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昨日本ブログでご紹介した第12回STI政策シンポジウムの主テーマ「大学の研究力」についてですが、ここでいう「研究力」とは、画期的な成果を挙げて世界中の研究者から注目されるような研究成果を生み出す力のことです。研究力を定量的に測定する指標として「Top10%補正論文数」があります。研究者は研究成果を論文にして自分が参加している学会の学会誌に投稿します。その論文が査読を経て学会誌に掲載されたあと、その内容が画期的であれば、その論文を読んだ他の研究者から大いに注目されます。どれだけ注目されたかは、他の研究者がその論文の記述を自分の論文に引用した件数で把握できるとされています。これを論文の「被引用件数」(サイテーション・インデックス)といいます。被引用件数が多ければ多いほど、その論文は価値が高く論文の研究者は優れた研究者と評価されます。実際に自然科学系のノーベル賞受賞候補者を選定する評価基準の一つに被引用件数はされています。Top10論文とは、科学の各分野における論文の被引用数が世界中で上位10%に入る論文のことです。このような論文はかなりの確度で将来のノーベル賞候補になりえます。ただし科学の分野ごとに平均被引用数が異なるため、その違いを標準化するためにTop10論文の数を抽出した後に、実数で論文数の1/10となるように補正を加えます。これで分野間の違いがならされるとされます。この数字が「Top10補正論文数」です。文部科学省の科学技術・学術政策研究所が毎年この数字をカウントして『科学技術指標』という統計として公表しています。昨年の8月9日に最新の『科学技術指標2024』が発表されました。この中で日本の「Top10%補正論文数」の国際順位が劇的に落ちていることが分かり、科学界のみならず各方面にショックをもたらしました。上のグラフをご覧ください(注)。20数年前の2000年-2002年に日本のTop10%補正論文数は、米英独に次いで世界第4位でした。米国の数字のダントツさが思い切り目を惹きますが、日本も世界に伍して将来のノーベル賞級の研究を数多く行われて成果を挙げていたことが分かります。ところが最新の2020年-2022年の数字(右端のグラフです)を見ると、日本の順位は13位に転落しているばかりでなく、中国、韓国にも抜かれています(中国のダントツさが20年前の米国を凌駕しているのでびっくりです)。それどころか20年前には上位25位ランキングにも入っていなかった中東のイランにまで抜かれてしまっています。国内各方面にショックをもたらした事情が良く理解できると思います。この四半世紀の間に日本の研究力は劇的に低下しているということです。これが今回の第12回STIシンポジウムで大学の研究力をテーマに取り上げた理由です。どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。これは真剣に考える必要があります。
(注 資料出所)https://www.nistep.go.jp/sti_indicator/2024/RM341_42.html