就職活動本格化 “3割が被害” 就活セクハラ 対策は 【QAで】 NHK 2025年3月1日 15時55分
来年春に卒業する大学生の就職活動が3月から本格的に始まりました。厚生労働省の調査では、就活生のおよそ3割が「セクハラを受けた」と答えていて、企業の就活セクハラ対策が求められています。
記事後半で詳しい調査結果や専門家に聞いた背景や企業に求められる取り組みについて【Q&A形式】でまとめています。
来年春に卒業するいまの大学3年生の就職活動は、政府が決めたルールで企業による学生への説明会が3月1日から始まり、本格化しています。
就職活動をめぐっては就活生に対して企業の担当者などからのセクシャルハラスメント、いわゆる「就活セクハラ」が問題になっています。
厚生労働省の調査 “セクハラ受けた” 約3割
厚生労働省が2020年度から22年度の間に大学や専門学校などを卒業した1000人を対象にした調査では、インターンシップ中やそれ以外の就職活動中にセクハラを受けたという人がおよそ3割に上りました。
一方、同じ調査で企業に対策を尋ねたところ、回答した7700社あまりのうち「特にない」が最も多く53.0%でした。
就活セクハラの被害を防ぐため、厚生労働省は企業に対して
▽就職活動中の学生と面談する場合のルールなどをあらかじめ定め、
▽相談に応じる体制を整備し周知する
といった措置を義務づける方向で検討していて、いまの通常国会に法律の改正案を提出する方針です。
被害に遭わないよう 大学は学生に注意を呼びかけ
就職セクハラの被害に遭わないよう、大学では学生たちに注意を呼びかけています。
このうち、都内の大学のキャリアセンターでは、就活生を対象にしたガイダンスの中で、
▽夜遅い時間の訪問や飲酒を伴う会合への参加を避けて、
▽企業の担当者やOBとLINEなど個人の連絡先を交換せず、やりとりは大学のメールアドレスで行うよう指導しています。
さらに▽「私と仲良くすれば選考で有利になる」とか「家に来てもらえば詳しい資料を見せる」などのことばを信じないよう伝えています。
キャリアセンターの担当者は「飲酒を伴うと人によってはめいていして不必要な接触などが起こる可能性もある。ガイダンスなどで伝えたことをしっかりと守ってほしいですし、もし何かあった場合は、すぐにキャリアセンターや家族に相談してほしい」と話していました。
この大学に通う3年生たちも企業が対策を取るよう求めています。
このうち、出版会社への就職を目指す学生は「就活セクハラと思われるようなことがあったときには、大学などしかるべき所に相談しに行きたいと考えています。企業もどういった対策をしているのか具体的に伝えて頂けると安心感があると思います」と話していました。
また、別の学生は「OB訪問などでのハラスメントは結構あるのかなと思います。1対1の場面でハラスメントが起きないよう社内で全体に呼びかけてほしいです」と話していました。
そして、インフラ関係の企業に就職を希望する学生は「イメージのいい企業と悪い企業ならば、絶対にいい企業に就職したいと思うし、志望度も強くなる。企業にはコンプライアンスを意識していると発信してほしいです」と話していました。
企業側も対策に注力
就活セクハラを防ぐため企業側も対策に力を入れています。
このうち、大手生命保険会社の住友生命は、原則として学生からのOB・OG訪問を受け付けていません。その代わり、学生と会うのは会社が任命した入社10年目前後を中心としたリクルーターおよそ200人です。
リクルーターにはハラスメント対策などを研修で伝えたうえで、オンライン形式での面談を基本とし、飲酒を伴う場のセッティングを禁止しています。
また、万が一のハラスメントに備えて、就活生向けの相談窓口を設けています。
リクルーターを務める入社10年目の男性は「われわれリクルーターは、年中、採用業務に関わっているわけではないので、ハンドブックを読み込み研修を受けることは非常に大事です。学生にとって私の一挙手一投足が、企業の印象につながると思いますし、人生の大事な一場面に立ち会わせていただいているという意識を持ち、1人1人と真摯(しんし)に向き合っていきたい」と話していました。
住友生命 リクルート推進室の酒井秀敏室長は「学生にとってOB・OG訪問は情報収集を行う上で有意義な手段だと認識していますが、OB以外でも、当社のやりがいや魅力を伝えることは十分可能だと考えています。就活生と接するリクルーターには1人1人が会社の代表だと伝えていますが、『代表である』という認識があれば、就活生の心理的な安全性を損なうような行為はしないと思います。学生の皆さんが安心して就職活動に臨むことができる環境を整えていきたい」と話していました。
どんな時に?どんな相談が?【Q&A形式で】
詳しい調査結果や専門家に聞いた背景や企業に求められる取り組みを【Q&A形式で】お伝えします。
Q.就活セクハラはどんな時に?
▽インターンシップ中のほか、
▽リクルーターと会ったとき、
▽内々定を受けた時や受けたあと、
▽SNSや就活マッチングアプリを通じて志望先企業の従業員とやりとりや相談などを行ったときなど、厚生労働省が去年公表した「職場のハラスメントに関する実態調査」ではさまざまな場面でセクハラを受けたと就活生が回答しています。
Q.被害は男女ともにあるの?
厚生労働省のこの調査では、インターンシップ以外の就職活動でセクハラを受けた人は男性で34.3%、女性で28.8%と、男性が女性よりも高い割合でした。
就活セクハラの詳しい調査結果(厚生労働省)
厚生労働省が去年(2024年)公表した「職場のハラスメントに関する実態調査」では、2020年度から22年度の間に大学や専門学校などを卒業した1000人を対象に、インターネットによるアンケート形式で就活セクハラについて調査した結果をまとめています。その中で、インターンシップに参加した758人のうち、インターンシップ中にセクハラを受けたと答えた人は30.1%に上りました。
また、インターンシップ以外の就職活動をしていた737人のうち、セクハラを受けたと答えた人は31.9%でした。
このインターンシップ以外の就職活動でセクハラを受けたという人の割合を男女別でみると▽男性で34.3%、▽女性で28.8%と、男性が女性よりも割合が高くなりました。
そして、どのような行為を受けたか複数回答で尋ねたところ、
▽「食事やデートへの執ような誘い」が33.2%と最も多く、
次いで、▽「性的な冗談やからかい」が28.9%、
▽「性的な事実関係に関する質問」が26.0%、
▽「不必要な身体への接触」が25.1%などでした。
さらに、セクハラを受けた場面を複数回答で聞くと
▽「リクルーターと会ったとき」が32.8%、
▽「内々定を受けたあと」が26.0%、
▽「内々定を受けたとき」と▽「SNSや就活マッチングアプリを通じて志望先企業の従業員とやりとりや相談などを行ったとき」がそれぞれ23.8%などとなりました。
Q.どんな相談が寄せられている?
ハラスメントの相談に応じる日本ハラスメント協会には、去年2024年、就活セクハラの相談が48件寄せられたということです。
具体的には、
▽「性的な冗談やからかい」が24件で最も多く、
▽「採用選考と関係のない個人的なことを尋ねられた」が10件、
▽「採用選考とは関係のない場面でのつながりを求められた」が5件、
▽「食事に誘われた」が4件などでした。
背景や企業に求められる取り組みは
ハラスメントの問題に詳しい成蹊大学法学部の原 昌登教授に就活セクハラが起こる背景や企業に求められる取り組みを聞きました。
Q.なぜ就活セクハラが起きるの?
「企業の担当者などから連絡先の交換をお願いされたり私的な誘いに誘われたりした場合、就活生は『嫌だな』と思っても採用選考で不利になっては困るという思いから、断れないこともあると思う。『その会社に入りたい』という気持ちが強いことにつけ込んでセクハラが起きていると考えられる。また、交際の状況や恋人についての質問や、『女性だから』『男性だから』と決めつける形の発言も相手を傷つける可能性がある」
Q.企業はどのような対策を取るべき?
「就活生に接するときの発言や行動についての周知啓発や研修が求められていると思う。また、会社によってさまざまな考え方ややり方はあると思うが、お酒を伴う席は設けないとか個人的な連絡先は共有しないなどの具体的なルールを作ることで、接する従業員も行動がしやすくなると思う」
Q.調査で3割の人が被害を訴える。対策は待ったなし。
「就活セクハラは被害に遭った就活生を傷つけることはもちろんですが、会社として『就活生の人権を大切にしない』ということにもつながる。ビジネスにおいても人権を尊重することが重要視される傾向は近年強いので、就活生を大切にしていくことは、社会にとって、とても良いアピールにつながると思う。法改正を待たずに取り組むことが望ましく、就活生が安心して会社を受験することができるようになれば、優秀な人材の獲得にもつながってくると思う」
来年春に卒業する大学生の就職活動が3月から本格的に始まりました。厚生労働省の調査では、就活生のおよそ3割が「セクハラを受けた」と答えていて、企業の就活セクハラ対策が求められています。
記事後半で詳しい調査結果や専門家に聞いた背景や企業に求められる取り組みについて【Q&A形式】でまとめています。
来年春に卒業するいまの大学3年生の就職活動は、政府が決めたルールで企業による学生への説明会が3月1日から始まり、本格化しています。
就職活動をめぐっては就活生に対して企業の担当者などからのセクシャルハラスメント、いわゆる「就活セクハラ」が問題になっています。
厚生労働省の調査 “セクハラ受けた” 約3割
厚生労働省が2020年度から22年度の間に大学や専門学校などを卒業した1000人を対象にした調査では、インターンシップ中やそれ以外の就職活動中にセクハラを受けたという人がおよそ3割に上りました。
一方、同じ調査で企業に対策を尋ねたところ、回答した7700社あまりのうち「特にない」が最も多く53.0%でした。
就活セクハラの被害を防ぐため、厚生労働省は企業に対して
▽就職活動中の学生と面談する場合のルールなどをあらかじめ定め、
▽相談に応じる体制を整備し周知する
といった措置を義務づける方向で検討していて、いまの通常国会に法律の改正案を提出する方針です。
被害に遭わないよう 大学は学生に注意を呼びかけ
就職セクハラの被害に遭わないよう、大学では学生たちに注意を呼びかけています。
このうち、都内の大学のキャリアセンターでは、就活生を対象にしたガイダンスの中で、
▽夜遅い時間の訪問や飲酒を伴う会合への参加を避けて、
▽企業の担当者やOBとLINEなど個人の連絡先を交換せず、やりとりは大学のメールアドレスで行うよう指導しています。
さらに▽「私と仲良くすれば選考で有利になる」とか「家に来てもらえば詳しい資料を見せる」などのことばを信じないよう伝えています。
キャリアセンターの担当者は「飲酒を伴うと人によってはめいていして不必要な接触などが起こる可能性もある。ガイダンスなどで伝えたことをしっかりと守ってほしいですし、もし何かあった場合は、すぐにキャリアセンターや家族に相談してほしい」と話していました。
この大学に通う3年生たちも企業が対策を取るよう求めています。
このうち、出版会社への就職を目指す学生は「就活セクハラと思われるようなことがあったときには、大学などしかるべき所に相談しに行きたいと考えています。企業もどういった対策をしているのか具体的に伝えて頂けると安心感があると思います」と話していました。
また、別の学生は「OB訪問などでのハラスメントは結構あるのかなと思います。1対1の場面でハラスメントが起きないよう社内で全体に呼びかけてほしいです」と話していました。
そして、インフラ関係の企業に就職を希望する学生は「イメージのいい企業と悪い企業ならば、絶対にいい企業に就職したいと思うし、志望度も強くなる。企業にはコンプライアンスを意識していると発信してほしいです」と話していました。
企業側も対策に注力
就活セクハラを防ぐため企業側も対策に力を入れています。
このうち、大手生命保険会社の住友生命は、原則として学生からのOB・OG訪問を受け付けていません。その代わり、学生と会うのは会社が任命した入社10年目前後を中心としたリクルーターおよそ200人です。
リクルーターにはハラスメント対策などを研修で伝えたうえで、オンライン形式での面談を基本とし、飲酒を伴う場のセッティングを禁止しています。
また、万が一のハラスメントに備えて、就活生向けの相談窓口を設けています。
リクルーターを務める入社10年目の男性は「われわれリクルーターは、年中、採用業務に関わっているわけではないので、ハンドブックを読み込み研修を受けることは非常に大事です。学生にとって私の一挙手一投足が、企業の印象につながると思いますし、人生の大事な一場面に立ち会わせていただいているという意識を持ち、1人1人と真摯(しんし)に向き合っていきたい」と話していました。
住友生命 リクルート推進室の酒井秀敏室長は「学生にとってOB・OG訪問は情報収集を行う上で有意義な手段だと認識していますが、OB以外でも、当社のやりがいや魅力を伝えることは十分可能だと考えています。就活生と接するリクルーターには1人1人が会社の代表だと伝えていますが、『代表である』という認識があれば、就活生の心理的な安全性を損なうような行為はしないと思います。学生の皆さんが安心して就職活動に臨むことができる環境を整えていきたい」と話していました。
どんな時に?どんな相談が?【Q&A形式で】
詳しい調査結果や専門家に聞いた背景や企業に求められる取り組みを【Q&A形式で】お伝えします。
Q.就活セクハラはどんな時に?
▽インターンシップ中のほか、
▽リクルーターと会ったとき、
▽内々定を受けた時や受けたあと、
▽SNSや就活マッチングアプリを通じて志望先企業の従業員とやりとりや相談などを行ったときなど、厚生労働省が去年公表した「職場のハラスメントに関する実態調査」ではさまざまな場面でセクハラを受けたと就活生が回答しています。
Q.被害は男女ともにあるの?
厚生労働省のこの調査では、インターンシップ以外の就職活動でセクハラを受けた人は男性で34.3%、女性で28.8%と、男性が女性よりも高い割合でした。
就活セクハラの詳しい調査結果(厚生労働省)
厚生労働省が去年(2024年)公表した「職場のハラスメントに関する実態調査」では、2020年度から22年度の間に大学や専門学校などを卒業した1000人を対象に、インターネットによるアンケート形式で就活セクハラについて調査した結果をまとめています。その中で、インターンシップに参加した758人のうち、インターンシップ中にセクハラを受けたと答えた人は30.1%に上りました。
また、インターンシップ以外の就職活動をしていた737人のうち、セクハラを受けたと答えた人は31.9%でした。
このインターンシップ以外の就職活動でセクハラを受けたという人の割合を男女別でみると▽男性で34.3%、▽女性で28.8%と、男性が女性よりも割合が高くなりました。
そして、どのような行為を受けたか複数回答で尋ねたところ、
▽「食事やデートへの執ような誘い」が33.2%と最も多く、
次いで、▽「性的な冗談やからかい」が28.9%、
▽「性的な事実関係に関する質問」が26.0%、
▽「不必要な身体への接触」が25.1%などでした。
さらに、セクハラを受けた場面を複数回答で聞くと
▽「リクルーターと会ったとき」が32.8%、
▽「内々定を受けたあと」が26.0%、
▽「内々定を受けたとき」と▽「SNSや就活マッチングアプリを通じて志望先企業の従業員とやりとりや相談などを行ったとき」がそれぞれ23.8%などとなりました。
Q.どんな相談が寄せられている?
ハラスメントの相談に応じる日本ハラスメント協会には、去年2024年、就活セクハラの相談が48件寄せられたということです。
具体的には、
▽「性的な冗談やからかい」が24件で最も多く、
▽「採用選考と関係のない個人的なことを尋ねられた」が10件、
▽「採用選考とは関係のない場面でのつながりを求められた」が5件、
▽「食事に誘われた」が4件などでした。
背景や企業に求められる取り組みは
ハラスメントの問題に詳しい成蹊大学法学部の原 昌登教授に就活セクハラが起こる背景や企業に求められる取り組みを聞きました。
Q.なぜ就活セクハラが起きるの?
「企業の担当者などから連絡先の交換をお願いされたり私的な誘いに誘われたりした場合、就活生は『嫌だな』と思っても採用選考で不利になっては困るという思いから、断れないこともあると思う。『その会社に入りたい』という気持ちが強いことにつけ込んでセクハラが起きていると考えられる。また、交際の状況や恋人についての質問や、『女性だから』『男性だから』と決めつける形の発言も相手を傷つける可能性がある」
Q.企業はどのような対策を取るべき?
「就活生に接するときの発言や行動についての周知啓発や研修が求められていると思う。また、会社によってさまざまな考え方ややり方はあると思うが、お酒を伴う席は設けないとか個人的な連絡先は共有しないなどの具体的なルールを作ることで、接する従業員も行動がしやすくなると思う」
Q.調査で3割の人が被害を訴える。対策は待ったなし。
「就活セクハラは被害に遭った就活生を傷つけることはもちろんですが、会社として『就活生の人権を大切にしない』ということにもつながる。ビジネスにおいても人権を尊重することが重要視される傾向は近年強いので、就活生を大切にしていくことは、社会にとって、とても良いアピールにつながると思う。法改正を待たずに取り組むことが望ましく、就活生が安心して会社を受験することができるようになれば、優秀な人材の獲得にもつながってくると思う」