いくら消費するか(貯蓄するか)は個人の判断である。主観が決める。これは争いがない。では利子が上がれば、今保有している現金を消費するのではなく、貯蓄して(増えてから)将来消費しようとするのだろうか?この問いに答えたのが「第9章消費性向(2)―主観的要因」である。
利子率の上昇は貯蓄を減少させる
古典派・現代正統派は、人が消費するか貯蓄するかを決めるのは利子率だ、と考える。利子率の上昇は貯蓄を増やし、投資を減らす。利子率の下降は逆の効果をもつ。だから利子率が資金の需給を調整すると考える。しかしケインズは「利子率の上昇は貯蓄を減少させる」という。
消費性向の二番目の要因:主観的要因である。ケインズは、消費性向の主観的要因は長期にわたり緩慢にしか変化しない。とみなしている。所得のうち消費に回る割合は安定しているのだから、消費総額は所得(賃金)総額の関数だ、ということである。関数である、というのは単純には比例しないからだ。所得が増えるほど消費に回す割合は減る。「我が家もやっと貯金ができるようになった」というわけだ。
ここで、利子率と貯蓄(所得―消費)について重要な指摘があるが、詳しくは次章以下で述べられる。ここでは次の文章を引用しておく。
総貯蓄は総投資に支配される。利子率の上昇は(投資の需要表がそのぶん変化することによって相殺されないかぎり)投資を減少させる。よって、利子率の上昇は貯蓄が投資と同額減少する水準まで所得を引き下げることになる。所得は投資よりも絶対額ではいっそう減少するから、利子率が上昇するときにはたしかに消費率は減少するであろう。しかしだからといって、貯蓄のための余地がそれだけ拡大するということにはならない。むしろ反対に、貯蓄と支出はともに減少するのである。
当時は(今も?)利子率は資金の需給バランスで決まると考えられていたので利子率が上がれば貯蓄は増えるという理屈になる。しかし一般理論では貯蓄と支出(=所得も)はともに減少すると言っている。ここまでの議論ではなぜ貯蓄と支出が減少するのかは、それこそ「貯蓄=投資という悪魔の方程式」である。利子率の上昇は投資を減少させ、古典派の言うように何ほどかは消費も減少させるかもしれない。その結果、有効需要は減少し、所得も当然減少する。需要=所得なのだから。詳しくは第13章利子率の一般理論を待つ必要がある。
何にせよ、社会的背景で消費性向はずいぶん違うが、それぞれの条件下で消費性向はあまり変化しないし、個人に消費性向を上げさせる手段は存在しない。仮にあったとしても、勤倹貯蓄の美徳を忘れろ、というわけにもいくまい。
次章が第三篇中最も重要な「限界消費性向と乗数」である。