競輪選手

ロード練習の途中でパンク等のトラブルに見舞われた日の朝、自宅前で出発時のブログアップしている最中に声をかけられた。
『競輪選手かい？』
70歳前後の女性だった。しかし、いつもの“自転車選手＝競輪選手”と勘違いしている人々とは少し様子が違っていた。
立ち止まると彼女は弟さんの話をしはじめた。
競輪選手だった弟さんは交通事故のため既に他界しているが、脚がとても太くて速かったこと。
同居していて競輪でよく稼いできたこと。
そして・・・
『姉ちゃん！こんど稼いだらなぁ、クルマ買うからなぁ、そしたら姉ちゃんも乗したるわな！』
程なくして弟さんの買ってきたスポーツカー、お姉さんは1度だけ乗せてもらったそうです。
そう、彼の事故死は引退後でも現役中の練習中の交通事故でもない・・・賞金で買ってきて、一度だけお姉さんを乗せてドライブしたスポーツカーだったのです。
『買うてきて1週間だったなぁ、ようスピードが出るクルマだったさかいになぁ・・・』
そして僕に向かって、
『兄ちゃんなぁ、いい趣味やからなぁ、楽しゅうやりぃよ！』
彼女はほぼ一方的に喋ったかと思うとゆっくり歩きだした。
『漫才見に行なアカンさかいな、今日は電車で漫才見にいくねん』
そう行って体は駅に向かいながら手だけ振っていく彼女は、弟さんとは似ても似つかない細い体の僕を、若い頃の弟さんの姿に一瞬でも重ねたのだろうか。

ちなみに同日、パンクから立ち直れないままにJR宇治駅前を超スローペースで進む僕は、酔っ払いに、
『おぅ、競輪選手か！格好いいなあ』
って叫ばれた。
でもなんか・・・『どうも』って軽く頭を下げて通過してしまったいつも以上に意味不明なtakだった。

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