アピチャート氏。名字はアビロット。年齢は31才である。
彼の父は軍人であり、ラオスとの戦役で戦死。母は元米軍のキャンプに勤める役人である。彼の妻は「ミャーシオ」といい29才である。生まれはシーサケット県。若いころウドムタニの美容院で働いていてアピチャート氏と知り合ったそうである。
アピチャート氏には2児の子どもがいて、上が4歳、下が1才である。奥さんは夫にあれこれ指示をするようなタイプでもなく、夫の帰宅が遅ければ2児を寝かしつけ、夫の帰りを待つ、といった物静かで控えめである。私のような見ず知らずの日本人が来ても食事の用意をしてくれたり、帰る際には、私や家内や子どもにもお土産を用意してくれる気の配れる奥さんであった。一家は以前はアピチャート氏の母親と同居していたが、学校がこちらになりより近いところで借家を月50バーツで借りて一家だけで住んでいる。
私のフィールドワークは続く、「アピチャート先生、今、学校で一番欲しいものは何ですか?」と聞いてみると、すかさず「今一番欲しいのは子どもへの教授法を書いた本が欲しい。」さすがである。彼は、最近、バンコクのシーナカリンに研修に出たほどの教育熱心な教師である。子ども達がどうしたら興味を持って学習してくれるのか今悩んでいる。特に算数の指導書がほしい。日本の学校では子どもが興味を持つためにどのような教え方をしているのか?」と彼は熱っぽくどんどんと聞いて来る。まあ、酒宴の席ではあるが。私はその手のことは全くと言っていいほど分からない。申し訳ない。何とかこの熱心な質問に機会があれば少しでも答えられたらとたじたじとしながら思った。
この辺り(地方)の小学校の教師の初任給はいくらなんだろう?彼によれば
短大卒で1950バーツ、大卒で2385バーツ、大学院卒で3225バーツだそうである。今年(1982)の一月からは月給が20%アップするそうであるが、首都圏の教師にとっては随分安月給だそうだ。ここではないが何らかでアルバイトをする教師も多いいと言う。特に夜間の学校であるが。アピチャート氏も時間とチャンスがあれば是非やってみたいと本心をのぞかせた。
夜間学校とは、成人用の学校で夕方5時から夜8時までやっている就学用の学校とのこと。