2014年に成したことを書いてみます。
1.気候変動適応の哲学の普及
「気候変動の影響は地域の弱いところに発生する。その弱さを改善することが適応策である。」という哲学をまとめ、それを発信するため、地方自治体職員、地球温暖化防止活動推進員、企業担当者向けの研修講師、シンポジウム講演等を各地で務めさせていただきました。講演回数は15回を数えます。年明けには北海道、岡山、福岡、宮崎でも話をさせてもらいます。後にも示しますが、適応策に関する国の動き、先行地域の動向と課題、適応策の基本的考え方、潜在的適応策と追加的適応策、適応策の選択肢の評価と順応型管理、気候変動適応の学習プログラム等について、基本的な話をしています。都道府県・政令市等での適応計画の検討が立ち上がりつつあるなか、適応策とは何か、どのように検討すべきか、という情報ニーズに応えるとともに、刹那的かつ容易な取組みだけに留まらない、戦略的な適応策の検討を少しでも後押しできればと考えています。
2.「気候変動の地元学」の開発
気候変動の地域への影響を実感することが、問題の自分事化を進め、気候変動への緩和行動(温室効果ガスの排出削減)、適応(高温化や豪雨への影響対応)への主体的行動を高めることを、飯田市や関東地域の住民アンケートにより確認しました。さらに、気候変動の地域への影響事例を調べ、それを共有し、行動を考えるという学習プログラム(「気候変動の地元学」と名付けました)を開発し、飯田市での試行と評価までを実施しました。この学習プログラムは、気候変動というグローバルな問題と地域住民の距離感を解消し、現在発生している問題への主体的取組を促します。これまでなかった適応行動に関する学習プログラムであるとともに、温暖化の原因認知と結びつくことで緩和行動の促進にも有効なプログラムといえます。また、住民が集めた地域への影響事例を科学的に精査し、将来影響の予測情報と重ねることで、ボトムアップによる住民主導の適応行動計画にもつなげることができるはずです。
3.地域適応ガイドライン作成とフォーラム運営
地方自治体における気候変動適応策の基本的考え方や検討方法をまとめた「地域適応ガイドライン」の改定を進め、適応策にもよい適応策と悪い適応策があり、その選択が必要であること、地域づくりにつながるような適応策実装の工夫が必要であること等を追記しました(2014年度末にVER3として、公開予定)。また、2011年から実施してきた「地域適応フォーラム」のシンポジウムや研修会での意見交換の結果をとりまとめ、適応策実装の論点を整理しました。適応策の検討を正当化する制度的根拠、検討のための情報や予算・人材に不足については、適応の国家計画が2015年夏に策定され、地域を支援する国の施策も実施されることで、解消されることと思います。しかし、将来の気候や影響の予測の結果の不確実性をどのように評価し、影響評価の優先順位をつけるか、長期的な影響に対する「順応型管理」をどのように具体化するか、行政分野間や行政と企業・市民の分担と連携をどのように進めるか、など、さらに具現化のためのトライアルとその成果の共有が期待されます。
4.地域研究機関における気候変動適応研究の調査
2014年は、全国各地の地域研究機関を訪問し、気候変動の影響や適応策に関する地域に密着した研究の状況と課題等を聞いて回りました。地域研究機関には、農業、林業、水産業、工業、衛生・環境等の分野のものがありますが、適応に関する研究を行っているところは、農業分野が多く、農業分野を中心に回ることにしました。北海道、山形、神奈川、富山、和歌山、岡山、高知、長崎、宮崎を調査し、地域や産物の特性に応じた研究が実施されているおり、気候変動の影響は地域によって異なり、地域課題に応える地域研究機関の役割が重要であることを再確認することができました。一方、研究予算や人員減少の傾向があるなかで、地域間の連携による効率的な研究の必要性もあり、それをコーディネイトする国の役割も重要です。適応研究についていえば、地域研究機関は現場ニーズに対応して研究テーマを設定するため、長期的な影響に備える研究が取り上げられないことも課題となります。山形県や宮崎県のように、気候変動への研究方針を作成し、その中で長期的な研究を位置付けていくことも必要だと思いました。また、和歌山県の養鶏研究所が取り組んでいるように、高温対策として開発した技術を活かして、地域農業のブランディングを図るというように、「地域づくり型適応策」のストーリーを描いた研究が望まれます。
5.持続可能な地域づくりの実践論の講義
最後に、法政大学社会学部で新たに担当した「環境政策論」と「環境自治体論」の講義のことを書きます。私の関心の中心は、適応策に限らず、緩和策や廃棄物政策も含めて、地域における環境政策の革新にあるのですが、それを整理し、講義で展開する機会となりました。地域事例の最新情報を集めるため、富山市のコンパクトシティの取組み、愛知県豊田市のスマートシティと合併後の山間部の政策、高知県梼原町における環境モデル都市としての取組とその地域経済効果 北九州市における環境再生のまちづくりの経緯、福岡県大木町における生ごみ循環を実現した社会技術、宮崎県綾町における照葉樹林のまちづくりのその後、等について、現地を訪問し、講義の素材を得ることができました。日本の地域の実態をみたとき、持続可能な地域づくりにおける主要課題は、人口減少時代における土地利用の再編、気候変動やエネルギー問題への貢献とそれを活かした地域づくり、気候変動や自然災害等のリスク問題への備え、地域資源を活かす地域産業の振興とコミュニティ経済の構築、地域住民の主体性と関係性の向上、そして地域行政による長期的戦略な取組みであると思います。そうした課題への解決のためには環境政策が常に進化していかなければならないことを、学べる講義を目指しました。
以上です。2014年も、多くの方に出会い、多くの方にお世話になり、そして教えられました。ありがとう、ございました。