少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

いわいごと

2021-10-30 07:00:00 | 読書ブログ
いわいごと(畠中恵/文芸春秋)

デビュー作『しゃばけ』が大ブレイクしてシリーズ化され、本屋ではよく見かけてきた作家。

本作は『まんまこと』シリーズの第8弾で、私が読んでいるのはこのシリーズだけ。図書館で借りているが、人気作家だけあって3月に入荷し、借りられたのは10月になってから。よく売れている本を取り上げるのは私らしくないが、相手にしないと決めているわけではない。

江戸の町名主の跡取り息子が主人公で、町名主のもとに持ち込まれるさまざまな厄介ごとを裁いていく。1話完結の話をつないでストーリーを紡いでいくおなじみのスタイルだが、主人公麻之助の嫁とりも大きなテーマになっている。

謎解き、というよりは人情話だが、飄々とお気楽な割には行動力のある主人公のありようと、見習い同心、高利貸し、両国界隈の顔役、差札など多様な人とのつながりの中で、解決策をさぐる筋道がシリーズの魅力だ。

死別やら破談やらで中々おさまらない主人公の嫁とりも、ようやく成就したようだが、これでおしまい、という感じはしないので、続きを待ちたい。

後悔するイヌ、噓をつくニワトリ

2021-10-23 07:10:00 | 読書ブログ
後悔するイヌ、嘘をつくニワトリ(ペーター・ヴォールレーベン/ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

著者はアカデミックな世界の住民ではなく、ドイツ独特の森林管理官という役職を勤め上げた人。ドイツ人にとっての森は、私たちが考える以上に生活に深く関わっているらしい。

動物行動学に興味があるので、ほぼ題名だけで選んだ本。

本書を貫くテーマは、動物にも人間と同じような意識や感情があるのか、というもの。日常的に動物と接していると、家族や友人のように感じることは珍しくない。が、著者は単に動物を擬人化するのではなく、最新のアカデミックな知見を多数引用しながら、自らの観測に基づく実感を踏まえて、アカデミズムが注意深く避ける領域へ踏み出していく。動物にも先駆的な機能があると論ずるだけでなく、時に独自の視点でこの世界を認知している様子を描き出す。その題材は、愛情、知性のひらめき、感謝、勇気、悲しみ、恐れなど多岐にわたる。

同じ著者の『樹木たちの知られざる生活』は、世界的なベストセラーで、同じ文庫で出ているらしい。この本は読み通すのに少し苦労をしたが、そちらのほうが面白いのかもしれない。

探求する精神

2021-10-16 07:00:00 | 読書ブログ
探求する精神 職業としての基礎科学(大栗博司/幻冬舎新書)

超弦理論の分野で世界的に活躍している大栗博司氏。これまで、一般向けの解説書として、『重力とは何か』、『強い力と弱い力』を読んだ。いずれも、本書と同じ幻冬舎新書。

また、もう少し踏み込んだ内容の『素粒子のランドスケープ』(1と2が出ている)も、かなり無理をして読んだ。

本書は、研究者としての歩みを振り返る自伝的な要素と、研究者としての心得を語り基礎科学の重要性を訴える啓蒙的な要素が交じり合った、読み応えのある内容。この人の文章は、頭の中にあることがきちんと整理されて、的確に表現されている印象がある。

数式はでてこないし読みやすい本だが、超弦理論に関する情報量は多い。特に、氏の重要な成果である「BCOV理論」の発見やその応用に関する記述は、研究の進展状況に関する理解を深めてくれた。

この人もノーベル賞級の研究者だけど、超弦理論ではノーベル賞は貰えそうにないかな。


巴里マカロンの謎

2021-10-09 07:00:00 | 読書ブログ
巴里マカロンの謎(米澤穂信/創元推理文庫)

本屋で、以前に紹介した『マカロンはマカロン』の近くに置いてあって、ずっと気になっていた。軽い読み物のようなのだけれど、帯に「11年ぶり、シリーズ最新刊」と書いている。

で、まず元のシリーズから読むことにした。高校生の男女が主役の、小市民をキーワードとするコミカルなタッチの推理もの。『春期限定いちごタルト事件』、『夏期限定トロピカルパフェ事件』、そして『秋期限定栗きんとん事件』の三作だ。



タイトルがスイーツの名前で統一されているが、スイーツをめぐる謎という訳でもない。そしてなぜか、冬期がないのだが、それは、秋期の事件が、年をまたいで翌年の夏にまで及ぶからだろうと推測できる。いちおう完結編のような終わり方だから、11年間、続編がなかったのもうなずける。

で、11年ぶりに書かれた新作は、時間をさかのぼって、1年生の、2学期から3学期にかけてが舞台となっている。スイーツをめぐる謎も描かれているし、事件の程度も軽い。シリーズ中で、最も私の好みに近い。

気になる作品は、ときたまハズレのこともあるけれど、これはアタリだった。マメに本屋を覗いていないと、そういうカンも鈍ってしまうのだ。

美しき野生

2021-10-02 07:00:00 | 読書ブログ
美しき野生(フィリップ・ブルマン/新潮文庫)

これまで読んだファンタジーの中でベストを聞かれたら、迷わず『黄金の羅針盤』をはじめとする三部作をあげる。

誰もがダイモンと呼ばれる動物型の守護精霊を持ち、「真理計」という神秘の器具が存在する異世界の物語。今回は、シリーズの続編ではあるが、後日譚ではなく、ライラの冒険の前日譚。ライラは登場するがまだ赤ん坊で、実質的な主人公は、カヌーの操縦が得意な、11歳の少年。

読み始めると止まらなくなる感じを久しぶりに経験した。20年前なら徹夜で読んだかもしれない、そんな勢いだった。

タイトルの『美しい野生』は、内容にぴったりという訳ではないが、主人公のカヌーの名前。タイトルの前に『ブック・オブ・ダストⅠ』とあり、続編があるようだ。