50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

【閑話】親父の口癖その1

2015-01-16 20:54:58 | 小説
小説「鉤」は大円団を迎えるところではありますがここで一服・・・

「ふりかえれば、スカだった」

周りの人のことを語っていたかもしれないが、結局は自嘲であったかもしれない。
このような厭世的なニヒルな物言いは、(自称)作家としては当然のことかもしれない。

確かに誰もが何らかのキャッチコピーを求めているのは事実だ。アイデンティティと言い換えてもよいと思う。

人はつまるところ、火葬であれば灰となってしまう。そうすればアタリもスカもなく、死に臨んで無があるのみかもしれない。

「ふりかえれば、スカだった」

親父は成功者とはいえないはずなので、比較にはならないが、成功者が晩年そのように発言すれば、何となくその言葉の裏になにかありそうで、とても深みがあるような響きではある。

雄吉は目の鱗が落ちた・・・

2015-01-15 21:41:33 | 小説
雄吉は目の鱗が落ちたという比喩に適う両眼を、英次が妙に恐ろしい気がしたのでその風にばかり当てて行ったのだ。望んだ時がき、初めに喜び過ぎて面くらってしまったようである。が英次は何の頓着もせず、肩を接していて、親の緩慢な歩みを気づかうくらいだった。さらに英次は確かにこうも加えた。暗い舗道を街灯の必要を、それから今日の記憶を、物質性よりも精神性の大事さを。唖然と行く雄吉の尻目にしていうことは、妙子が知ればどうなることだろうかと雄吉の心配を、無論嬉々として舞わせながら、雄吉に要らぬ心使いをさせたくないと目の色に染めていて、何にもこだわらずに、
「話せる親子で、いつまでもいましょうよ」
「そうだな。車の話を楽しみにしている」
雄吉は涙が滲むと、妙子のことだ・・・・・・「今日の英次に、おかあさんは動転してしまうから」
「どうしてでしょう」
「あんまり仲のいいところを見るから」
「嫉妬して?」
「まさか」
と雄吉はそっくりの笑顔を見せあった。

(つづく)

今日、子供の日の黄昏時・・・

2015-01-14 20:47:08 | 小説
今日、子供の日の黄昏時、雄吉の期待を背中に向けて、英次のリュックを見ない濃紺のそこは、幾分雄吉の目に心強く映るのだった。居住区に向く路上の明かりが消えて行く。ものをたわいもなくいったのは父の方で子といっても三十五歳の子の沈黙に期待を寄せた。寄せたがるのだが雄吉の目には、いつもの妙子が浮かびかけている。住宅街特有の臭気を嗅ぎつけていて、雄吉の気が緩みかけていた時である。道筋の前栽にもう初夏の微風が爽やかな夜風となり、心を撫でて渡る時、英次の笑顔がひょいとふる返って、
「おとうさん」
といって、パパといわずに雄吉を一息に戸惑わせて驚かす。「公園では今日いろんなことがあってね。おとうさんがいつかよく戦争の話を聞かせてくれただろう。戦争は好きじゃない、けどもあの話のおかげかも知れないのです。あの車を見た時に・・・・・・」
「あの車?」と確かに状態の変化を知る父親。
「ええ、後で詳しくお話しますが、とにかく頭の中の霧が晴れて行くような感じだった。それはさておいて、おとうさん、ぼくはもう大丈夫みたいなんです。今日までの間、ありがとうございましたといわせてください。おかあさんにも。まだ少々頭が混乱しています」
と英次は淀みなく話していた。夜風が雄吉の白髪や肌に優しい。

(つづく)

英次の前方に出て・・・

2015-01-13 18:36:09 | 小説
英次の前方に出て眺めたがっている、白髪頭に思いつくのは、英次の幼い時分の、秀才の父の子は秀才に決まったものなのだから勉強しろといった文句を、今思い出を装って、軽くいって見ようか。試すのも息子に悪い気もするが。しかし。
「英次」
と親しみをこめて肩口に指先を当てる。
「どうもネアカのパパなので、英次が毎日公園に出かけた後、こう考えていた。頭のよい子だったのだし、英次は、今日こそ立ちなおる、いやさぞ立派な仕事をして帰るんだ・・・・・・がついその裏でな・・・・・・」
今では安堵しながらいた始末でな・・・・・・。そうしてから雄吉は、店舗の明かりを背にする英次を見て行った。公園の英次に今日何事かがあったのは事実のようだった。

そのバス停から小沢家へと住宅街を通って行く。その道は五年近く、英次に従って行く雄吉を見た、黄昏時であって、英次がたわいなくものをいい、雄吉が沈黙を一方的に強いられていた。それは旅行帰りの児童と父親のような風景、日々に繰り返していたものだった。・・・・・・

(つづく)

町内の者が二、三人・・・

2015-01-12 22:30:06 | 小説
町内の者が二、三人帰宅を急ぐが、皆余所よそしくて余所よそしく接していた。見慣れた風景がすらすら推移のは無事な証拠さ。そのような言葉が、<地図>の殺人犯の妹に対した言葉がなぜか浮かび、雄吉を落ちつかせた。「英次、ご苦労だったね。おかえり」英次・・・・・・と。・・・・・・黙って俯き勝ち息子に変化は?。
肩を並べて、父子は仄暗くなった道にくる。
「うん。何か知ら今日は面白かったんだよ」
と英次はスーパー・マーケットの角をみつめる。住宅街へと珍しく雄吉を一歩後ろにしてそういうのだ。それは雄吉にこういわせた。
「面白かったんだって?」
そういえばリュックを手に提げる英次は、雄吉の目に初めてのことなのだし、そういって踊る胸であり、雄吉はできるなら英次の頭の中を覗いて見たい衝動にかられる。暇な時間帯にあるスーパー・マーケットのだだっぴろい店内から、不夜城のような照明で父子を浮き立たせていた。

(つづく)