しばらく続いたタイ語の響きもバンコク空港に入り、大阪空港に着くころにはすっかり剥がれてしまった。タイ語をしゃべる群衆がいなくなった精もあるが気分はもうすっかり日本の社会へ適応することを余儀なくされていた。あれほどフレーズとして耳に残ったタイ語が見事耳元から消え去るのである。
タイ行の魅了の一つはタイ語が聴かれることだ。特にバンコク空港での「プードイサン・プルーサープ!」(お知らせいたします)に始まる館内放送は旅人の疲れをすっかり癒してくれるとともに魔物の入り口に立ったような柔らかさを感じさせる。
ワンボックスカーのちょっと性能のいいステレオから流れるFMのゆるやかなかすれたようなネコナデ声の女性のトークも心を魅了する以上のものを感じる。
今回の思索行にて、その場所やその地方で残っているタイ語も例年と同様貴重な財産となった。また、今年初めてタイバージョンのCDが空港で売られているのを発見し即購入した。バンコクのソラー・ハウス社制作のパチャリダという女性歌手のアルバムである。そのタイ歌をずっと聴いているがやや温めのお湯に浸かっているようでここちよい。
1.「ロットファイ」ロット=車、ファイ=火=汽車
ファランポン駅にてバンコク発6時15分に乗り、ノンカイへ16時50分に到着する急行33号のトワ(切符)を235バーツで購入。
〇ノンカイへの12時間にも及ぶ汽車の旅においては職業や生活に関するタイ語、例えば「トンテェ・ムアライ・タムガーン・ユー」(いつから働いてるの)とか「タムガン・ボリサット・ティナイ」(どこの会社で働いてる?)といった類の会話が耳に残っている。
ー車内売り子たちー
会社はパヌー・ドワン会社。100バーツ売れば10バーツ儲かるというシステム。だいたい1日の儲けは200バーツくらいとのこと。Aさん(男性)の場合、「アユタヤに家がある。この仕事を12年間している。夕べは7時ノンカイ発夜行列車でバンコクに来てそのまま今度はノンカイへ、そしてまたバンコクへフル回転して働いてるんだ。でも明日は1日休暇がもらえるんだ。バンコクの社宅でゆっくり休むよ。家族にはなかなか会えない。この仕事は重たい籠を片手につるすので腕がだるくて痛いんだ。」