寺島実郎氏 http://www.nissoken.jp/hatugen/kiji20110501.html
東日本大震災の衝撃を受け止めて
―近代主義者の覚悟
岩波書店「世界」2011年5月号 脳力のレッスン109 緊急編
気になることがある。関東大震災からわずか一四年後の一九三七年盧溝橋で日中両軍が衝突、日中戦争が始まり、四一年の真珠湾攻撃へつながる。関東大震災前年の一九二二年にはワシントン海軍軍縮条約が結ばれ、「国際協調」と「大正デモクラシー」と言われた時代が存在した。それが軍靴の音に押し潰されていく転機となったのが大震災だったといえる。
無力感と不安の中で醸成されるのは力への誘惑である。頼りなく迷走する状況への苛立ちの中で、束ねる力、統合力を求める心理が高まる。今日軍部の台頭を懸念する必要はなかろうが、即時的同一化というやつで、「がんばろうニッポン」的なキャンペーンの繰り返しと「この際、救国大連立政権で」などという動きに救いを求めているうちに、思いもかけぬ方向に向かう可能性があることを肝に銘じなければならない。ファシズムは不安を土壌に登場するのである。