少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

科学の発見

2019-05-26 18:26:10 | 読書ブログ
科学の発見(スティーブン・ワインバーグ/文芸春秋)

著者は弱電統一の功績によりノーベル賞を受賞した伝説の物理学者。

物理学を頂点とする現代の科学、特に実験、実証に基づく方法論が、歴史的にいかに成立したかを明らかにする内容。

本人が書いているとおり、現代の基準で過去を裁く、という歴史家がしてはならないとされていることを確信犯的に犯している点で、発表当時、物議をかもした著作である。その歯切れのよさは、一読者として読む分には心地よいし、大筋でこの人の言っていることは正しい、と思わせる説得力がある。

この本の存在を知ったのは超弦理論の研究者である大栗博司氏がどこかで言及していたからだが、巻末に氏の解説が載っている。



知の果てへの旅

2019-05-11 17:59:19 | 読書ブログ
知の果てへの旅(マーカス・デュ・ソートイ/新潮社)

『素数の音楽』、『シンメトリーの地図帳』、『数字の国のミステリー』に続く4冊目の著作。これまでの3冊は、数学の解説書、というよりは、数学をネタにした面白い読み物だった。今回は、専門分野を超えて科学全体を俯瞰し、人間が知りうることに限界はあるのか、という根源的な問いに対する、現時点でのベストアンサーを探る内容。

当然、ゲーデルの不完全性定理や、量子物理学の解釈問題、『なぜ何もないのではなく何かがあるのか』という例の質問も出てくるが、究極のサイエンスである数学の徒らしく、形而上的な弁舌を排しつつ人知の届きうる限界を探っている。しかも、従来の著作と同様、読みやすい構成と表現で飽きさせない。最先端科学をネタに、さらに本を出し続けてほしい。

ロング・グッドバイ

2019-05-03 19:54:38 | 読書ブログ
ロング・グッドバイ(レイモンド・チャンドラー/早川書房)

村上春樹訳のチャンドラー第1弾。30年以上前の学生時代に、ハードボイルドに関心を持った時期があり、チャンドラーもある程度は読んだはず、と思っていたが、古い在庫を確認すると、メジャーでない作品を1冊読んでいただけだった。当時は、ハメットみたいなのがかっこいいと思っていたのかもしれない。

村上春樹が大いに影響を受けた、というのがよくわかる作品であり、フィリップ・マーロウの円熟期。気の効いた表現や比喩が頻繁に出て来て読者を飽きさせない。主人公の推理は一切語られず、ただ行動を通して事件の核心に近づいていく。その手練がこれだけ見事だと、ハードボイルドと称する他の作品が、模倣にしかみえない。もちろん、模倣がすべて駄作というわけではないが。