・マル」は、テイクアウトや料理教室など、最大限の経営努力でコロナ禍を乗り切った。さらなる続編を期待したい。



伯爵と三つの棺

2024-08-09 14:38:15 | 読書ブログ
伯爵と三つの棺(潮谷験/講談社)

フランス革命期の北ヨーロッパを舞台とする殺人事件を描く長編ミステリ。

殺人の舞台は、伯爵が所有する古城。殺されたのは元吟遊詩人。容疑者は、伯爵から古城の改修を任された下級貴族の三つ子。そして、語り手は、伯爵の公務について逐一書き取る役割を担う政務書記。

警察組織が未発達な時代に、捜査を担うのは、伯爵の家臣である「公偵」たち。特に主席公偵の活躍で、事件は解決に向かう。しかし・・・

ファンタジー的な要素はなく、犯罪捜査技術が未熟な時代に、論理だけで犯人を特定しようとするミステリ。

フランス革命の余波を恐れる北ヨーロッパの貴族社会という設定が絶妙。事件のそもそもの発端、殺人の動機、殺害方法など、この時代のこの場所でなければ、このような綿密なミステリは成立しなかったのでは、という気がする。

そして、この本の最大の魅力は、事件解決後の残りのページに集約されている。どんでん返し、という訳ではなく、より深い真相が・・・

作者は2021年のデビューで、すでに数冊の長編を書かれているようだ。ミステリの沼の深さを、あるいは、読書そのものの奥深さを感じた一冊。


IQ 

2024-08-02 14:04:50 | 読書ブログ
IQ (ジョー・イデ/ハヤカワ・ミステリ文庫)

ロサンゼルスを舞台とする、「IQ」と呼ばれる探偵の物語。

冒頭、変質者に誘拐された少女を救出する派手なアクションからスタートする。

その後、猛犬に襲われたラッパーから依頼された犯人捜しと、主人公の過去の物語が並行して描かれる。

背表紙に「新たなシャーロック・ホームズ」という言葉があるが、「緻密な推理」というよりは、「複雑な性格の主人公と、絶妙の相棒」という意味合いかと思われる。

貧困と犯罪、そして「クールさ」に満ちた黒人コミュニティの描写が秀逸。犯人捜しだけでなく、「いかにして彼は探偵になったか」という物語であることが明らかになる。

末尾に、主人公が探偵になる契機となった事件の手がかりが描かれ、続編が暗示されている。(すでに邦訳・出版されている。)

拝見しているブログで紹介されていた本。ミステリファンの中でも好みが分かれそうだが、私は好きだ。