箱の中の宇宙(アンドリュー・ポンチェン/ダイヤモンド社)
宇宙論学者が書いた、シミュレーションによる宇宙の歴史の解明に関する著作。
量子物理学あるいは宇宙論に関する本に、しばしば登場する「ダークマター」と「ダークエネルギー」。
ダークマターは、銀河が高速で回転している事実から、その存在は理解しやすい。
一方、ダークエネルギーは、スカラー場の一種であり一般相対性理論の宇宙項に該当するもの、と説明されるがその実態は不明。なのに、ほぼ全ての物理学者が異論なく受け入れているようにみえることに、違和感があった。
本書を読むと、宇宙が現在の形で存在するためには、物質を集める核となるダークマターだけでなく、空間を引き延ばす力も不可欠だった、ということがよく理解できる。
気象学におけるシミュレーションの進歩から説き起こし、それが宇宙論に適用され、観測結果をよく説明するとともに、シミュレーションによる予測が観測によって確認される。そのようにしてシミュレーションは宇宙論と量子力学にとって大きな意味を持つようになった。
終盤では、機械学習やシミュレーション仮説にも言及している。(著者は、この宇宙が超越的存在によるシミュレーションである、という考えには懐疑的だが、この宇宙そのものが巨大なコンピュータでありこの世界をシミュレーションと考えることもできる、という考え方に対しては、認識論として、あり、と考えているようだ。)
専門知識がなくても読めるように、段階を追って必要なことを説明している手際の良さだけでなく、全体として、サイエンスに客観的に向き合おうとする姿勢が非常に印象的な一冊だった。