7月20日に、生活保護世帯の自立支援プログラムについて、北海道釧路市に伺い、市役所、地域のNPO法人、北海道教育大学の研究者、自立支援プログラムを策定した元ケースワーカーの方とお会いし、その取り組みについて現地視察してきました。
市役所と地元NPO、大学、地域の社会福祉施設との共同で、半労・半福祉で、雇用の多様性、人間の尊厳を取り戻す取り組みについて釧路市は人口19万で、北海道の南東部の漁業の街です。遠洋漁業が盛んで、景気の良い時には、船員さんが大金をもって飲み屋街を回ることもあり、非常に潤った街でした。そのため、街の至る所にデパートが林立しました。しかし、現在は、街の中心部のデパートが軒並み閉店し、大通り沿いだけでも、大規模な空きビルがずいぶんあり、当時の面影があります。
釧路市は生活保護を受けている世帯が、北海道でも非常に多く、保護率は53.8‰(パーミル:1000人に53人)で、北九州市の保護率18‰(平成21年度)と比べると倍以上という数字です。釧路市の生活保護の特徴は、高い離婚率を背景に、母子世帯が多く、働ける世帯(稼働年齢層)が17%を超えています。ですから、働ける方の就労指導と自立支援が行政の課題になっていました。しかしながら、釧路市の有効求人倍率は0.32~0.39(一人に対する求人が0.32件)と非常に厳しく、ケースワーカーが「ハローワークで仕事を探して、働いてください」と言っても、殆ど仕事に就くのは難しい現状があります。一般の労働者で仕事がない状況の中で、保護を受けている方が、仕事を手にし、自立していくのは現実問題として困難でした。
生活保護では、一般就労し、生活保護費以上の収入を安定的に得た段階で、保護を廃止し、自立することを行政の就労指導では目標とされています。しかし、仮に働けたとしても、ただでさえ少ない求人の4割が非常勤のパートという状況では、生活保護からの就労自立さえ難しく、ケースワーカーにとっても、就労指導は苦痛で、保護課の職員も仕事に誇りを持てずにいたそうです。また、働く意欲もあるのに、働けないということは、保護世帯にとっても、またその子どもにとっても自尊心を大きく傷つけられ、引きこもりなるケースもありました。8年ほど前に数人のケースワーカーが立ち上がり、貧困の連鎖を断ち切り、職員の誇りと、保護受給者の自尊心の回復を目指し、実態に合った自立支援の検討が始まりました。大学教授やNPO法人などと勉強会を立ち上げた当初は、役所の姿勢にクレームが付いたそうですが、粘り強く議論を重ね、これまでの自立か、保護かという2極の考えから、保護を受けながら、仕事をする、またはボランティア活動をするという、半労・半福祉を幅広く認めていきました。無償のボランティアであっても、働く一つの形態という考えにたち、自立への過程という考えで市当局や議会を説得したそうです。ボランティアの受け皿として、社会福祉施設や作業所などと連携し、NPO法人主催の無料塾の指導員や、清掃、農作業など、無理強いではなく、あくまで本人の意欲に基づいて、多様な就労を行政と地域が作ってきました。市の取り組みは、本人の意思を尊重し、人間の尊厳の回復に主眼をおいた点が特徴です。