醸楽庵だより

芭蕉の紀行文・俳句、その他文学、社会問題についての評論

醸楽庵だより  704号  日本ナショナリズムの歴史②  白井一道

2018-04-17 12:44:58 | 日記


 『日本なしょなリズムの歴史Ⅰ』を読む②  梅田正己著



句郎 梅田正己さんの著書『日本ナショナリズムの歴史Ⅰ』には、十世紀の国風文化については述べられていないけれども、日本における民族文化の誕生だと言えるように考えているんだ。
華女 仮名文字の発明は日本人の民族意識の誕生だと私も思うわ。
句郎 そうだよね。日本人が日本人になっていく。私は日本人だと言う気持ちが生まれて来る。これは素晴らしいことだと思うよね。
華女 普段使っている言葉を文字にする。私たちは日本人だという気持ちを互いに持つようになる。そういう仲間意識をもつことは大事な事よ。
句郎 日本という言葉がうまれたのは八世紀ぐらいの事らしいが、十世紀ぐらいになって初めて私は日本人だと気持ちが生まれて来たんだと思う。
華女 仮名文字の誕生は同時に日本人という民族意識の誕生だったのね。
句郎 この時に生まれた民族主義はナショナリズムというものとは、少し違うようなんだ。
華女 梅田さんがおっしゃっているナショナリズムというものとは、違っているということなのね。
句郎 そうなんだ。十八世紀に生まれた本居宣長の国学研究が日本ナショナリズムの源流ではないかと主張している。
華女 本居宣長が日本ナショナリズムの始まりだというのは、定説ではないということなの。
句郎 そのようだ。今までの定説では、江戸末期、黒船の来航という事件から始まる尊王攘夷運動が日本ナショナリズムの始まりだと言うのが定説のようだ。
華女 今でも覚えているわ。高校一年の古典の授業が本居宣長の『玉勝間』だったわ。何が書いてあったのか全然覚えていないけど、チンプンカンプンだったことだけ記憶にあるわ。
句郎 本居宣長は万葉仮名を読み解き、『古事記伝』四十四巻の注釈書を完成させた。
華女 日本最古の歴史書『古事記』は太安万侶が著したのよね。中学の頃、教わったわ。
句郎 八世紀中ごろのことだったから、まだ仮名文字がなかった。太安万侶は万葉仮名を用いて天孫降臨の来歴を書いた。それが『古事記』だった。考えてみると太安万侶に民族意識の萌芽があるということなのかもしれないな。
華女 日本民族の歴史を書こうとしたことは、民族意識の表れだと思うわ。
句郎 『古事記』以外の日本の歴史書はすべて漢文で書かれている。更に奈良時代から江戸時代に至るまで公の文章はすべて漢文で書かれていた。だから漢文の読み書きができないものは公の仕事に就くことができなかったようだ。
華女 今の英語のような存在が漢文だったのね。
句郎 梅田正己さんは本居宣長の『古事記伝』の本質は『直毘霊(なおびのみたま)』にあると述べている。
華女 『直毘霊(なおびのみたま)』とは、何なの。
句郎 『古事記・直毘霊(なおびのみたま)』で本居宣長が述べていることは、天皇は神だということを歴史的に来歴を記し、説明している。
華女 天皇陛下は神様なのね。だから戦後天皇の「人間宣言」があったのね。

醸楽庵だより  703号  「日本ナショナリズムの歴史」を読む  白井一道  

2018-04-17 12:28:12 | 日記


  『日本ナショナリズムの歴史Ⅰ』を読む


句郎 梅田正己著『日本ナショナリズムの歴史Ⅰ』を読んだ。副題に「神国思想」の展開と明治維新とある。
華女 「神国思想」とは、何なの。
句郎 日本は「神の国」だという考えだと言っている。
華女 そう言えば何年前だったかしら。「日本は神の国だ」と述べ、顰蹙をかった首相がいたわね。誰だったかしら。
句郎 二〇〇〇年五月十五日、神道政治連盟国会議員懇談会において森喜朗内閣総理大臣(当時)が挨拶の中で述べた。「日本の国は、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知して戴く、そのために我々、神政連関係議員は頑張って来た」。
華女 「神の国」とは、天皇を中心にまとまっている国ということなのかしら。
句郎 神である天皇が臣民としての日本人を支配する国が戦前の日本国だった。
華女 森元首相は戦前の日本国にしたいと主張していたということなのね。
句郎 そうなのかもしれない。戦前の日本国民は天皇の臣民として絶対服従することが義務付けられていたからね。為政者たる森喜朗氏たちにとっては具合がいいからな。
華女 「神国思想」とナショナリズムとは関係があるのかしら。ナショナリズムとは民族主義ということでいいのよね。
句郎 日本語で意味する民族主義と英語のナショナリズムが意味する内容が同じ所と違っているところがあるようだ。ナショナリズムという言葉が意味する内容が大きいようなんだ。だから、ナショナリズムと梅田さんは言っているんじゃないかと考えているんだ。
華女 ナショナリズムとは、どのような考えを言っているのかしら。
句郎 日本の歴史を考えてみると文明の誕生地中国黄河中流域に成立した漢帝国への朝貢を通して国家を形成してきたという歴史があるでしょ。
華女 漢字文化圏が東アジアにできたということ。
句郎 そうなんだ。東アジア地域、日本、朝鮮、満州、モンゴル、チベット、ベトナムは中国の文化、律令や、仏教、儒教、漢字を受け入れ、国家形成したきた経過があるんだ。
華女 遣唐使の派遣ということは、中国の文化を輸入していたということなのね。
句郎 八世紀、中国の唐王朝文化を受け入れ、律令国家体制を整えたと言えるように思うんだ。
華女 残念ながらまだ日本独自の文化は誕生していないのね。
句郎 十世紀になると漢字から日本独自の文字、仮の文字、仮名文字を発明する。この仮名文字が国風文化を創造するんだ。それが『源氏物語』に代表されると言っていいんじゃないのかなと思う。
華女 その国風文化が日本独自の民族文化ということなのよね。
句郎 世界に誇る日本民族文化としての『源氏物語』だよね。初めてといってもいい日本独自の民族文化は女性によって築かれた。輝かしい民族文化を築いたのは男ではなく女性だった。
華女 女性は一貫して文化の担い手だったのかもしれないわ。そうじゃないの。    (続く)