労基法37条所定の残業代(割増賃金)算定の基礎となる労基法上の労働時間は,どのような時間のことをいうのですか。
労基法上の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます(三菱重工業長崎造船所事件最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決)。
労基法上の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます(三菱重工業長崎造船所事件最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決)。
所定労働時間が7時間の事業場において,1日8時間までの時間帯(1時間分)の法内残業については,強行的直律的効力(労基法13条)を有する労基法37条の規制外ですので,使用者には労基法37条に基づく残業代 (割増賃金)の支払義務はなく,法内残業分の残業代を支給する義務が使用者にあるかどうかは,労働契約の解釈の問題であり,就業規則や個別合意に基づく残業代請求が認められるかどうかが検討されることになります。したがって,法内残業については,就業規則や個別合意で明確に定めることにより,残業代を支給しない扱いにすることもできることになります。
もっとも,「労働契約は労働者の労務提供と使用者の賃金支払に基礎を置く有償双務契約であり,労働と賃金の対価関係は労働契約の本質的部分を構成しているというべきであるから,労働契約の合理的解釈としては,労基法上の労働時間に該当すれば,通常は労働契約上の賃金支払の対象となる時間としているものと解するのが相当である」(大星ビル管理事件最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決)と考えるのが一般的ですから,法内残業時間の賃金額について何の定めもないからといって,直ちに賃金を支払わなくていいことにはなりません。法内残業時間の賃金額に関する明示の合意がない場合は,割増をしない通常の労働時間の賃金額を支払う旨の黙示の合意があるものと解釈して賃金額を計算すべきことになるのが通常です。行政解釈でも,「法定労働時間内である限り所定労働時間外の1時間については,別段の定めがない場合には原則として通常の労働時間の賃金を支払わなければならない。但し,労働協約,就業規則等によって,その1時間に対し別に定められた賃金額がある場合にはその別に定められた賃金額で差支えない。」とされています(昭和23年11月4日基発1592号)。
仮に,法内残業時間の残業代を不支給にしたり,通常の労働時間の賃金よりも低い金額にしたりする場合には,明確にその旨を合意するなどして,労働契約の内容としておくべきでしょう。
労基法32条2項は「使用者は,1週間の各日については,労働者に,休憩時間を除き1日について8時間を超えて,労働させてはならない。」と規定し,1日8時間を超えて労働させた時間は時間外労働になり,残業代 (時間外割増賃金)の支払が必要になります。では,残業時間が深夜0時を超えた場合,同じ「1日」の残業として扱うべきなのか,それとも日付が変わったことから別の「1日」の労働時間として扱うべきなのでしょうか?
行政解釈では,「1日」とは,原則として,午前0時から午後12時までのいわゆる暦日を意味するが,継続勤務が2暦日にわたる場合には,たとえ暦日を異にする場合でも一勤務として取り扱い,当該勤務は始業時刻の属する日の労働として,当該日の1日の労働とする(昭和63年1月1日基発第1号・婦発第1号)ものとされています。長時間労働を抑制しようとする労基法32条,37条1項の趣旨からすれば,残業時間が深夜0時を超えた場合に残業時間が継続すると解釈せざるを得ないものと思われます。
もっとも,翌日の始業時刻からは新たな所定労働時間が開始しますので,時間外労働となるのは翌日の始業時刻までです。行政解釈でも,「翌日の所定労働時間の始期までの超過時間に対して,法第37条の割増賃金を支払えば法第37条の違反にはならないとされています(昭和26年2月26日基収3406号,昭和63年3月14日基発150号,平成11年3月31日基発168号)。
特例措置対象事業場については,日曜日を法定休日として月~土に1日9時間ずつ労働させた場合,土曜日に4時間を超えて労働し始めた時点から週44時間超の時間外労働時間となります。
1日8時間を超えて労働させた時間については,1日ごとに時間外労働としてカウントされていますので,週44時間を超えて労働させた時間には重複してカウントしません。
日曜日 法定休日
月曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
火曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
水曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
木曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
金曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
土曜日 9時間(時間外労働5時間)←週44時間超
労基法32条1項の「1週間」がいつからいつまでの1週間を指すのかは,労働契約の解釈により認定されるべき問題です。したがって,就業規則等により「1週間」の始期が明らかな場合は,特段の事情がない限り,その曜日からの1週間を指すことになります。
他方,就業規則等において別段の定めがなく,労働契約上,「1週間」の始期が明らかでない場合は,「1週間」は「日曜日から土曜日まで」(歴週)を意味すると解釈されるのが通常です(昭和63年1月1日基発第1号・婦発第1号参照)。
小規模事業場の労働時間の特例が適用される事業場では,1週間につき44時間を超えて働かせた時間についてだけ残業代 (時間外割増賃金)を払えばよく,1日8時間を超えて働かせても残業代(時間外割増賃金)を支払わなくてもよいと誤解されていることがありますが,小規模事業場の労働時間の特例は,週当たりの40時間の労働時間規制を緩和するものに過ぎません。
小規模事業場の労働時間の特例が適用される事業場であっても,1日当たりの労働時間は8時間が上限とされていますので,1日8時間を超えて働かせた場合には時間外労働となり,残業代(時間外割増賃金)の支払が必要となります。
労基法施行規則25条の2は,小規模事業場における労働時間の特例を定めており,
① 物品の販売,配給,保管若しくは賃貸又は理容の事業
② 映画の映写,演劇その他興行の事業
③ 病者又は虚弱者の治療,看護その他保健衛生の事業
④ 旅館,料理店,飲食店,接客業又は娯楽場の事業
のうち,常時10人未満の労働者を使用するもの(特例措置対象事業場)
については,労基法32条の規定にかかわらず,1週間については44時間,1日については8時間まで労働させることができるとしています。
特例措置対象事業場についても,1日8時間を超えて労働させた場合には時間外労働となりますが,1週間については40時間を超えて労働させても時間外労働とはならず,44時間を超えて労働させて初めて時間外労働となります。
したがって,1週間については44時間を超えて労働させて初めて,残業代 (時間外割増賃金)の支払が必要となります。
日曜日が法定休日の企業において,月曜日~土曜日に9時間ずつ労働させた場合,月~木に9時間×4日=36時間労働させているから金曜日に4時間を超えて労働した時間から週40時間超の時間外労働になると考えるのではなく,月~金に1時間×5日=5時間の時間外労働のほか8時間×5日=40時間労働させているから土曜日の勤務を開始した時点から週40時間超の時間外労働となると考えることになります。
日曜日 法定休日
月曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
火曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
水曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
木曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
金曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
土曜日 9時間(時間外労働9時間)←週40時間超
1日8時間を超えて労働させた時間については,1日ごとに時間外労働としてカウントされていますので,週40時間を超えて労働させた時間には重複してカウントしません。
1日8時間を超えて労働させた時間だけでなく,週40時間(特例措置対象事業場では週44時間)を超えて労働させた時間も,原則として時間外労働時間に該当することになります。
1週間当たり5日までの勤務であれば問題は生じませんが,週6日以上労働させた場合は,この規制との関係が問題となります。