少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

動物たちは何をしゃべっているのか?

2024-06-28 19:00:26 | 読書ブログ
動物たちは何をしゃべっているのか?(山極寿一・鈴木俊貴/集英社)

ゴリラの研究者とシジュウカラの研究者が、動物の言葉について語り合った内容を書籍化したもの。

言葉は人間だけのもの、という定説?に対して、動物たちも鳴き声などを通じてコミュニケーションをとっている、と主張している。それは人間が考える以上に高度で、それを研究することによって、人間の言葉の進化を類推することもできる。

話は発展して、言葉を通じて人類の進化や特性を考察する。例えばこのような論考が語られる。(順不同。要約の文責は私にあり、間違っていたらごめんなさい。)

人類の集団の規模が大きくなるにつれて、脳も大きくなった。

動物たちは、鳴き声だけでなく、文脈や視線、身振り手振りなどを同時に用いて複雑なメッセージをやりとりしている。人間のコミュニケーションは言語に依存している。

戦争は言葉が暴走してしまった例のひとつだ。人間は本質的に戦争が好きなのではなくて、仲間を守るために、あるいは信頼を裏切らないために戦場に行く。

SNSやAIでは言葉だけがやり取りされるようになり、共感によるコミュニケーションが難しくなっている。

しかし、悲観論ばかりではない。最後に、テクノロジーをうまく使えば、言語から切り捨てられる情報と現代社会の利便性を両立させることはできる、という希望が語られる。

それほどの量はなく、読みやすい本です。

新・幕末史

2024-06-21 18:11:10 | 読書ブログ
新・幕末史~グローバル・ヒストリーで読み解く列強VS.日本~
(NHKスペシャル取材班/幻冬舎新書)

2022年にNHKスペシャルで放送された「新・幕末史 グローバル・ヒストリー」の内容をさらに深めて書籍化したものらしい。(放送は見ていない。)

本書は、黒船来航の1853年から戊辰戦争が終結した1869年までを取り上げ、列強諸国(英国、フランス、ロシア、プロイセン、アメリカ)が、新体制への移行、特に戊辰戦争にどのように関わったかを、各国に遺された外交文書の分析を通じて明らかにする、というもの。

帝国主義的な植民地獲得競争の中で、列強の動向によっては、日本が植民地となったり、傀儡政権化するおそれも十分にあった。

また、当時の我が国の課題は、そのまま、その後の発展方向(とその限界)に直結している。歴史に「もし」を持ち込んではいけないといわれるが、さまざまな「もし」が想定し得る時代。

明治維新から150年余り、当時の激動の歴史は、現代と地続きであることを実感した。

そして、当時の各国のむきだしの欲望は、地政学的な観点で見ると、必ずしも過去の遺物として看過できるものではない、とも思った。

読後に考えることが多かった一冊。

宇宙の超難問 三体問題

2024-06-14 22:13:50 | 読書ブログ
宇宙の超難問 三体問題(谷川清隆ほか/ハヤカワ新書)

この本は、三体問題の研究者6人の共著による、三体問題の啓蒙書。

三体問題はニュートンから始まった。万有引力の法則のもとで、互いに影響を及ぼしあう3つの質点の動きを特定すること。

本書では、歴史的な経緯に従って、ニュートンに至る古典的な問題、ニュートンからアインシュタインまで、さらにその後の展開について、三体問題の様々な局面を解説していく。

いくつかの感想。

月食、日食は、太陽、地球、月の三体問題といえるが、そのほかにも、彗星やブラックホールの融合など、三体問題として考察すべき事象が数多くある!

三体問題にもエントロピーが現れ、それによって時間の矢が定義される!

なお、本書の記事は、劉慈欣の『三体』が出版されるより前に書かれた部分が多いと思うが、本書が日本語訳で出版されたのは、まちがいなく『三体』の成功によるものだろう。

数式が出てこなくても、決して読みやすい本ではないが、読みごたえはあった。




雀荘迎賓館最後の夜

2024-06-07 21:52:39 | 読書ブログ
雀荘迎賓館最後の夜(大慈多聞/新潮社)

麻雀の牌活字を使った本を読むのは阿佐田哲也の『麻雀放浪記』以来。

「迎賓館」は、7卓の小規模な雀荘で、うち2つがフリー卓。そのフリー卓には、毎週金曜日に強豪メンバーが集まる。

法律事務所代表。飲食チェーン取締役。広告会社局長代理。画像記憶能力を持つ高校教師。それぞれに麻雀に対して独自のスタンスを保っており、それが各人にとっての「この冷たい、馬鹿げた世界」のしのぎ方に直結している。

そこに、途中からセット卓を利用する学生の中で最強の男が参加する。物語は、その5人と女性店主の人生模様を描きつつ、最後の夜を迎える。

感想を少し。

麻雀を題材にこれほどの物語を紡ぎ出したことに驚いた。作者は広告業界に長くいた、という以外は非公表で、この本以外の著作も確認できないが、新たな作品が出れば読みたい、と思わせる魅力がある。

闘牌シーンも描かれるが、勝負の行方より、各人の勝負哲学を描くことが主眼のようにみえる。