少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

神は数学者か?

2020-12-27 09:04:06 | 読書ブログ
神は数学者か?(マリオ・リヴィオ/ハヤカワ文庫ノンフィクション)

ハヤカワ文庫の<数理を楽しむ>シリーズ。著者はアメリカの天体物理学者。

数学は、そもそも人間が頭の中でひねり出しだだけのものではないのか。それがなぜ、宇宙の森羅万象を、これほどにも、よく説明するのか。という問題意識をテーマとする著作。 

実用性など考えずに、知的好奇心から生み出された数学理論が、後に、特定の事象を非常によく説明するという例がよくある。例えば、18世紀に誕生した、ひものトポロジーは、物質の根源を探求する超弦理論に応用されている。そして、分野を問わず多くの最先端研究で、高度な数学が不可欠となっている。

著者は、数学は人類の発明なのか、それとも、もともと存在する真理の発見に過ぎないのか、という問いの形で、数学の発展史を概観する。

それほど読みやすい本ではないが、この本を取り上げたのは、巻末で小島寛之氏が紹介している言葉が秀逸だったから。

生物学者は、自分たちを化学者だと考えている。化学者は、自分たちを物理学者だと考えている。物理学者は、自分たちを神だと考えている。でも、神は数学者である。

これは、アメリカの数学者たちの間で流行っているジョークとのこと。小島氏は数学エッセイストで、これまでに読んだ作品は、どれも面白かった。

酒のさかな

2020-12-20 12:00:00 | 読書ブログ
酒のさかな(高橋みどり/ちくま文庫)

料理に関する本が好きだ。料理に関するエッセーも、レシピ本も。

夫婦二人暮らしで、休日の昼と夜は、ほぼ私が食事を作る。それを義務と感じることなく楽しむことができるように、いつも、作りたくなる料理を探している。

料理に関連する本の中で1冊を選ぶとすれば、躊躇なく、高峰秀子の『台所のオーケストラ』をあげる。檀一夫の『檀流クッキング』や草野心平の『口福無限』も悪くないが、文章と実用性を総合評価すれば、他の追随を許さない。私は新潮文庫のを手に入れたが、文春文庫や、文庫ではない写真入りのも出版されているようだ。

文章に華があり、相当昔の本なのに、まったく古さを感じない、驚異の一冊である。

で、あまり古いのは別にして、比較的新しいものから選ぶとすれば、この作品だ。エッセーというよりは、ほぼレシピなのだが、酒飲み好みで手間もかからず、レパートリーに加えたくなるものが多い。

高峰秀子の作品の質が、本質を見抜く目と夫への愛情に支えられているとすれば、この作品の神髄は、酒と料理そのものへの、深い愛着だろうか。

日本史の探偵手帳

2020-12-13 13:23:48 | 読書ブログ
日本史の探偵手帳(磯田道史/文春文庫)

著者は歴史学者。自分が思いついた歴史上の疑問について、古文書を探索して真相を見つけ出す。そのような作業を繰り返してきた著者が、その成果の一端を『探偵手帳』として取りまとめたもの。

内容は4章からなり、第1章では、日本文化の基調をなす武士の行動様式を、中世の武士と近世の武士の違いから読みとく。

第2章では、武士社会の教育システムに関する考察から、明治維新以降のエリートの質の変化を論じ、エリートの劣化が国を滅ぼした、と喝破する。

第3章では、古文書から明らかになる「おもしろネタ」の数々を披露し、第4章では、日本史を理解するための「必読の百冊」を紹介する。

期待どおりの「軽い読み物」であったが、内容は決して軽くはなかった。

三体Ⅱ 黒暗森林

2020-12-06 18:11:24 | 読書ブログ
三体Ⅱ 黒暗森林(劉 慈欣/早川書房)

以前に紹介した『三体』の続編で、三部作の2番目。

前作で描かれた事態の結果、全ての情報が相手方に筒抜け、という状況の中で、打開策をひねり出す必要に迫られた人類。その答えが、4人の面壁者を選ぶことだった。

面壁者の任務は、相手方が知ることのできない頭の中だけで奸智をめぐらし、相手を倒す方法を考えること。相手方は、その奸智の内容を当てようとし、あるいは面壁者を亡き者にしようとする。その攻防が本作のメインテーマ。4人のうち、本筋は1人だけだが、その他の3人の策も決して無意味ではない。

ある意味で、タイトルそのものがいくらかネタバレともいえるが、それとは無関係に面白い。私も事前にこの作品のネタバレサイトを見てしまって、その策では失敗する可能性を否定できない、と考えていたが、その危惧を完全に払しょくする筋書きになっていたことに感心した。

第三部の日本語訳は、来春の出版予定、とのこと。本作ほど面白いとは思えないが、また、予想を裏切ってくるかもしれない。