窓から逃げた100歳老人(ヨナス・ヨナソン/西村書店)
5週前に紹介した『国を救った数学少女』の作者の、より評判の高かった第一作。
まず、最初に誤りの訂正を。『国を救った数学少女』の原題は『スウェーデンの王を救った少女』だと書いたが、これは英訳本のタイトルで、本来はスウェーデン語で書かれているはずだと気づいた。ネットで調べて自動翻訳した結果は『数えることができる非識字者』。
何のこっちゃ、という感じだが、まともな教育を受けられず文字も読めない少女が、きちんと数えられる、という能力を生かして、生まれ故郷を遠く離れて波乱万丈の人生を歩む、というふうに受け止めると、こちらの方がいいと思う。(頭脳明晰ではあるが、数学少女というのはちょっと。結城浩の『数学ガール』にひっぱられている気がする。)
さて、『窓から逃げた・・・』の方は、自動翻訳でも『窓から出て姿を消した100歳以上の人』で、ほぼそのまま。老人ホームから逃げ出した老人の冒険と、その老人の100年の生涯を振り返る記述が交互に出てくる。
20世紀は戦争の世紀だった。使用すれば人類を破滅に追いやる最終兵器も登場した。20世紀にほぼ重なる主人公の生涯は、それを笑い飛ばすように、トルーマン、スターリン、毛沢東ら各国要人たちと渡り合う。(要人たちの描かれ方は名誉棄損ものだが、あまりに与太話が過ぎるので、まあ、お構いなし、とせざるを得ないだろう。)
この本から得たひとつの教訓。基本的には正直が一番だ。しかし、嘘をつかなければならないときもある。
翻訳は柳瀬尚紀氏。翻訳不能といわれた『フィネガンズ・ウェイク』を翻訳した人と承知している(読んだことはないし、読む予定もないが)。はからずも氏の翻訳を読めたのはよかった。