等々力座殺人事件(戸板康二/河出文庫)
この作者のことは、歌舞伎をはじめ演劇に詳しい評論家と認識していた。(エッセイを少し読んだことがあると思うが、定かではない。)この本で初めて、ミステリを書いていることを知った。
創元推理文庫でも作品集が出ているようだが、今回、河出文庫から次の2冊が出版されている。
1 等々力座殺人事件 ~中村雅楽と迷宮舞台~
2 楽屋の蟹 ~中村雅楽と日常の謎~
題名のとおり、1は殺人事件を中心とする作品、2は歴史上の事件の新解釈をはじめ、様々な趣向の謎解き。
探偵役の中村雅楽が年配の歌舞伎役者という設定で、歌舞伎をはじめ演劇界に関する事件や謎を解くのが最大の特徴。歌舞伎の知識があればもっと面白いだろう、とは思うが、知識がなければ読めない、というものでもない。(むしろ肩の凝らない入門書も兼ねた読み物、ともいえる。)何より、雅楽の温厚でチャーミングな人柄が大きな魅力になっている。
「日常の謎」という言葉が、発表当時から一般的だったかどうかは知らないが、ミステリの題材としては、かなり早い時期から取り上げられてきたことも、改めて確認できた。
短編推理という、好みの分野。新たな編集による出版のおかげで、読み逃しを免れた、ということで、今回、紹介させてもらった。(全作品を読むかどうかは、まだ、わからない。時代のギャップを感じる部分は、確かにある。)