少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

小説作法の奥義

2023-03-31 19:57:01 | 読書ブログ
小説作法の奥義(阿刀田高/新潮社)

久しぶりに、阿刀田高氏の本を読んでみようと思った。

この人の作品は、大学生の頃、『冷蔵庫より愛をこめて』や『ナポレオン狂』などを読んだ記憶がある。ブラックユーモアや品のよいエロスを感じさせる短編が多かったと思う。

少し間が空いてから、『ギリシア神話を知っていますか』も読んだはず。

本書は、作者が自らの作品を振り返りつつ、小説を書き始める端緒となるアイデア・発想の方法について語る、という内容。小説を書きたい、という人にどの程度役立つのかは分からないが、読みやすくて先が読みたくなる感じは、昔なじみに合ってすぐに、往時の親しみを思い出すのに似ている。

いくつかの感想。

駆け出しの頃、ロアルド・ダールに惹かれて、そのような作品を目指した、というのが意外だった。(ロアルド・ダールの作品は、2年前に『あなたに似た人』2冊を紹介しています。)

この本の中でも、「~を知っていますか」のミニ版を展開しているが、本書全体が、『阿刀田高を知っていますか』という題名のエッセーではないかと思える。

最後の第10章とあとがきが、88歳を迎えた作者の心境を描いてしみじみとする。

神々の宴~オーリエラントの魔導師たち

2023-03-24 19:27:32 | 読書ブログ
神々の宴(乾石智子/創元推理文庫)

乾石さんの「オーリエラントの魔導師たち」の短編集。

本屋で文庫の新刊を見つけた。図書館で毎回チェックしていたのに、こんな新刊出てたっけ?と思ったら、文庫オリジナル短編集、とのこと。

ファンタジーの短編集をあまりみかけないのは、作品独自の世界像を描くのに、それなりのボリュームが必要だからだろう。このシリーズの短編集は2冊目だと思うが、それが可能なのは、多くの作品群によって「オーリエラントの魔導師たち」の広大な歴史空間が構築されているから。

集録されているのは書下ろし2編を含む5作品。生きた時代も身分も性別も年齢も異なる魔導師たちの、それぞれに個性的な魔法が描かれている。この作者が描く魔導師に共通するのは、心の奥深くに闇を抱えていること。闇に飲まれることなく、強い意思で闇と共存することが、魔導師としての絶対条件。

表題作の主人公は、魔法を操るというよりは、神の加護を受けた魔導師。巻末に、コンスル帝国の神々について作者自身の説明があり、他の作品でも神々が描かれているので、これを表題作としたのは理解できるが、なぜか表紙に英語のタイトルが併記されていて、それには別の作品が使われている。(私としては、その作品が一番気に入っている。)

いずれにしても、久しぶりに独自のファンタジー世界を堪能できた作品。

なお、今後、書影は著作権法に抵触しないよう、「版元ドットコム」に掲載されている画像を使うことにします。

マーロー殺人クラブ

2023-03-17 20:36:34 | 読書ブログ
マーロー殺人クラブ(ロバート・ソログッド/アストラハウス)

図書館の海外作品のコーナーで、タイトルと表紙に惹かれて借りてみた本。

マーローは地名でロンドン郊外の街。主人公は77歳の女性。一人暮らしで、生活に困ってはいないが、クロスワード・パズルを作って収入を得ている。ときに1杯のウイスキーをたしなみ、ときに杯を重ねることもある。テムズ川沿いの邸宅に住んでおり、ボートも持っている。陽気の良い夜には、裸でテムズ川を泳いだりもする。恵まれた境遇に至る過去には、少しばかりの秘密もあるらしい。

こんな型破りの女性が、殺人事件に遭遇し、頼りにならない警察を尻目に、独自の捜査を始める、という内容。いかにも怪しい容疑者がいるのに、捜査はなかなか進まない。それを、二人の女性を仲間に引き込みながら、常識外れの行動力で突破していくところが、この作品のセールスポイントか。

高齢女性が素人探偵を務めるコージーミステリ、ということになるのだろうが、日本流にいえばユーモア推理で、にこにこしながら成り行きを楽しめばよい作品と思った。

すでに続編があるようだが、私が読むためのハードルは高そうだ。まず、翻訳されること。それから、図書館の蔵書になるか、古本または文庫で安くなるか。

星くずの殺人

2023-03-10 19:38:50 | 読書ブログ
星くずの殺人(桃野雑派/講談社)

宇宙ホテルを舞台とする連続殺人を扱うミステリ。

初見の作家さんだが、図書館の新刊書コーナーで見つけて、SF仕立てのミステリかなと思って借りてみた。

読み始めて2時間あまり。一度も本を手放すことなく読み終えてしまった。

まず、時代設定が絶妙。宇宙ホテルはまだ実現していないから、近未来ということになるが、格安設定で3千万円の宇宙旅行は、もう少しで何とかなりそうだから、SFという感じはあまりない。

殺人事件では、「誰が」と「いかにして」に加えて、動機(ホワイダニット)も重要な要素だが、その3つすべてにおいて、十分な趣向がこらされている。なぜ宇宙ホテルを舞台としたのかも、読み終えれば、その必然性に納得する。

ほかにも、型破りな登場人物など、おすすめポイントはあるが、多くは語らずに、印象的な末尾の文章だけ、引用させていただきたい。

「……地球、丸いわ。」

中野のお父さん

2023-03-04 07:00:00 | 読書ブログ
中野のお父さん(北村薫/文芸春秋)

この人の作品は、「円紫師匠と私」シリーズを3冊、紹介したことがある。いつか、別のシリーズを読むことになるだろう、と思っていた。

で、思いがけず重い本を読んでしまった気分転換に、シリーズ3作を一気読みした。主人公は、出版社に勤める体育会女子の編集者。(体育会系、としていない理由は本文中にあります。)仕事で謎にぶつかった時に頼るのは、中野に住む国語教師のお父さん。安楽椅子探偵ならぬ、炬燵探偵だ。

シリーズ3作に、それぞれ印象に残る作品がある。
『中野のお父さん』では、「闇の吉原」。其角の句を題材にしている。(泡坂妻夫の『煙の殺意』にも同じ句を扱った作品があった。)
『中野のお父さんは謎を解くか』では、「菊池寛はアメリカなのか」。アメリカの意味が実に意外。
『中野のお父さんの快刀乱麻』では、「古今亭志ん朝の一期一会」。リモートではなく、人と人が会うことの意味が、心にしみる。

お父さんの本の知識が細かすぎるという面は、確かにある。しかし、多少の消化不良があっても、そのまま飲み込んで読み続けることはできる。(多くの本を、私はそのように読んでいる。)本や落語など幅広いうんちくに満ちた、軽妙で、ときおりダジャレや地口もまじる文章は、いくらでも読んでいられる。益田ミリさんのイラストも、内容に合っている。

この作者には、ほかにもシリーズがある。いつか読むことになりそうな気がする。