これはもう何年も前に作った飾り用のクッションで、ほとんどアウトラインステッチだけの簡単な刺繍なのですが、ある思い出に満ちたものなのです。
高校時代の友人が私の家に遊びに来たとき、これを見てとても気に入り、ぜひ作りたいから型紙と刺繍の下絵がほしいと言ったので、本をコピーして後日送りました。彼女は言葉どおり、一番上の息子さんのためにネコをすぐに仕上げ、「１つできたわよ。息子が３人いるから、あと２つ作らなくちゃ」と張り切っていました。その後彼女が実際に仕上げたかどうか聞いていませんが、子供のために３つも作ろうだなんて、なんて子供思いの素敵なママなんだろうと、私はひたすら感心していたものです。
それから何年かが経ち...彼女は深刻な病に侵され、壮絶な闘病生活が始まりました。現在がんで闘病している私でさえ、当時の彼女の闘病を思い起こすとその苦しみは想像を絶するほど......でも、そんな日々でも、彼女は決して希望と明るさを失いませんでした。
その彼女が、いつもの明るさを失うことなく淡々と、でも、覚悟を決めて言った言葉が、今でも私の脳裏に焼きついて離れません。「子供たちはこれから成長できるから、私がいなくても大丈夫だと思うの...。ただ、先立つ不幸を親に味わわせることになるのが、すごく哀しい...」と。
その数ヵ月後、彼女は静かに、でも潔く命を全うしました。
このクッションを見る度に、彼女の顔と言葉が甦るのです...。
