ネット国民アンケートには救済を求める投稿の他、様々な意見が大量に集まってきた。
それらはAIによって内容別・案件別等に分類され、ファイリングされる。
そして要望の多い順にアンケート議題に上り検討、投票された。
第四代平助内閣組閣当初から、ある案件が検討されていた。
それは日本の宝であり、対外イメージを爆上げした功労者である『アニメコンテンツ』。
そのテーマパークである。
だがアニメコンテンツはインバウンド需要を満たす稼ぎ頭であるのに、今まで政治の世界では見向きもされてこなかった。誠に奇妙な事である。
日本の誇るアニメ文化。この分野でも誰かに忖度してきたのか?
もしかしてアメリカが誇るウオルト・ディズニーの作ったディズニーランドに?
はたまたこちらもアメリカは誇るハリウッド映画のユニバーサルスタジオが作ったUSJに?
どちらもアメリカ資本だから、疑念が晴れる事は無いだろう。
でも時代はネット政府に代わり、アメリカからの従属状態から脱却する途上にある日本。
独立独歩の道を歩む旗頭として、相応しいテーマと云えた。
あらゆる老若男女から高い支持を受け、外国人からも要望が多いアニメの殿堂テーマパークの建設は、ある意味悲願とも言える。
ただ、今まで構想さえ表面化されなかったのは、誰も音頭取りをしてこなかったため。
巨額の資金を要し、コンセプトの設定、用地の選定と取得、プロジェクト・リーダーを誰にするか?主要な交通手段をどうする?など、乗り越えなければならない問題が山積みだったから。
公的な目的(例:国際会議場や競技場等)とは言えない施設、アニメに目的を絞った殿堂テーマパークを称するのだから、国や自治体主導はそぐわない。
あくまで有志を募り、民間主導で進めるべきとの固定観念が邪魔をし、プロジェクトを立ち上げる事を妨げてきた。
しかし機は熟している。今を置いて他に実現の機会はないだろう。
そうした経緯と社会の空気が後押しし、政府主導のプロジェクトを立ち上げる事に成功した。
元々この国は一部の国民の反対を押し切りオリンピックや、万博や何やらを開催、巨額の税金を投資し無駄に費やしてきた。
お祭り騒ぎの後は記録と記憶の他、何も残らなかったのに。
無神経に税金を無駄遣いできた旧政府。
それなのに日本の至宝を生かそうとしない伝統は、将来にために必須なエネルギー開発や先端技術の育成や主要産業保護を故意に怠ってきた無能で国賊的怠慢体質が証明していた。
だが、一発勝負のオリンピックや博覧会を実現させる力は健在だったのだから、それをテーマパークプロジェクト発足に尽力する事など、造作もない筈。
実際、現在のネット政府がアンケートの結果、音頭取りをしプロジェクト委員会を発足させ、実現に大きく寄与している。
しかもこのテーマパークは、一定の期間限定開催ではなく、恒久施設として建設する計画である。
では建設にかかる費用の捻出は?
旧政府の政治献金の資金源になる程、潤沢な財力を持つ財界・経済団体から湯水の如く資金を募り、イザという時の出資資金に対し政府が補償するという、いわば実質政府がバックの一大プロジェクトになった。
建設地は?
当初、立地条件として集客が容易な人口密集地域である、関東と関西の中間地点、静岡県が候補地となった。
静岡県はリニアモーターカーと、新幹線の通過地点。
それまでなにを思ったか、リニア建設に頑強に反対し、妨害工作に明け暮れた〇勝知事が退陣して以降一気に建設が進み、平助の代になりようやく開通の見通しがついたのも、有力候補地とした要因となった。
そのため、候補地は二か所。
新幹線沿線に近い伊豆方面と、リニア沿線に近い内陸。
今現在は広大な用地を必要とする関係で、リニア沿線の内陸の用地取得が容易である状況を活かし一歩リード、優位に立っている。
それに対し、新幹線沿線候補地は海の幸特産の強みを生かし、巻き返しを図った。
どちらも国際的に知られた日本のシンボルの景勝地、『富士山』を背にした立地では共通する。
平助内閣は、これらの条件を集約し、国民に新たな判断材料を提供、判断を仰ぐための準備を進めていた。
アニメパークのコンセプト。
日本アニメの黎明期『凸坊新書帖 芋助猪狩の巻』(1917)『桃太郎の海鷲』(1943)『桃太郎 海の新兵』(1945)など桃太郎シリーズ等を網羅した短編・長編の独立上映館パビリオン。
その他、テレビアニメスタート時の世界的大ヒット作『鉄腕アトム』(1963)放映以降、テレビアニメの第二黎明期が始まり、『鉄人28号』(1963)『オオカミ少年ケン』(1963)『エイトマン』(1963)『0戦はやと』(1964)『風のフジ丸』(1964)『ビッグX』(1964)『オバケのQ太郎』(1965)『ジャングル大帝』(1965)『おそ松くん』(1966)『レインボー戦隊ロビン』(1966)『魔法使いサリー』(1966)『サイボーグ009』(1968)等、この場に紹介できない程、数えきれない超人気作品が溢れた、時代ブース別パビリオン。
それ以降の『宇宙戦艦ヤマト』(1974)シリーズ、『機動戦士ガンダム』(1979)、『新世紀ヱヴァンゲリヲン』(1995)(映画版含む)『ルパンⅢ世』(1971)などの他、実写・アニメ映画ヒーローの『ゴジラ』(1954)シリーズ、『太陽の王子ホルスの大冒険』(1968)制作メンバーが『風の谷のナウシカ』(1984)を経てスタジオジブリ設立、それ以降『となりのトトロ』(1988)など一連の作品群などの独立パビリオンにて、迫力ある3D映像を駆使した演出を売りにする計画を発表している。
この場では紹介しきれない程たくさんのアニメコンテンツがあるが、それら大小100をゆうに超える常設パビリオン・ブースだけでなく、その作品の世界を再現した街並みや、ジェトコースターなどの遊具。更に人気アトラクションを多数散りばめるなど、ディズニーランドやUSJに負けず、むしろ大きく上回る巨大施設として立ち上げる計画をぶち上げた。
日本と云えば、代表的な施設は『アニメテーマパーク』と強く印象づけるような、訪れた人に夢と希望を等しく与える事をコンセプトにした、超大型プロジェクトである。
さらに言えばこの巨大施設の周辺には、どちらの候補地も温泉歓楽街を有し、宿泊インフラは整備されている。
こちらはゼロからの建設の必要はなく、新たな集客の結果、不足する分を新たに建設すれば良い。
海外からのインバウンドに対する評価について、日本を現わす特徴として、
・美しい四季の移ろい、景勝地や神社・仏閣などの施設など、見るべき観光地が多い。
・『おもてなし』文化が根付いている。
・治安が良い。
・トイレがきれい。
・人が親切。
などで高い評価を受け、【行ってみたい国】第一位の人気を誇っている。
それら全ての評価の特徴を全部併せ持ったテーマパーク建設は、今後の発展シンボルとして国策事業と云える。
やらない理由など無いのだ。
だからそのプロジェクト始動に平助内閣が深く関わった事で、一般国民のみならず、特に閣内を含めたネット政府第四代世代全体のアニメ好きな面々が、飛び上がるように喜び沸き立った。
平助は言った。
「近いうち建設候補地視察を目的に、実際の場所に行ってみたいな。」
それを聞いた鯖江がすかさず口を挟む。
「 公費を使って行くのはダメよ!公私を弁えなさいね。
自分の欲を叶えるために税金を使うなんて以ての外!職権乱用ですからね!」
「別に公費で視察なんて言ってませんよ。
最近多忙だったから、静養を兼ねて温泉旅行でもしたいな、って思っただけです。もちろん自腹でね。」
「それなら問題ないでしょ。
でもね、前回の日帰りバス旅行の件もあるし、国民に誤解されるような行動は慎まないといけませんよ。
あくまであなたは公の立場にある、総理大臣なんですからね。」
ヤッパリ鯖江はお目付け役のカエデより厳しい存在だな、と思った。
そのカエデだが聞いた途端、一も二も無く賛成する。
「良いわねぇ~!私も絶対行きたいわ!行く!行く!是非そうしようよ!」
これを聞いた平助はその助平な本性から、何か良からぬ考えが浮かび、ニンマリする。
その微かで邪まな表情の変化に、敏感に気づいたエリカもすかさず、
「そうね、少人数のプライベートグループで私的な視察ぐらいなら、してもいいと思うわ。」
心の中で(チェッ!ふたりじゃないの?)と思った平助。
ホントはカエデと二人きりで行きたいと思ったのに。
エッ!二人で温泉に宿泊旅行?若い独身男女だけで?
何と邪まで邪悪な、平助らしい発想!
エリカの発言によって、その企ては阻止された。
と云うかこの発言は、エリカの企ての始動ともいえる。
そうした訳で平助、カエデ、エリカ、田之上、SPの杉本、何故かおばちゃんの鯖江まで公休を取り、この二泊旅行についてきた。
くどいようだが、あくまで自費で。
現地に到着するや否や、同行した男衆と真っ直ぐ温泉につかり平助は、
「いい湯だなぁ~」と鼻歌交じりに景色を眺めた。
そしてその夜はもちろん海の幸、山の幸と素晴らしい景勝を堪能し、楽しいひと時を過ごし、親交を深める・・・・ハズだった。
エッ?候補地選定の視察じゃないの?
そんな目的、はなからどっかに吹っ飛んでいた。
誰もその事に触れることなく楽しんでいる。
そんな事で良いのか?
知らん。
二日目の夕方、温泉に浸かった平助が一足先に湯から出てくると、脱衣所外にカエデが居た。
「あら、平助、早かったのね。
私も今出たところ。ここのお湯は肌にも良いんだって。」
髪がまだ完全に乾いていないカエデの白いウナジを見て、ゾク!とする平助。
ふたりで窓の外の夕日を眺めていた。
暫くして女湯と男湯からガヤガヤと残りの面々が出てきて、
「何だ!平助さん、居ないと思ったらこんな所で逢引?何だか油断も隙もないなぁ~、ダメですよ、身勝手なスタンドプレーは!」
杉本の言葉に他のメンバーも同調する。
「ヤダなぁ~、逢引なんて!そんな訳無いっしょ!湯に当たりそうだったから早めに出て来たら、そこに偶然カエデがいただけですよ。
ただ皆が出て来るの、ふたりで待っていただけですから。
ほら、コーヒー牛乳、美味しいですよ、皆で飲みましょう!」
平助の取り繕いの言葉に騙される残りのメンバーだが、エリカただ一人騙されない。
ジトォ~とした目で平助を睨み、
「私ももう少し早く出てくれば良かったなぁ~。」
と言って田之上の腕をとり、
「さあ夕食よ!今夜は山の幸だったかしら?楽しみね!」と部屋の方向に歩き出す。
突然のことで戸惑う田之上を、お構いなく引っ張るエリカ。
一同唖然とするが、これはエリカの作戦?
楽しい夕食も微妙な空気が流れていた。
そしてその空気は、旅行が終わり日常業務に戻っても変わらず続く。
あれ?くどい様だけど、テーマパークは?
やはり知らん。
つづく