2020年3月25日(水)
今日は、先日、オトウトたちに渡した、チチの思い出のエッセイを・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「父の遺してくれた暮らしの品々」
令和元年の十二月三十日朝、私は、リビングのテーブルで、ゆっくりと
紅茶を飲んでいた。令和となった今年、様々な儀式を、国際情勢の緊迫を
テレビで追い、また台風の急襲、あるいは、チャレンジ中のダンス競技会では
連戦連敗と、次から次へと追い立てられるような日々だった。
今、溜まった疲れを感じながら見回すリビングは、雑然としている。
窓際のスペースを占めているのは、三台のキャスター付きハンガーラックだ。
生乾きの洗濯物をエアコンで乾かすという出番が来ると、隣の寝室から、
ガラガラと引いてくる。一メートルの高さの黄色いラックには、小物干しを引掛け、
一メートル四十センチも高さのある銀色の二台には、バスタオルを広げる。
三つとも満艦飾だ。このマンションに越してきて五年半、ハンガーラックは、
ますます役に立ってくれているが、もともとは、亡くなった父の遺してくれた品なのだ。
実は、十一年前に亡くなった父の、形見というほどでもない暮らしの小物類は、
このマンションの部屋のあちこちにある。
父は、生活に便利な小物が好きだった。ワインボトルの頭に取り付け、両側の
小さな翼のような梃子を上下に動かすとコルクが上がってきて、ポンと抜ける
コルクオープナーに、子供のころの弟や私は、ワクワクした。
コルクを開ける物の要るようなワインより缶チューハイとなってしまって、
コルクオープナーは、もうほとんど出番が無いけれど、ちゃんと、うちのキッチンの
引き出しに潜んでいる。
リビングの壁際に並んでいる二つの、昭和を思わせる重々しい木製の本棚も、そうだ。
十年前、その中に入っていた大量の父の本のうち、
専門書籍類は、専門を同じくする弟が引き取った。
専門書籍以外の歴史シリーズものなどは図書館へ、それ以外の古い本は古紙回収へ、
残りの書類や製本が緩んでしまった本などは、燃えるゴミの日に私が出した。
二階から階段で運ぶには、こちらの腰が持たないと、ベランダから庭に敷いた
ブルーシートの上にド~ン、ド~ンと投げ下ろした山のような本の音は、
耳の奥に残っている。
今では、ガラスの扉の中には私の愛読書、そして、エッセイサークルの会誌が、
穏やかに並んでいる。私には大切な本だが、私だけとの繋がりの物なのだ。
私の後の整理のことは、娘に任せよう。
ガラスの扉の付いていない方の本棚は、写真棚となり、息子や娘の結婚式の写真や、
四人の孫たちの写真で、いっぱいとなっている。
一人暮らし、誰に遠慮はいらないと、私が黄色いドレスを着てダンスの先生と
ダンスのポーズを取っている写真も、端の方に並べてある。
午後には、娘が孫たちを連れて正月の帰省に戻ってくるのだから、そろそろ動き始めよう。
まずは、ハンガーラックに掛かっている洗濯物を畳まなくては。
なんだか一年の疲れが出てきたようで、もうテキパキとは動けないけれど、
テレビを見ながら手を動かしていった。
もうすぐ、黄色いほうのラックには、アヤやチカの小さくカラフルなコートが掛かるから、
それはリビングに残し、銀色のほうのラックは、寝室へ戻した。
明日からは、こちらにも沢山の小さな洗濯物を干さなくてはならないけれど、
取り敢えずは、娘たちを迎えるスペースを作ろう。
ハンガーラックを隣の寝室へ押して行くと、かつてのある日、父と母が
ホームセンターにハンガーラックを見繕いに行き、
「これこれ、このキャスター付きの頑丈なラックが良いぞ」
と、上機嫌で選んでいたであろう父が思い浮かぶ。しゃがみ込んでキャスターを
確かめながら、母を見上げていた姿までも……。
すっかり気が回らなくなったけれど、アヤたちへのお菓子も買ってこなくては。
私は、買い物に出掛けるために、茶色のダウンコートの襟元をマフラーでしっかり覆った。
これも、父の愛用したマフラーだ。緑色をしたチェック柄のスコットランドのカシミアは、
私の首筋を柔らかく包んでくれた。
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オリンピックが、延期になったし、夜には、小池東京都知事が、感染爆発の瀬戸際に
あるという発表を行った。
え、え~、ついに・・。
こちらは、千葉県民。他人事じゃないわと、どきどき。
なんとか、じ~っとして、2020年を乗り越えていかなくちゃ・・。
今日は、先日、オトウトたちに渡した、チチの思い出のエッセイを・・・
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「父の遺してくれた暮らしの品々」
令和元年の十二月三十日朝、私は、リビングのテーブルで、ゆっくりと
紅茶を飲んでいた。令和となった今年、様々な儀式を、国際情勢の緊迫を
テレビで追い、また台風の急襲、あるいは、チャレンジ中のダンス競技会では
連戦連敗と、次から次へと追い立てられるような日々だった。
今、溜まった疲れを感じながら見回すリビングは、雑然としている。
窓際のスペースを占めているのは、三台のキャスター付きハンガーラックだ。
生乾きの洗濯物をエアコンで乾かすという出番が来ると、隣の寝室から、
ガラガラと引いてくる。一メートルの高さの黄色いラックには、小物干しを引掛け、
一メートル四十センチも高さのある銀色の二台には、バスタオルを広げる。
三つとも満艦飾だ。このマンションに越してきて五年半、ハンガーラックは、
ますます役に立ってくれているが、もともとは、亡くなった父の遺してくれた品なのだ。
実は、十一年前に亡くなった父の、形見というほどでもない暮らしの小物類は、
このマンションの部屋のあちこちにある。
父は、生活に便利な小物が好きだった。ワインボトルの頭に取り付け、両側の
小さな翼のような梃子を上下に動かすとコルクが上がってきて、ポンと抜ける
コルクオープナーに、子供のころの弟や私は、ワクワクした。
コルクを開ける物の要るようなワインより缶チューハイとなってしまって、
コルクオープナーは、もうほとんど出番が無いけれど、ちゃんと、うちのキッチンの
引き出しに潜んでいる。
リビングの壁際に並んでいる二つの、昭和を思わせる重々しい木製の本棚も、そうだ。
十年前、その中に入っていた大量の父の本のうち、
専門書籍類は、専門を同じくする弟が引き取った。
専門書籍以外の歴史シリーズものなどは図書館へ、それ以外の古い本は古紙回収へ、
残りの書類や製本が緩んでしまった本などは、燃えるゴミの日に私が出した。
二階から階段で運ぶには、こちらの腰が持たないと、ベランダから庭に敷いた
ブルーシートの上にド~ン、ド~ンと投げ下ろした山のような本の音は、
耳の奥に残っている。
今では、ガラスの扉の中には私の愛読書、そして、エッセイサークルの会誌が、
穏やかに並んでいる。私には大切な本だが、私だけとの繋がりの物なのだ。
私の後の整理のことは、娘に任せよう。
ガラスの扉の付いていない方の本棚は、写真棚となり、息子や娘の結婚式の写真や、
四人の孫たちの写真で、いっぱいとなっている。
一人暮らし、誰に遠慮はいらないと、私が黄色いドレスを着てダンスの先生と
ダンスのポーズを取っている写真も、端の方に並べてある。
午後には、娘が孫たちを連れて正月の帰省に戻ってくるのだから、そろそろ動き始めよう。
まずは、ハンガーラックに掛かっている洗濯物を畳まなくては。
なんだか一年の疲れが出てきたようで、もうテキパキとは動けないけれど、
テレビを見ながら手を動かしていった。
もうすぐ、黄色いほうのラックには、アヤやチカの小さくカラフルなコートが掛かるから、
それはリビングに残し、銀色のほうのラックは、寝室へ戻した。
明日からは、こちらにも沢山の小さな洗濯物を干さなくてはならないけれど、
取り敢えずは、娘たちを迎えるスペースを作ろう。
ハンガーラックを隣の寝室へ押して行くと、かつてのある日、父と母が
ホームセンターにハンガーラックを見繕いに行き、
「これこれ、このキャスター付きの頑丈なラックが良いぞ」
と、上機嫌で選んでいたであろう父が思い浮かぶ。しゃがみ込んでキャスターを
確かめながら、母を見上げていた姿までも……。
すっかり気が回らなくなったけれど、アヤたちへのお菓子も買ってこなくては。
私は、買い物に出掛けるために、茶色のダウンコートの襟元をマフラーでしっかり覆った。
これも、父の愛用したマフラーだ。緑色をしたチェック柄のスコットランドのカシミアは、
私の首筋を柔らかく包んでくれた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オリンピックが、延期になったし、夜には、小池東京都知事が、感染爆発の瀬戸際に
あるという発表を行った。
え、え~、ついに・・。
こちらは、千葉県民。他人事じゃないわと、どきどき。
なんとか、じ~っとして、2020年を乗り越えていかなくちゃ・・。