





大崎上島は安芸の国、その向こうにある大三島は伊予の国ぢゃ。
芸予諸島は魚もよう取れる。水運の要諦でもあるな。
大崎上島の木江と大三島の宗方の間にある小さな島の名前は福島と呼ぶのじゃが、この島が上島の物じゃあ、いやいや大三島のものじゃあ、といろいろいさかいが絶えんかった。
そこで、オロチの神様は、
「一つ、お互いの島から思い思いの強よかろうと思うもので作った綱を福島に渡して、両方からえいや~、と引っ張って切れたものが負け、といたすがよかろう」
とお告げされた。
そこで、大崎上島の衆は鉄の鎖を、大三島の衆はかづらの縄を福島にかけて、せ~の、と綱引きをした。
うんうんと、いくらか時間がたったときに、大崎衆の鎖が切れて、その勢いで、福島が大三島側にとっぷりと動いたというではないか。
こうして、福島は伊予の国のものになったんじゃ。
(大崎上島町 木江ふれあい郷土資料館の館長さんに聞いた話を基にしています)
むか~しむかしの話じゃ。
大崎上島の西の端、大串という村にじいさまとばあさまが住んでおった。
その家にはかぐや姫もかくやという、えらい美人の娘さんがおらした。
村だけでなく、島中の若い男衆はこの娘さんに言い寄っておったが、身が硬いというかなんというか、娘さんはどの男にもなびくことはなかったんじゃ。
そんな騒ぎを耳にしたのが、島一の高さの山に住むオロチの神様じゃった。
「それほどの美しい娘なれば、一度会いに行かねばなるまい」
と、身を美男子の姿にかえて、娘に会いに行ったそうな。
娘は、見たこともない美男子に一目ぼれしてしもてな。
毎晩毎晩その方の現れるのを待ち焦がれ、夜な夜な楽しい日々を過ごしていたとな。
ある晩、夜中になって娘さんの部屋から話し声がするのを不審に思ったじいさまが、娘の部屋を覗いてみたところ、えらい美男子と娘が楽しそうに話をしとるではないか。
「娘に男がついたとは、これはわしも一安心ぢゃな」
と思ったのだが、姿見鏡に映っておったのは、娘と大蛇であった。
じいさまはびっくりこいて
「ぬしは、なにさまじゃ!」
と叫んでしもた。
神様は大蛇に姿を戻して娘をさらって山に戻っていった。
翌日、村の若い衆が娘のさらわれた先を探すのだが、そこには、大蛇が木々をなぎ倒したあとが、山の上まで続いておった。
さて、その大蛇の通った跡を「恋地」と呼ぶようになったのはだいぶ後の事じゃと聞いておる。
大崎上島の県道65号線に「恋地」という名のトンネルがあります。
そこには、こんな切ない話が伝わっているのです。
(大崎上島町 木江ふれあい郷土資料館の館長さんに聞いた話を基にしています)
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