2009年は、これまでの社会経済システムの変革を加速するチャンスであった。地方分権、行財政改革、環境市場の形成などの掛け声は大きくなったと思う。しかし、低炭素社会、循環型社会、自然共生社会の形成に向けた施策においては、抜本的な変革が進んだとは思えない面もあり、2010年度の国政の展開にさらに期待したい。
一方、地域における先進的な取組みは成果をあげており、そこに未来への兆しを感じることができた。そんな未来への希望を探して、各地を巡り歩く1年だった。
ささやかではあるが、私の2009年の経歴と2010年への展開をまとめておく。
■「環境コミュニティ・ビジネス」の新たな定義づけと事例スタディ
・信州大学で、環境コミュニティ・ビジネス論のテキスト開発と講義の立ち上げを行った。
・この一環として、雇用創出効果のある本格的な環境コミニティ・ビジネス、あるいは地域とつながる環境ビジネスの事例を探し、インタビュー調査も行った。先進事例は、地方自治職員研修に連載した(2008年5月号から11月号、7回)。
・日本環境共生学会の特別シンポジウム「環境ビジネスの今後~近未来に向けた「環境と経済の両立」へのヒント」(2008年9月)で、パネルディスカッションに参加した。
・環境情報科学会の発行する「環境情報科学」の特集で、「環境コミュニティ・ビジネスと社会関係資本」のテーマで執筆した(2010年3月号に掲載予定)。
・この仕事を通じて、工務店、商店街、ガソリンスタンドなど、地域に密着したビジネスが、持続可能な地域づくりの拠点となっていく方向に関心を持った。この成果は、講演・講義等で各地に発信していきたい。
■環境配慮の普及に係る住民の意識・行動の研究
・かねてより、持続可能な地域づくりを、環境イノベーション(環境配慮に係る新たなモノ、コト、ヒト等)の普及と地域ソーシャルウエア(地域住民の意識・行動あるいは主体間関係)との相互作用として捉えたいと考え、研究の構想を練ってきた。
・この一環として、環境先進地に間違えなく数えられる長野県飯田市での住民アンケート調査を実施した(2008年8月から9月)。回収率が50%を超え、それ自体に飯田住民の環境配慮意識の強さを伺わせる。
・調査結果は、信州大学イノベーション研究・支援センターが飯田市で実施した「地域資源ビジネス活用講座」(2008年11月)で報告した。
・飯田市における、これまでの環境施策・活動が住民意識に影響を与え、それが現在の環境配慮行動の実施や今後の太陽光発電の設置を支える基盤となっていることを明らかにした。特に、年代や職業等によって、影響を受けた施策・活動が異なること、20才代は影響を受けた施策・活動は少ないこと等が特筆される。
・今後は、さらに意識・行動モデルによる解析や社会関係資本との関係を分析し、学会発表等を行うとともに、地域でのヒアリング調査等を進め、まとまった研究成果にしていく予定。
■森林・林業・山村の支援事業への参加
・林野庁の山村再生総合対策事業の企画・運営委員会に、委員として参加して5年めになる。今年からは、助成事業の選定委員会、あるいは研修運営委員会にも参加している。
・特に研修運営委員会は、当方から提案したもので、今年度は、山村マーケティング、山村コーディネイターという2つのテーマで、研修用のテキスト作成と、2010年2月末に開催する研修の企画・運営を行う。
・山村マーケティングでは、「私の思いがあるものだから買ってくれ」というセリングではなく、顧客ニーズに答え「売れる仕組み」をつくるというマーケティングの考え方をわかりやすく解説するともに、商業主義に偏らない「山村らしい」マーケティングの方法を提示する。
・山村コーディネイター研修では、テキスト作成のために、全国のコーディネイターをたずね、ヒアリングを実施した。コーディネイターとしての仕事をされてきた経験に基づく知恵を、共有していくことの必要性を再認識した。
・その他、かつて日本の三大美林と言われた浜松の林業の戦略を考える仕事を受注した。川上・川下が一体となった林業の再編成の動きを加速する仕事ができればと思う。
・山村にいくと、おもしろい、すごいと思う感動がある。その感動を伝える仕事を、2010年も継続していきたい。
■その他
・持続可能な地域づくりに関して、ここ20年くらいの動きを取りまとめる講演の機会を、江戸川大学の鈴木先生にいただいた(第69回「ローカルデザイン研究会」、2008年7月)。
・大阪大学環境工学科の環境マネジメント研究室を退官された盛岡先生、継承された東海先生の記念講演と交流会に参加した。出身講座のOBが環境分野で働く力となっていることが心強く、大事にしたいネットワークだと感じた。
・環境省や国立環境研究所の委託で、環境情報あるいは環境指標に関する調査を継続的に実施した(実施中)。「環境情報学」という体系を、「環境普及学」の後にまとめてみたいと考えている。持続可能性という観点からの指標検討の仕事も大変興味深いものだ。
・2010年は、今年の仕事を継続するとともに、「2R(リデュース・リユース・リペア等)」、「低炭素技術の実証」、「民芸運動」というテーマにも取り組んでいきたい。
以上。