よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

62:第19章:伸縮的“賃金”政策か、伸縮的“貨幣”政策か

2021年02月13日 | 一般理論を読む
「固定費の変動費化論」「労働市場規制緩和論」の迷妄

 ここからケインズは伸縮的賃金政策と伸縮的貨幣政策について論じていく。
いわゆる「所得政策」「逆所得政策」を考える上でも必須だ。

 長引く停滞やデフレが賃金の下方硬直性のためであるとされて「固定費の変動費化論」「労働市場規制緩和論」が主張されてきた。いわゆるサプライサイダーの経済学であり現在正統派理論である。
 
 現実に非正規労働者の増大で賃金水準が大幅に下がった現在もデフレ脱却の気配は一向ない。そうすると今度は「働かないオジサン」が諸悪の根源のように言われる。私は「働けない若者」は見たことがあるが「働かないオジサン」は見たことがないのだが。

古典派理論の想定する経済体系の自己調整的性格は貨幣賃金の伸縮性の仮定に基礎づけられるのが通例で、硬直性がある場合には決まったようにこの硬直性に不調整の責めが負わされてきたからである。

 しかしこの種の議論には次のような問題があるケインズはと言う。

 以下、筆者なりにケインズの論述をまとめてみた。

  • そもそも強権的な社会主義社会でもなければ賃金の一律引き下げは不可能。例えできたとしても破壊的で悲惨な闘争を生む。それに比べて貨幣量を変化させるには、公開市場操作等その手段が存在する。あえて伸縮的賃金政策を選ぶものは「ただ愚か者だけである」。
  • 貨幣賃金の非伸縮性は、名目所得が保証されている社会集団と賃労働者との間の社会的正義と社会的便宜を確保する。あえて伸縮的賃金政策を選ぶものは「公正感覚を欠く人だけである」。名目所得が保証されている社会集団とは、月給制の集団、ホワイトカラーや官吏である。(筆者注:金利生活者とピグー教授の俸給生活者)
  • 賃金単位で測った貨幣量を賃金単位を減少させることで増やそうとすれば、債務負担を比例的に増大させる。(*産出物の期待売上収入は賃金総額の関数だから、このような政策はデフレを招き債務負担を増大させる。ケインズは指摘していないが、債務負担増大に「逆比例して」債権者の利得は増大する。)伸縮的賃金政策を選ぶものは「世知に疎い人だけである」。
  • 利子率を賃金水準の切り下げによって低下させようとすると、資本の限界効率に二重の重しがかかり投資を遅らせ景気回復を遅らせる。(*賃金低下⇒失業の増大⇒需要の陰り という回路の一方利子率の低下は相当のタイムラグないし下限があるため相対的高金利となり、需要の不安と金利高という二重の重し となる)

 最後に含みを持たせた論述がある。

固定的賃金政策の下では、物価の安定は短期的には雇用変動を回避させる。これに対し長期的には、技術・装備の進歩とともに物価は緩やかに下落するのにまかせるが賃金は安定的に保つ政策と、賃金はゆっくり上昇させて物価を安定に保つ政策とのあいだで、なお選択の余地がある。原則として、私は後者の選択肢のほうを選ぶ。なぜなら、将来賃金が下落するという期待がある場合より、将来賃金が上昇するという期待がある場合のほうが、現実の雇用水準を完全雇用の範囲内に維持するのがいっそう容易だという事実があるからであり、そしてまた、債務の負担を少しずつ減少させること、衰退産業から発展産業への〔労働の〕調整を大いに容易ならしめること、そして貨幣賃金がそこそこ上昇することで士気が高まりやすいこと、これらのもつ社会的便益のためである。といってもここには原理上の問題は何も含まれていない。それぞれの側に立って議論を詳細に展開す〔ることは可能だが、そうしようとす〕れば、目下の目的としている範囲を超え出ることになろう。

 ここには原理上の問題は何も含まれていない、つまり理論的にはどっちでもいいのだが、ここでの賃金と物価の関係については、第20章、第21章で詳述される。

 

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