使用費用についての精緻な検討は既に済ましたのでそちらを参照いただきたい。
26:第6章付論 使用費用の厳密な考察 結局、使用費用は確定せずXはXのままである
使用費用は使用された費用ではない
この付論冒頭でケインズは以下のように述べている。
「企業者の使用費用は、定義により、A1+(G′―B′)―Gに等しい。ただし、A1はその企業者の他の企業者からの購入領、Gは期末において彼の資本装備がもつ現実の価値、G′は装備を使用せず、装備の維持・改善のためにB′という最適額の支出があったとしたならば、彼の資本装備が期末において有するはずの価値である。」
ここでケインズは使用費用に
- 価値のうち前期から引き継いだ装備が(なんらかの意味で)寄与した部分
- G′は装備を使用せず、装備の維持・改善のためにB′という最適額の支出があったとしたならば、彼の資本装備が期末において有するはずの価値である。
と二つの意味を持たせている。1.が資本装備からの移転分であることは自明だ。これは基本的には期首資本装備価値を減価させる。資本装備が何の価値を産まなくなった時にその資本装備の価値がゼロになるとすれば年々の減価額を計算することも可能である。すなわち減価償却の概念である。2.は装備の維持改善を通して資本装備額を増加させる。ケインズは「装備の維持・改善のためにB′という最適額の支出」と言っているのでわかりにくいが当然新規の設備投資も含まれる。ところがどの程度の支出を行うのかは企業者の決意に基づいており、決意は期待によって形成される。
以前に筆者は使用費用を次のように定義した。
使用費用=資本装備の増減価額+投資額
投資額は企業者の期待に基づく決意に依存しており確定しない。
使用費用は事後的に確定する額ではなく期待に基づく額なのだ。そういうことである。では期待はどのように形成されどのような制約を受けるのか。これが次の次の第4編で検討される。その前に「貯蓄と投資の意味」と消費性向が検討される。
次章冒頭に次の記述があって上記解釈が間違っていなかったことが分かる。
「使用費用をどれくらいにするかは、装備をどのように用いれば耐用期間全体にわたる収穫を最大化することができるかについての企業者の見解によって決まる」