鳥インフルエンザH7N9の変異が、ヒトに類似したフェレットで飛沫感染・空気感染を起こし得る状況になり、さらにタミフル耐性まで・・という報告が大いに世間をにぎわせています。Fluwikiはじめ、このニュース一色の様相。
- 鳥インフルエンザH7N9は2013年の初報告依頼、大きな変化はなく推移してきた。しかしながら、昨年からの第五波では感染者が激増、同シーズンだけで700例と、当初以来のトータル1600例の半数を占めている。このH7N9はすでに、米CDCの「次のパンデミックを起こす候補」のトップのポジションにいる。WHOのパンデミックワクチン候補にも。
- 今回の河岡氏らの報告@Cell Host&Microbe。フェレットを使った実験で、実験的感染させた個体と、物理的に直接接触できないようにした個体の両者が死亡するという結果になり、空気感染の可能性が示唆された。これは公衆衛生にとって悪いニュースだと河岡氏談。変異する前の、まだ病原性の低かった時期のH7N9でも空気感染しうるエビデンスは得られていたが、このときは効率的な感染ではなかった。(管理人注:2つの別々のケージに入れたフェレットを、同じ部屋内に置いておいたら、片方から別の方にH7N9が感染した、うつったという報告、当時はこれはこれで結構な反響があった)
- 遺伝子交雑で、タミフル耐性の有る無し以外はまったく同じウイルスをつくり、ヒト呼吸器細胞での増殖を比較した。3種類のウイルスは効率よく増殖したが、耐性ウイルスはそうならなかった。続いてマウス、フェレット、マカク猿で実験、各ウイルスとも感染を起こしたが、程度はまちまち。
- また、感染させたフェレットと、未感染健常フェレットを、直接接触しないように障壁で隔てたセッティングでは、異なるウイルス3種に感染させたフェレットそれぞれが、空間を同じくした(けれど直接接触はしない)フェレットにうつした。耐性未獲得ウイルスに感染させたフェレットは死亡し、また、感染フェレットの飛沫をかぶった健常フェレットも死亡した。(すなわち、飛沫で感染し死に至ることがわかった)。
ここから、さらなる変異が起こらずとも、現状のままでも、H7N9はパンデミックの潜在的脅威があると河岡氏談。 - 以前のH5N1はパンデミック起こすにはあと数か所の遺伝子変異が要る状況であったのに対しH7N9ではそでに現状で可能性があるので、H7N9の方が(H5N1よりも)パンデミックへの脅威度が高いと結論づけ。
- 耐性について解明するには、遺伝子操作をともなうgain-of-function実験(機能獲得実験)で実際に遺伝子操作を加えたものを作成することがのぞまれるが、テロリストに悪用される恐れ等の理由で一時差し止めになったまま何年も経過している。ホワイトハウスのScience and Technology policy部門は連邦政府に対してガイダンスをおこない、HHSはそれにもとづき見直し作業終盤にあり、完了後にNIHは差し止め解除に動くだろうと。(つまり、ようやくの解禁間近?)
- H7N9は世界にとって時限爆弾になっている。しかし、その対処のための準備はできていない。最低限必要な物資やサービスのサプライチェーンはできておらず、もしも次のパンデミックが1918年のスペインインフルエンザ並みになればレスピレーターのような装備や医薬品が絶望的に不足することになろうと警告。
H7N9感染者の異様な増加は、たしかに感染症・公衆衛生界隈を大いに心配させてきたところではありますが、それが本当に懸念しなければならないことが証明されてしまった(これ以上の遺伝子変化がおこらなくても現状のままでパンデミック脅威になることが分かった)ことになります。いよいよ本当に「号砲が鳴った」ともいえるわけで、今シーズンのH7N9の動き、これまで以上にピリピリしてみてゆくことになります。例年、H7N9感染者は中国の春節前から増加しピークに向かってゆく傾向がありますが(それ自体は春節大移動や鶏消費増など見ればわかりやすい話ではありますが)、来年の春節は2月16日、バレンタインデーが吹っ飛ぶかもしれません(笑)