繁浩太郎の自動車と世の中ブログ(新)

モータージャーナリストとブランドコンサルタントの両方の眼で、自動車と社会をしっかりと見ていきます。

NSX オートプルーブ記事転載

2016-09-27 08:51:10 | 日記
今回は、オートプルーブに寄稿したNSXの記事を転載します。
もう少し、NSXについてはあちこちで書きたいと思っていますが・・・。



「繁浩太郎の言いたい放題」スーパーカーホンダNSXの宿命

十数年ぶりに復活したホンダのフラッグシップモデルNSX。価格も2000万円オーバーの超高級車として再登場した。世界の注目を集めているNSXはどんな宿命をもって再登場したのか?人気コラム、元クルマ開発指揮官の繁浩太郎氏がNSXへ言いたい放題。


■スーパーカー市場
日本で、2000万円以上のスーパーカーを含む高級車市場は、年間400台程度の販売台数だそうだ。では、全世界で見るとフェラーリ、ランボルギーニ等の有名メーカーでも、年間数1000台程度である。つまり、スーパーカー市場は、かなり小さなマーケットで、そこにホンダNSXを再投入したのだ。

では、通常、量販の自動車メーカーは、どの程度の台数を生産、販売しているのか?これまでの私の経験から言えば、クルマの製造販売ビジネスを成立させるには、車種開発や生産、販売、サービスなどへのトータル投資が大きいため、車種あたり年間数万台規模の台数を生産、販売しなければ採算が合わない。

具体的には、日本の自動車メーカーはすべてこの量販メーカーと言われる製造業で、つまり数を売って事業とする形態をとってきている。それ故、以前は「400万台クラブ」と言って、世界で年間400万台程度の生産規模がないと、やっていけなくなるだろうと、つい最近まで言われていたのだ。

従って、今回のNSXは小さなスーパーカー市場への参入ということは、生産販売台数が極端に少ない世界での商売となるため、量産メーカーホンダの体質のままでは、事業性はかなり厳しくなってしまうわけだ。だから、生産工場への投資などは根底から少量生産を前提として見直され、開発投資なども削減してきたと想像できる。こう考えると、NSXの2370万円という価格は高いと言われているが、こうした背景から算出される車両価格でもあるわけだ。

■量産車メーカーとスポーツカー
ベンツやBMW、アウディなど欧州プレミアムブランドと言われるメーカーの中で、スーパーカーやそれに準ずるようなスポーツカーをラインアップに加えているメーカーもある。メルセデス・ベンツのAMG GT 、BMWは i8 プロトピック・レッド・エディション、 アウディR8などがパッと思い浮かぶ。北米でもクライスラーには、ダッジ・バイパーとGMには伝統のスポーツカー、コルベットがあり、フォードは2代目「フォード・GT」を2016年末に発売予定だ。

GMのコルベットなどはスーパーカーよりは一般性があって、台数がある程度期待でき、また比較的コストを下げて造れることもあり、リスクは少ないと考える。一方で、コルベットには、専用ボディで造られたスペシャル感や非日常性もあり、イメージはスーパーカーに準じることができると思う。つまり、比較的リスク・レスでブランド構築に役立つモデルで、この辺りにヒントがあるようにも思う。

■なぜホンダはNSXなのか
アメリカ・ホンダは、アコード、シビック、CR-Vなど量販車種を多く抱え、これらの生産台数をキープしないと工場の製造コストが上がってしまう。販売台数が少ない時は、インセンティブをつけて実質「値引き」をした販売で台数を稼ぎ、結果として生産台数を確保することになる。これは、常に価格競争にさらされていることを意味する。

そんな中で、ホンダは、ホンダブランドとは異なった、より収益が見込めるプレミアムブランド「Acura(アキュラ)」を1986年にスタートしている。LexusやInfinitiに先駆けて立ち上げたプレミアムブランドAcuraの存在はホンダブランドにも良い影響をあたえ、相乗効果で北米でのホンダブランドのプレゼンス向上と、さらなる飛躍も期待できると考えられた。

しかし、2013年度の世界販売台数でLexusは50万台オーバーだが、Acuraは19万台チョットであり、北米でのホンダブランドやAcuraブランドの存在感をあげることや、収益性の高さに期待するには台数が小さい。

そこで、Acuraブランドのテコ入れ施策の一つとして、NSXというスーパーカーが再度開発されたと考えるのが順当だ。しかしリスクは大きい。

■そのリスクとは
Acuraの販売台数増を考えた場合、スーパーカーではなく、比較的リスク・レスのコルベットのようなものが量も期待できて良いように思える。だが、そうはいっても日本だけでなく、アメリカでもスポーツカーは既に台数が売れなくなっている現実がある。結果、開発や工場の投資金額と販売台数と売価の関係が難しく、事業性は意外と厳しいのではないかと考える。

よって台数は極端に少なくなるが、それを前提にした、つまり車種開発や生産、販売、サービスなどへのトータル投資を減らした造りにして投資リスクを少なくし、価格を上げて事業性を成立させる。最終的には、最大限ブランドの象徴となるコンセプトのクルマにしたと思うのだ。これなら、ホンダブランドの象徴にもなると。

■NSXのブランド価値
新型NSXは、日本では年間100台の販売と発表されているが、これだと数年経っても街では殆どみかけないし、存在を実感できない。結果、ブランドづくりにはそんなに寄与しないと思われる。

また、あの広い北米でも年間800台ということは、日本と変わらずあまり見かけるということはないように思う。さらに、ホンダユーザーには、価格レンジが異なり過ぎ、実感できず象徴にならないかもしれない。また、あまりユーザーとは関係のない存在だから、すぐに忘れられるかもしれない。

しかし、長い年月をかけて、商品力向上やコミュニケーションにもキチンと力を入れて、プレゼンスを築けるように育てていければ、ホンダ、Acuraの「象徴」的な存在として、ブランドに寄与できる可能性はある。

実際、日産のGT-Rや、歴史ある高性能車のポルシェも、日々の性能アップはもちろんのこと、数々のレースで優勝したりして「勲章」を付け、長い年月をかけてブランドをつくってきた。もちろん、長年続く造り手の情熱もすごい。

「象徴」的な存在は、奉られなければならない。奉ってもらうためには、簡単に言うとメーカーは、長い年月をかけて商品力やコミュニケーションに注力し続け、最高のレベルにし、そのブランドを高みに至らせなくてはならない。量販車とは、存在目的そのものが異なるのだ。NSXは造って販売した時からが「開発スタート」と言えるクルマなのだ。

■ホンダのDNA
ホンダには、次々と新しい技術を創造してきたこともあり、先人の知恵の延長で考えるよりも、先人を否定して取り組む体質が変に残っている部分もあるようだ。商品でいうとディスコン(生産中止)も妙に多い。

世の中は変化していくものだから、悪いことではないのだが、それだけではダメで先人の延長でも普遍的で良いことは残すという姿勢も大切だ。

ホンダの創業者は、「普遍的価値」と「万物流転」という2つの言葉を残している。この両輪をわきまえて、NSXを日々注力して進化させ、世の中と共に存続させていくべきだと思う。

そうすれば、NSXはホンダ、Acuraブランドの象徴に育ち、NSXやホンダ、Acura商品を買わないユーザーまでにも存在を喜んでもらえるようなブランドになっていくと思う。NSXというスーパーカーはそういう宿命だ。

 
 

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