Truth Diary

アルコーブと、赤とんぼ

 今度も寂しい話で申し訳ないが、今月初めに会社の先輩でもあり、その後もなにかと交流があった画家がお亡くなりになった。年下の私が言うのもはばかれるが、組織の中にあって、へつらいや、出世などに目もくれず、しかし、自分の与えられた仕事は、どんな小さな仕事でも、決して手を抜かずに誠実に黙々とこなしていた。生涯少年のような無垢の心を持ち続けた人だった。また、おしゃれでダンディーで、絵の製作に打ち込み、日本酒と歌をこよなく愛した理想の人だった。

 先輩は、岩手県大槌町のご出身で、会社勤めをしながら、20代後半に絵のグループを結成、創作活動を続けられた。その会の名称が、「アルコーブ」である。命名の由来についてお聞きしたら、洋式建築の用語で(語源はアラビア語)部屋の壁の一部を凹ませて、家具などを収納するスペースのことを言うのだそうだ。

 先輩は、「要するに、あっても無くても、かまわない遊びの部分のこと、自分たちの活動みたいなもんだ」と笑っていた。そして、言葉を継ぎ、にんまりとして「アルコールに似ているだろう」と。

 先輩は大のつく日本酒好きで、朗らかで、いいお酒の飲み方をされた。少し酔いがまわると箸を持って、タクトのように振りながら、「♪  夕焼け小焼けの赤とんぼ・・・・」と少年のような邪気のない紅潮した頬で、藤原義江ばりの、ダイナミックな歌声を響かせ、辺り一同で大合唱になるのが常だった。

 5、60代の大人が大真面目に童謡を精一杯心を込めて歌う、そこに、先輩の生き方そのものを感じて、感動したことを今も鮮やかに思い出す。

 私の知る限りでは、日本画、それも風景中心の抽象画だったが、(後年は旭ヶ丘の青年文化センターで裸婦のデッサンなども教えていたが)自分の作品をけっして絵とは言わなかった。いつでも謙遜して「図画っこです」と言っていた。そして、絵画に無知な周りから、似顔絵を頼まれると本来は描くことなどしない、具象画もいやな顔を見せずに描いてくださった、実におおらかな人だった。

 俗人の煩悩などのカケラも無く、ただ自分があるがままに、好きなこと一筋で生涯をとおし、絵画製作とお酒と、家族をこよなく愛した先輩は、芸術家らしい、惚れぼれとする普段着での笑顔, の遺影と共に黄泉の世界に旅立たれ、天空の花園で、思い切り絵筆をふるい、そして豪快に飲み、楽しく歌っていることだろう。アルコーブのようにひっそりと目立たずに、しっかりと自分の居場所をわきまえる、そんなすばらしく、私如きには真似のできない人生をおくった先輩だった。

 画家の名前は、金沢 光策氏、彼の作品が展示されている美術館がある

 支倉・蔵の美術館   宮城県川崎町支倉堀の内89

 開館時間 土曜、日曜の午前11時30分から午後4時

 連絡は松宮さんまで 電話090-1932-9280

 

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