少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

なぜ宇宙は存在するのか

2023-02-25 07:00:00 | 読書ブログ
なぜ宇宙は存在するのか(野村泰紀/講談社)

講談社の「BLUE BACKS」の1冊。

サブタイトルに「はじめての現代宇宙論」とあるが、入門者向けの本ではない。筆者がまえがきで書いているように、タイトルに示された深淵な問いに対して、現代宇宙論が到達した地平を、なぜ科学者がそう考えるようになったのか、論理を明らかにしながら説明している。その説明が丁寧なので、逆に、類書よりも理解が進む気がする。

本書はまず、ダークマターとダークエネルギー、次にビッグバンとインフレーション理論を取り上げ、宇宙開闢のごく初期の段階で、何が起こったかについて説明する。

後半では、この宇宙が、人間が存在するために、よくできすぎていることが議論され、それを合理的に説明できるのは、インフレーション理論と超弦理論から導かれるマルチバース理論だけであることが示される。

超弦理論からは、6次元のコンパクトな空間の違いによって、基本定数の異なる極めて多くの種類の宇宙がありうることが導かれ、インフレーション理論からは、永久に無限に泡宇宙が発生することが導かれる。(その事情は、昨年5月に『神の方程式』を紹介した記事でも言及した。)

無数の宇宙の中で、極めて都合のいい宇宙だけが、文明を生み出すことができる。それが、ワインバーグが提唱した人間原理だ。

個人的な感想。マルチバース理論は、すでに多くの科学者に受け入れられているらしい!

もうひとつ。親宇宙と泡宇宙の関係がどうなっているのか、よくわかっていなかったが、本書のペンローズ図による説明は、説得力があった。

ネヴァー

2023-02-18 07:00:00 | 読書ブログ
ネヴァー(ケン・フォレット/扶桑社ミステリー)

ケン・フォレットが書いた国際謀略小説。

この人は、『大聖堂』がよかった。かなり長いが、丁寧にストーリーを積み重ねた良作だ。その続編である『大聖堂ー果てしなき世界』は、ストーリーテリングよりはドラマツルギーの要素が強く、私の好みではなかった。(用語の使用法を含めて個人の感想です。)この人の作品は総じて長いので、それ以降は読んでいなかった。この本の前書きに、第一次世界大戦が起こった経緯を調べたことが、この本を書いた動機だと書いてあったので、読んでみようと思った。

描かれているのは4人の主要人物の動向。中央アフリカのチャド共和国に駐在する女性CIA職員。彼女と連絡を取りつつテロリストの動向を探る潜入捜査官。中国国家安全部の局長。そして、アメリカ合衆国初の女性大統領。

チャド共和国と隣国のスーダンとの小規模な武力衝突が、次第にエスカレートして・・・という、上中下三巻に及ぶ物語。登場人物からわかるとおり、中国とアメリカの動きが中心になるが、あの独善的な小国も関与する。4人それぞれの、恋人や配偶者とのあれこれが少し煩いが、大筋のストーリーは、緊迫感を持って読み続けることができる。

読み終えて気づいたのは、これは国際謀略小説というよりは、一種のシミュレーション小説だということ。読んだことは後悔していないが、紹介するかどうかについては、かなり迷いがあった。そういう意味では、「お勧めはしない」本ということになる。

もし読んでしまったのならば、この本が指摘することを重く受け止めてほしい。

世界を支えるすごい数学

2023-02-11 07:00:00 | 読書ブログ
世界を支えるすごい数学(イアン・スチュアート/河出書房新社)

数学が、この世界の森羅万象をいかによく説明するか、をテーマとする著作。2020年12月に紹介した『神は数学者か?』と同趣旨だが、本書は、宇宙の構成原理としての数学というよりは、より実用的な数学の応用例を紹介している。

筆者はイギリスの数学者で、数学に関する一般向けの本を多数書いている。私は『世界を変えた17の方程式』を読んだことがある(というか、ざっと眺めただけ。)が、ある程度の規模の図書館で数学書のコーナーを探せば、多分、この人の本が見つかると思う。

何の役にも立ちそうにない、脳の戯れのような数学が、思いがけない分野で応用されている。帯で紹介されている例は、フェルマー×暗号、四元数×CG、カオス理論×品質管理、トポロジー×防犯 など。

本書で私が特に感銘を受けたのが、複素数に関する説明。iを理解するのに複素平面を持ち出して、iを90度の回転と考える、というふうな理解で、2乗するとマイナスになることの違和感をなだめてきたと思う。が、複素数は2元数(2つの実数を組み合わせた数)であり、実数の延長で自然な四則演算を定義すれば、必然的に

(0,1)×(0,1)=(ー1,0)

が導かれる、という説明を読んで、目からうろこが落ちる思いがした。

いずれにしても、「数学なんて社会に出て何の役に立つの」という問いに対する回答にはなっている。(そういう人は読まない気がするが。)

藤井聡太はどこまで強くなるのか

2023-02-04 07:00:00 | 読書ブログ
藤井聡太はどこまで強くなるのか(谷川浩司/講談社+α新書)

谷川さんが藤井さんの強さを分析した『藤井聡太論』の発刊が2021年6月。それから1年半を経て、藤井さんは五冠となり、今、名人への挑戦権獲得を目前にしている。(先日、永瀬王座に敗れて6勝2敗となり、広瀬八段と並んだが、まだ最有力候補であることは間違いない。)

この本は、予想を超える藤井さんの活躍ぶりをみて、特に史上最年少名人への挑戦という谷川さんが歩んだ道を、藤井さんが再現しつつある状況を踏まえて書かれたもので、主に2つのことが書かれている。

ひとつは、タイトルのとおり、藤井さんの強さについて。節目ごとのコメントをみると、藤井さんは、記録やその時々の勝敗よりも、「強くなる」ことを意識しているようにみえる。棋士にはピークがあることを念頭に、それまでにできる限りのことをする、という意識を持っているのだろう、というのが、谷川さんの見立てだ。また、藤井さんを倒すための戦略についても論じている。

もうひとつは、名人戦を中心とする将棋界の動向。実力制名人戦80年の歴史を俯瞰し、400年の名人の歴史をたどり、また、自らの名人獲得の道を振り返る。AIによって将棋界は変革期を迎えているが、その中心には、当面、藤井さんがいるだろう。

羽生さんとの王将戦。渡辺さんとの棋王戦。そして順位戦A級最終局。目が離せない対局が続く。